松任谷由実、『TIME MACHINE TOUR』に詰め込んだエンターテイナーとしての45年の歩み
アンコールでも、華やかで洗練された演出と豊かな音楽性がたっぷりと堪能できるステージが続いた。「カンナ8号線」(12thアルバム『昨晩お会いしましょう』収録曲)ではマリンルックのユーミンを中心に、ダンサーがフラッグを使ったパフォーマンスを披露。さらに代表曲の一つである「DESTINY」(8thアルバム『悲しいほどお天気』収録曲/1979年)では、観客が揃いの振り付けで盛り上がり、〈今日わかった また会う日が〉というフレーズでは大合唱が巻き起こる。最後は「ひこうき雲」(1stアルバム『ひこうき雲』)。ピアノと歌だけのシンプルなアレンジにより、すべての言葉、すべてのフレーズが、観客ひとりひとりの心に真っすぐに浸透していく。ユーミンの歌の力を実感できる“演出”によって、会場全体が大きな感動で包まれた。
凄まじいばかりの拍手が巻き起こるなか、ユーミンが再びステージに上がる。「ありがとう! 幸せです!」と歓喜の声を上げた彼女は、これまでのキャリアを振り返るように静かに話し始めた。14才のときに曲を書き始め、16才のときに音楽関係者の目に止まり、作曲家として活動をスタート。その後、「君の曲は自分で歌わないと雰囲気が出ない」と言われ、歌に自信を持てないまま、シンガーソングライターとしてデビュー(そのとき彼女は「ソングライターであることを絶対に忘れないようにしよう」と決めたのだという)。それから45年間、一生懸命にやってきて、最近になってようやく、「みんなが自分の歌を知ってくれている」という実感を得られたーーそんな真摯な言葉の後で歌われたのは、「やさしさに包まれたなら」(2ndアルバム『MISSLIM』収録曲/1974年)。「一緒に歌いましょう」という声によって、ステージを囲む客席から大きな歌声が響き渡り、ライブはエンディングを迎えた。
この日のライブで彼女は「こういうツアーをやると、“これで引退?”と思われる方もいるかもしれませんが、こんなもんじゃ終わりませんよ! まだまだ聴いてもらいたい楽曲があるし、観てもらいたいショーのアイデアもたくさんあります。次のショーでお会いしましょう!」と笑顔で語った。現時点での集大成であり、日本のポップス史上に残るエンターテインメントを実現した『TIME MACHINE TOUR』。それは本気で素晴らしいものだし、筆者は“日本のポップスとはユーミンのことなんだな”とさえ思ってしまったが、これも彼女にとっては一つの通過点。すでに制作に取り掛かっているというニューアルバム、そして、次のコンサートでユーミンはどんな世界を見せてくれるのか。そう、尽きぬことのない才能を持ったシンガーソングライターであり、稀代のエンターテイナーであるユーミンのストーリーはここから、さらなる未来へと続いていくのだ。
(文=森朋之/撮影=田中聖太郎)