菅田将暉は“衒いなき愛”とともにアーティストとして成長する アルバム『LOVE』を聞いて

 さらに、本作の聴きどころは、それだけではなかった。先述の「まちがいさがし」のように、しっかりと歌い上げるストレートな楽曲はもちろん、石田ひゅーいが弾き語りで歌うのを聴いて、菅田自身が「自分そのもの」はたまた「成りたい自分そのもの」だと深く感動し、自身で歌うことはもちろん、挙句の果てには、自らが監督を買って出て、仲野太賀主演でショートフィルムを撮り上げてしまったという「クローバー」を筆頭に、気負いのない歌声と歌詞がどこかフォーキーな「つもる話」、「あいつとその子」といった自身の作詞作曲による楽曲、あるいは本作の最後に収められた、俳優仲間でもある長嶋柊吾作曲、菅田将暉作曲による弾き語りのささやかな楽曲「ベイビィ」。それらの楽曲で描き出される、ありのままの菅田将暉……すなわち、何かの役を演じるのではない、菅田将暉という人間の日々のうつろいや思いが率直な言葉で吐露される楽曲も、思わず身を乗り出して、耳をそばだててしまう求心力を放っているのだった。

 けれども、個人的に、いちばん新鮮に響いたのは、あいみょんが提供した「キスだけで feat. あいみょん」だった。「君はロックを聴かない」など、人称表現で独自の味わいを生み出すシンガーソングライターであるあいみょんが、男女の歌詞を逆転させながら菅田とデュエットするこの曲。ある意味、往年の歌謡曲的とも言える、“女性言葉”で歌う菅田将暉のボーカルの艶やかさは、“男性言葉”で凛々しい歌声を響かせるあいみょんのボーカルとのコントラストも相まって、シンガー菅田将暉の新たな魅力と可能性を打ち放っているように思えた。さらに言うならば、これまでどこか男の子たちによる“部活感”的な雰囲気もあった菅田の音楽活動に新風を注ぎ込んだという意味でも、実に新鮮な一曲となっているのだ。

菅田将暉 『キスだけで feat. あいみょん』

 それにしても、本作全体を通じて改めて感じたのは、菅田将暉というアーティストの“衒いのなさ”である。作品ありき、台本ありきで臨む役者業とは異なり、自身が主導しつつも、そこで自らの確固たる“世界観”を構築するのではなく、敬愛するミュージシャンたちと共に、ゼロから衒いなく、自由に音楽を作り出してゆく喜び。そんな“もの作り”の喜びに溢れた本作のタイトルが、シンプルに『LOVE』というのも、実に彼らしいと言えるのかもしれない。そう言えば、前アルバムのタイトルは『PLAY』だった。何だろう、この衒いのなさは。音楽を鳴らすことへの愛、敬愛するミュージシャンたちへの愛、彼らともの作りをすることへの愛、そしてリスナーたちへの愛……そんな“衒いなき愛”に溢れながら、なおかつミュージシャン菅田将暉の確かな成長も感じ取れるような、そんな一枚だと思う。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。

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