2ndアルバム『七情舞』インタビュー

ペンギンラッシュが語る、ジャンルに捉われない音楽性 「やり過ぎないというより“寄り過ぎない”」

 名古屋出身の4ピースバンド、ペンギンラッシュが2ndアルバム『七情舞』をリリースした。前作の1stアルバム『No size』では“ジャズ、ファンクをルーツにした独創的なJ-POP”という基本的なスタイルを明確に提示しつつ、ジャンルに捉われない音楽性を描き出した4人。リードトラック「悪の花」を含む本作では、メロディ、歌詞、アレンジ、演奏のすべてにおいてさらに強度を上げ、リピートするたびに新たな発見がある奥深いポップミュージックを体現している。望世(Vo/Gt)、真結(Key)に様々なアイデアが施された『七情舞』各曲の制作風景、バンドが目指すビジョンについて話を聞いた。(森朋之)

ジャンルに捉われないで作りたい(望世) 

ーー1stアルバム『No size』で初めてペンギンラッシュの音楽を聴いたリスナーも多かったと思うのですが、反応はどうですか?

望世:『No size』は私たちのいろいろな面を表現したアルバムなんですけど、そのせいか、いろんなジャンルを好きな方々が聴いてくれてるみたいで。

真結:ふだんはジャズやファンクを聴かない人も聴いてくれてるし、たくさんの人に届いているなって。

ーージャンルで説明しづらいバンドだからこそ、幅広い層のリスナーにリーチできるのかも。特定のジャンルに偏らず、いろいろな音楽の要素を取り入れるというスタンスはバンド結成当初からなんですか?

望世:「こういうコンセプトでやろう」という話はまったくしてないんですけど(笑)、「(ジャンルに)捉われないで作りたいね」というのはありましたね。作曲の段階から、そういう意識はあるんじゃないかな。

真結:うん。メンバーでアレンジしているうちに、いろんな要素が入ってくることもあるし。

ーーそれぞれのルーツもけっこう違ってそうですね。

望世:どうだろう? 完全にバラバラというわけではなくて、重なっている部分もあると思いますけどね。私と真結は高校から一緒で、軽音楽部の顧問の先生に教えてもらったジャズやファンクを聴いていて。ベースの浩太郎さんはポップスやフュージョン、ドラムのNarikenさんはわりとロックがルーツみたいですね。Red Hot Chili Peppersとか、日本のバンドだとthe band apartやPeople In The Boxとか。

真結:コード感に特徴があるバンドが好きみたいですね。

望世:そのあたりも何となく共通していますね。

ーー好きなコード感やリズムが似ているというか。最近のジャズもリズムやコードワークの解釈が広がってますからね。R&Bやヒップホップと接近するのも当たり前になっていて。

望世:そうですよね。私たちもそういう音楽が好きだし、曲を作るときも“ジャズと何か”を組み合わせている面もあって。

ーーなるほど。2ndアルバム『七情舞』もジャンルを超越した楽曲が揃っているし、メロディ、言葉、アレンジ、サウンドメイクを含め、さらに強度が高まっている印象がありました。制作にあたってはどんなテーマがあったんですか?

望世:最初はコンセプトアルバムにしようか? って話してたんです。これまで「夜に聴きたい」とか「夜バンド」と言われることがけっこうあって。私たちはそれを意図していたわけではなかったから、今回はあえて夜っぽい曲を集めてみようかと。でも、実際に作り始めたら、あまりこだわらなくなって(笑)。

真結:コンセプトを意識したのは最初だけで、結局、いつも通りの制作でしたね。似たような曲が集まっているわけでもないし、メンバーそれぞれが「こういう雰囲気の曲はどうかな?」という感じで原曲を作って、それをみんなで形にしていきました。

ーー曲のアイデアが本当におもしろいですよね。たとえば1曲目の「悪の花」は、ニューオリンズ発祥の“セカンドライン”というリズムを取り入れながら、憂いを感じるポップナンバーに結びつけていて。この曲の着想はどういうところだったんですか?

