欅坂46が東京ドームで「不協和音」を披露した意義 様々な思いが交差した圧巻のステージを見て

 まず、どうしてもこの話を避けては通れない。2017年の大晦日、『NHK紅白歌合戦』。あの夜、欅坂46は「不協和音」を2回披露した。その2回目のことである。欅坂46の衣装に身を包んだ総合司会の内村光良が「みなさんも夢を歌いましょう!」と叫んだ次の瞬間、向かって左奥に鈴本美愉が仰け反りながら倒れる姿が画面に映り込んだ。倒れる鈴本に気付きながらも、カメラが切り替わるまでポーズをとり続ける残りのメンバーたち。銀テープがキラキラと舞う会場で、センターを務める平手友梨奈の手は震えていた。

 それ以来、平手が出演するライブで「不協和音」は一度たりとも披露されてこなかった。まるで”封印”されているかのように……。

 時を経て、2019年9月。全国ツアーの最後の会場に選ばれたのは東京ドーム。もちろんグループにとって初めての会場で、デビュー4年目にして到達した晴れの舞台である。メンバーにも並々ならぬ思いがあったことだろう。佐藤詩織もMCで「こんなに大きい場所でライブができるなんて思ってなかったので、なんかすごい感慨深くて……」と涙ながらに話す。

 欅坂46はつい先日、次のシングルの選抜が番組で発表されたばかり。デビューから一貫して選抜制度を取り入れてこなかっただけに、放送後もファンの間では賛否両論が渦巻いていた。しかし、そんなことはお構いなしにとすべてのメンバーが全力で目の前の楽曲に取り組んでいる。

 ライブでは恒例となっている曲も、心なしかいつもより強い思いが込められているように感じた。初ドームとあってさすがに演出も凝っている。十字形に広がった花道の交差点には噴水の出る仕掛けが施されていて、照明によって水が光ることでステージが煌々と輝きだす。

 メンバーは傘を使ったり、気球に乗ったり、自転車を漕いだりとさまざまな方法で会場を盛り上げていく。「アンビバレント」ではさながらCDジャケットの世界に入り込んだかのように、カラフルな巨大風船が会場を舞った。どれも歌詞やMVなど作品に紐付いた演出だ。

「まず詞があって、それを表現するダンスがあって、その世界観を膨らませたMVがあって、そしてそれを人前で披露するライブがある。この創作のリレーの中で、常に元となる表現物に対するリスペクトが軸にあるのが欅坂46というグループなのだ」

 リアルサウンドで初めて欅坂46のライブレポートを書いたとき、筆者はこんなことを書いた。(参考:欅坂46から感じる“表現物へのリスペクト” 『欅共和国 2017』2Daysを観て)まだデビューから1年が経過したばかりの頃、初の野外イベント『欅共和国2017』を観たとき率直に抱いた感想がそれであった。

 あれから2年が経ち、音楽シーンの趨勢も変化し、グループの置かれた状況も変わり、メンバーも徐々に入れ替わりつつある今、東京ドームで見た欅坂46は、もしかしたらあの頃の欅坂46とは違う欅坂46なのかもしれない。だが先日、初期からダンスを頑張っている1期生の齋藤冬優花が公式ブログで、

「私自身、選抜メンバーに入ることや、前に立つということを第一目標とするよりも、曲を伝える、届ける、ということを第一に考えることは、変わりたくないな、、、と思います。欅坂としても、変わっていって欲しくない部分です」

 と書いていたのを見て妙に嬉しくなってしまった。変わっていくものと、変わらないもの。物事は常にそうやって続いていく。それをメンバー自身もよく分かっているのだ。この日のライブは、1期生が築いた欅坂46の精神を、2期生が継承していくその様子を目の当たりにしているようで、なぜだか不思議な気持ちにさせられたのである。

 「欅の曲は強く引っ張っていく曲ももちろんあるけれど、落ち込んだ時とかに一緒にしゃがみ込んでずっと背中をさすってくれる曲が多いなって。(自分にとって欅坂46は)そういう存在だったなって」と話すのは関有美子。選抜に選ばれなかった山﨑天も「エキセントリック」での見せ場のひとつである語り部分を任され、〈もう そういうの勘弁してよ〉と強い口調で言い放つ。「欅坂46に入る前よりも、入った今の方が、欅が好き……」とつぶやく姿には、言葉以上の重みがあった。昨年加入したばかりの2期生も、今ではすっかり欅坂46の一員としてステージに立っていた。

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