sumikaにとってライブハウスは大事なことを確認できる場所 『Wonder Bridge』ツアー東京公演を振り返る
そんなハッピーなテンションはありつつも、今回のセットリストでは“沈黙”が意識的に取り入れられていたのも印象的だった。例えば、ライブの始まり方。今回はいつものような賑やかなSEはなく、暗転のなか、メンバーが静かに入場し、片岡の弾き語りからバラード「春夏秋冬」が演奏される、という緊張感あるオープニングだった。また、小川のボーカルから始まる「enn」では、一時暗転してから彼にスポットライトが当たる演出が。さらに片岡と小川の二重奏による「ゴーストライター」が始まる前にも暗転と数秒の沈黙があり、続く「まいった」でも、片岡が冒頭のカッティングを鳴らす前にタメを作っていた。
そうなったときに生じるのが、人知れず心の中で「わあ……!」と声を上げてしまうような、そういう種類の曲との対面である。開演前、今後の公演の来場者のために、SNSへの曲目・演出の投稿を控えるようアナウンスがあったが、あれはおそらく、事前情報のない状態で初めてその場で知るからこその“驚き”を損なわせたくなかったから。これも彼らが大事にしている生だからこその温度感に当てはまる部分だろう。
「人生を一瞬で変える。それができなかったらバンドマン失格だと思う」(片岡)と「「伝言歌」」では、片岡が歌の合間にも言葉を詰め込み、観客にギリギリまで伝え続けたほか、各楽器のフレーズ一つひとつにも溢れるほどの主張が感じられた。それに対し、バンドが演奏を止めてシンガロングのみになる2番のサビでは、曲を預けられた観客が特大のシンガロングで応えた。「あなたが何をしている人なのかは目を見ただけでは僕には分からないですけど、あなたにもきっと譲れないものがあって、それは僕らも一緒です。次会うときどんな表情で再会できるのか、楽しみにしてます。次会ったとき、どっちがカッコいいか、目と目を合わせて勝負しましょうね」(片岡)。そんなMCを経ての最終曲「彗星」、最後の音を鳴らして曲を締める前、ギターを掻き鳴らしながら天を仰ぎ、何か叫んでいる片岡の姿には渇望感が垣間見えた。
そんな終盤における熱量高い演奏も、バンドが守っている“嘘なく生身で向き合う”という価値観や、それをライブという場所に求めているのだと事実を、赤裸々に物語っていた。先日発表されたように、来年3月からは全国アリーナツアー『sumika Arena Tour 2020 -Daily’s Lamp-』が行われる。そこで彼らがどんなライブを見せてくれるのか、非常に楽しみだ。
(撮影=後藤壮太郎)
■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。
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