望世

望世:あるアーティストのライブを観に行ったら、セカンドラインの曲を演奏していて。その演者さんは「このリズムってハッピーになるよね」と言ってたんですが、そのときに「このリズムでハッピーじゃない曲を作ってみたい」と思って。頭のなかですぐに曲ができてきたので、家に帰ってすぐにデモを作って、それをスタジオに持っていって。

真結:Narikenさんに「セカンドラインのリズムを叩いてみて」って。私は「低い“レ”の音から始めて」って言われました。

望世:ザックリしてて申し訳ない(笑)。

真結:(笑)。どうなっていくかわからないまま進んでいくのが楽しかったですね。ここまでセッションで作ったこともなかったし。最初は「セカンドラインを意識したほうがいいのかな」と思ってたんですけど、最後はかなり自由に弾いてました(笑)。

望世:参考になる曲を聴いてもらうこともあるけど、「絶対にこうしてほしい」というわけではないので。

ーーそれぞれの解釈から生まれるフレーズも混ざっている、と。〈形ばかりを必要とするなら/要らないわ〉など、苛立ちや葛藤が混ざった歌詞も印象的でした。確かにあまりハッピーではないですね(笑)。

望世:そうですね(笑)。それはこの曲に限らず、常にそうかも。前作もそうでしたけど、明るい曲にしようと思うことがあまりないんですよね。

真結

真結:明るいときやハッピーなときって、あんまり曲が生まれないですからね。暗い気分のときや何かが起きたときのほうができやすいというか。そういう人が多いと思いますけどね、曲を作る人は。

望世:そうそう。私の場合、歌詞は最後なんですよ。歌詞が先ということはなくて、まずメロディを固めるんです。その時点では音的に気持ちいいところだったり、「この流れだったら、ここでしょ」という感じを優先しているから、歌詞を乗せるのがけっこう大変で。

真結:歌詞を乗せるとき、「ここは自由に変えていいよ」「この音だけは外さないで」というポイントがありますからね。それは作曲者によって違うんですけど。

望世:彼女の場合、デモの段階ではBメロのメロディしかなかったりするんですよ(笑)。

真結:それ以外は自由に歌ってくださいって(笑)。

ペンギンラッシュ - 悪の花 (Official Music Video)

ーーバンド内でコライトしている状態に近いのかも。2曲目の「アンリベール」はフュージョンの要素が強い楽曲ですね。

望世:これはベースの浩太郎さんが持ってきた曲なんですよ。私たちには作れないですね、こういう曲は。

真結:転調しまくってますからね。演奏するのが大変だから、自分では絶対に作らないです(笑)。

望世:(笑)。もともとは彼が別のバンドでやっていたインスト曲なんですよ。単純に「カッコいい」と思ったし、確かに演奏は難しそうだけど、ぜひやってみたいなと。やっていて楽しいし、好きな曲ですね。

真結:遊び心もすごくある曲なんですよ。演奏しているときに生まれるものもあるし、私も好きです。

望世:この曲も歌詞は大変でしたね。どっちの言葉がいいだろう? って、レコーディングの直前まで迷ってたり……。浩太郎さんからは、アニメのタイムワープの場面みたいな、背景がバーッと後ろに進んでいく映像を見せられて、「こんな感じのイメージで」って言われたんですけど。

真結:知らなかった(笑)。

望世:私はなんとなく切なさを感じたから、そのイメージを加えて歌詞にしました。

ーー「アンリベール」というタイトルの由来はフランスの小説家・スタンダールの本名ということですが、もともと好きな作家なんですか?

望世:いや、特に好きというわけではないんですけど(笑)。詩や小説を読むのは好きで、かなり影響を受けていると思います。もともとは瀬尾まいこさんの作品が好きだったんですが、大学の授業で読まず嫌いしていた村上春樹さん、村上龍さんの小説を読んだら、まんまと感化されて、大好きになって。その影響もいろんな歌詞に出ていると思います。

ペンギンラッシュ - アンリベール (Official Muisic Video)

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