兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第23回

古舘佑太郎が映画『いちごの唄』で話題になる前に伝えたい 2『生と詩』での驚きのジャンプアップ

 2のニューアルバム『生と詩』がすばらしい。今作が3rdアルバムであり、前の2作もよくなかったわけじゃないが、「え、ちょっと、いったいどうしちゃったの?」と言いたくなるくらいの飛躍というか、飛距離というか、跳躍でもいいが、とにかくそんなようなジャンプアップ感がすごい。僕が初めてライブを観たのは、確か一昨年の『YATSUI FESTIVAL!』だったので2017年の6月ってことか。少なくともその時は、こんな曲をやるバンドではなかったと思う。

2『生と詩』

 〈友達の彼女に手を出したい/親のこと裏切ってしまいたい/殺すぐらい誰かを愛してみたい/修羅場こそ私の現世の場所〉というラインで終わる「ルシファー」。〈白い紙に/どちらも僕はかきまくり続けてる〉〈さっきまであんな/愛おしかったのに右手で/汚して丸めて捨てるんだ〉と吐き捨てる「性と詩」。〈リズムはズレている〉〈リズムがもたついてく〉と歌う曲のタイトルが「ニヒリズム」。かと思えば、死ぬ時の自分に宛てた手紙「WHEN I WILL DIE」という曲もある。「SとF」や「ハナレイバナレイ」を聴くと「最近彼女と別れたのかな」というふうにも思える。挙句、ラストの「フォーピース」は、フラワーカンパニーズの「深夜高速」「ハイエース」のような、機材車の中での自分たちの行動や思考を描いた、どうにもぐっとくる名曲だ。

2 - フォーピース (Official Music Video)

 総じて、身もフタもない。ちょっとどうかと思うくらい、どうしようもなく、自分をさらけ出している。でありながら、グロいものを見せてやるという露悪感はない。そのことによって聴き手の中にある同じ感情をひっぱり出す歌として成立している。つまり、ポップミュージックになっているということだ。

 そんなリリックが、性急で抑揚の大きな歌メロと合っているのか、いや、逆にその歌メロがあったからこんなリリックが生まれたのかもしれないが、とにかく、その1と1が足し算でなく掛け算になっている。そういえば、The SALOVERSの頃はほとんどの曲が作詞も作曲も古舘佑太郎だったが、このアルバムはほぼ作詞は古舘佑太郎、作曲はギターの加藤綾太だ。ふたりで共作するからこそできることのレベルが、このアルバムでジャンプアップしたのかもしれない。

 よく知られているように、加藤綾太は現在、銀杏BOYZのサポートメンバーでもあるわけだが、彼が参加するようになって銀杏で聴けるようになった「あの感じ」のギター、このアルバムでも随所で聴ける。そうか、峯田和伸にとっても彼の存在はとても大きいんだろうなあ、と改めて思った。

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