菅田将暉、米津玄師、椎名林檎、宇多田ヒカル……アーティスト同士のコラボ作が相次ぐ背景

 また、個別の作品ではなくより大きな環境について考えたときに、「歌番組の変化」「多様性の担保」「海外との同期」という3つの観点からコラボがより推進されるようになった理由を読み取れるのではないかと思う。

 まず、多くの歌番組でコラボが当たり前になってきたという事情がある。2011年頃から各局で一般化した大型歌番組において、アーティスト同士のコラボは外せない企画となっている。その流れは『NHK紅白歌合戦』にまで波及しており、椎名林檎がチームの垣根を超えたデュエットを披露するのもすっかり定番となった。こういったメディア側の変化を通じて、演者と聴き手双方に「コラボを楽しむ文化」が根付いていったのではないかと思う。

 椎名林檎は「男女のデュエット」という形で紅白歌合戦の男女対抗というフォーマットに揺さぶりをかけているが、様々なエンターテインメントにおいて「表現における多様性」が必須となってきているのもコラボが増える要因になっているように思える。複数のアーティストが一つの楽曲に同居することで、「自分の視点でしか表現できない」という壁を乗り越えて新たな価値観が提示される。そんな取り組みは、この先もより求められていくはずである。

椎名林檎とトータス松本 - 目抜き通り

 3つ目の切り口として、HYDEとコラボレーションした楽曲「Red Swan」を昨年リリースしたYOSHIKIの言葉を引用したい。

「アメリカのミュージシャンって特に、ヒップホップとかEDMとか、すごくフィーチャリングが多くて」「アーティスト単体よりもムーブメントを全員で起こしていく。そういうのって音楽業界に必要。特にロックに関してはそうだと思ってて」
参照

 この発言にあるような、海の向こうでのアクションを取り入れながら日本の音楽を盛り上げていこう、という意識も程度の差はあれコラボの背景にはあるのではないだろうか。海外では楽曲のコライトやフィーチャリングが当たり前に行われ、それによって作品のクオリティが高められていっている。そういった動向は、とかく自作自演であることが重視されがちな日本における音楽づくりのあり方にも影響を及ぼしていると思われる。

"Red Swan" (Attack on Titan anime theme) - Official Lyric Video

 もちろんアーティスト一人の世界を突き詰めた作品にも素晴らしいものがたくさんある(そして日々生まれている)し、「話題先行」としか思えない志の低いコラボ楽曲も残念ながら存在するのもまた事実である。それゆえ、「コラボだから素晴らしい」というようなスタンスをとるのは危険である。ただ、アーティスト同士が手を組むことが、面白い音楽を生み出す一つの手法として機能するのは間違いない。この先も、「意外だけど必然性や納得感がある」というような切れ味のあるコラボレーションが生まれるのを楽しみにしたい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題になり、2013年春から外部媒体への寄稿を開始。2017年12月に初の単著『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』を上梓。Twitter(@regista13)

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