『乃木坂46 衛藤美彩 卒業ソロコンサート』レポート

乃木坂46 衛藤美彩、卒業ソロコンで刻んだ大きな足跡 アンダーと選抜を経て飾った有終の美

 グループのユニット曲を中心にしたライブ中盤では、彼女が蓄えてきた表現力がさらに発揮される。一度目の衣装替えを挟んで、「意外BREAK」からスタートする本公演随一のアクティブなパートでは、歌声から表情のニュアンスまで、ほとんど彼女個人のソロ曲のように新たな解釈を与え、乃木坂46の既存楽曲に潜むまだ見ぬ可能性を示してみせる。こうした実力者が乃木坂46のライブを支えてきたことを、あらためて顧みる瞬間だった。さらにいえば、乃木坂46の在籍期間を通して、ここまでの安定したパフォーマンスと表現の多彩さを身につけ得ることは、現在グループで活動するメンバーの指針にもなる。この卒業ソロコンサートは、そんな希望を見せてくれるものでもあった。

 そしてなにより、グループと衛藤個人双方のキャリアを象徴的に照射してみせたのはコンサート本編の終盤である。今日の乃木坂46の成熟を知らしめた昨年のシングル曲「シンクロニシティ」、橋本奈々未の卒業シングル曲「サヨナラの意味」に続いて歌われたのは、18thシングルのアンダーメンバー楽曲「アンダー」だった。どこまでも重さを拭うことの難しいこの楽曲を、衛藤は彼女でしか成し得ない仕方で昇華してみせた。

 アンダーメンバーという位置づけや「アンダー」としての物語化を、当のアンダーメンバー自身がごく直接的な言葉で背負わざるを得ない2017年発表のこの楽曲は、しばしばメンバーにヘビーな、時に過剰な負荷をかける作品でもある。同曲発表時、衛藤自身はすでに選抜常連メンバーとして活動していたが、彼女自身もグループ初期に長らくアンダーメンバーを務め、今日の乃木坂46よりもはるかに活路を見出すのが難しい時期を経ている。その経験を礎にしつつ今日の立場を獲得し、卒業にあたってソロとしての表現を存分に発揮できる実力と機会を得た彼女だからこそ、「アンダー」という曲に切実さと希望とを込めることができる。現在でもなお重さを残すこの楽曲に、他人事としてでなく単なる楽観でもなくアプローチしたことで、同曲にこれまでなかったような意味を添えてみせた。それは、彼女にしかできない楽曲の再解釈であり、乃木坂46メンバーとしてのキャリアへの矜持であり、さらにはこの詞曲に対する批評でもあった。

 「アンダー」に先立って歌われたのが「シンクロニシティ」や「サヨナラの意味」という、グループの充実期やメンバーの循環を示す楽曲だったことも手伝って、この終盤パートは乃木坂46にとっての衛藤美彩という存在をあらためて物語っていた。彼女は実力もブランド力も育みながら円熟期を迎えているこのグループの、スポットライトの内側のことも外側のことも、そのパフォーマンスを通して語りうる人物なのだ。衛藤自身によって編まれたセットリストによって、それが強く浮かび上がった。

 アンコールではメンバーたちが顔を揃えるのに先立って、生田絵梨花、桜井玲香が参加してユニット曲「雲になればいい」が披露された。気づけば衛藤を含めた3人とも、東宝ミュージカルの主要キャストの座を手にするまでに力を蓄えている。コンサートの終わりに至って、グループでのキャリアがソロのパフォーマーとしてのステップに着実に結びついてきたことがごく自然に示される。卒業コンサートとして、理想的な余韻を残したといえるだろう。

 グループの来歴と個人としての行く先を、自らの表現の豊かさによって描いてみせた衛藤美彩の卒業ソロコンサートは、乃木坂46メンバーとして有終の美を飾るにあたっての新たなスタイルを開拓するものだった。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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