1stシングル『1%』インタビュー
ウォルピスカーターが語る、ボーカリストとしての美学「毎回音源が100パーセントだと思ってる」
ウォルピスカーターが、3月20日に1stシングル『1%』をリリースした。同作の表題曲はTVアニメ『不機嫌なモノノケ庵 續』の主題歌を担当しており、作詞・作曲はボカロP・はるまきごはんが担当している。
“高音出したい系男子”としてニコニコ動画やYouTubeなどにアップした“歌ってみた”動画で高い人気を誇るウォルピスカーター。同作には、エレクトロなサウンドにドラマチックな歌詞が乗る表題曲のほか、軽快なギターが鳴り響くアッパーチューン「アノヒノアノウタ」、本人が作詞する「僕らのミッシングリンク」と三者三様の楽曲でウォルピスカーターの“ハイトーンボイス”を楽しむことができる。
ウォルピスカーターが、歌い手/ボーカリストとして目指している目的地とは? ハイトーンボイスを追求したきっかけから、はるまきごはんとの共作エピソード、歌うことに対するスタンスといったインタビューを通して、ウォルピスカーター独自のボーカリストとしての美学を知ることができた。(編集部)
「そもそも高い声を武器にしている気持ちはない」
ーーウォルピスカーターさんは“高音出したい系男子”という異名の通り、非常に高い声の歌い手として名を馳せていますが、高音を武器にしようと思ったきっかけは?
ウォルピスカーター:僕はそもそも高い声を武器にしている気持ちはなくて、最初に投稿した“歌ってみた”動画も全然高い声を出してなかったですし、投稿を続けてるうちにだんだん高い声を出せるようになったんです。僕は“歌ってみた”を始めるまでニコニコ動画についてあまり詳しくなかったので、活動を続けるなかで“高い声を出す人たち”に出会って、そこで「男の人でもこんなに高い声が出せるようになるんだ!」と憧れるようになりまして。そこから高い声を出す練習の過程として、動画を日記代わりにアップし続けていった結果、今の状態になったんです。今でも動画は「今の僕が出せる高い声はここまでですよ」というのを皆さんにお伝えしてる状況なんですよ。
ーー今でも十分高い声だと思うんですが、現在もさらなる高音を目指してる段階なんですね。
ウォルピスカーター:僕よりもっと高い声を出せる人もいますし、僕はまだまだですね。いついかなるときでも高い声を出せるのが完璧な“高音系”だと思うんですけど、僕はコンディションを整えたうえで1日5分だけだったり、努力して出してるところがあるので、例えばライブで2時間歌うなんて絶対に無理なんですよ。だから「音源の声を全部フルで再現できるようになる」というのが目標としてありますね。
ーーその高音は今回の1stシングル『1%』でも発揮されてますが、本作はウォルピスさんにとってアニメタイアップとなる初のCDシングルリリースです。環境的な変化はありましたか?
ウォルピスカーター:もちろんありましたね。特に今回のシングルは今までのリリース時の5倍ぐらい外に出る機会が増えまして(笑)。僕は家にこもって作業をするのが一番好きなので、仕事以外で人に会うことが月に1〜2回ぐらいしかないんですよ。僕はラジオパーソナリティーの仕事もしているんですけど、普段はほとんどしゃべらないから、自分の中でどんどん会話がパターン化されていて、家で架空の相手に向けてしゃべりの練習をしているんですが、どんどんその相手の存在がクッキリしてきたので本当に怖くなって(笑)。それで「いろんな人と会話をして、その会話パターンを虚像に組み込んでいかないとまずいな」と思っていたので、最近はたくさん外に出ることでいい刺激を受けてます(笑)。
ーーシングルの表題曲「1%」はTVアニメ『不機嫌なモノノケ庵 續』のEDテーマで、清涼感溢れるエレクトロポップなサウンドと、ウォルピスさんの柔らかな歌声がマッチしたミディアムナンバーです。こちらの曲はボカロPのはるまきごはんさんが制作されています。
ウォルピスカーター:以前から一緒に仕事をしたかった人の中でも、はるまきさんの楽曲はEDテーマに合っていると思っていたので、すぐに連絡したら快く引き受けてくださいました。はるまきさんに曲を書いていただくのは今回が初めてなんですけど、以前から個人的に友人として付き合いがあったんです。
ーーウォルピスさんから見て、はるまきごはんさんの楽曲にはどんな魅力があると思いますか。
ウォルピスカーター:ファンタジーまではいかないメルヘン感がありますよね。歌詞もきっぱり言い切らない抽象的なものが多くて、詩的な表現を用いることが多いイメージ。そういう部分も含めてエンディングっぽいかなと思ったんです。
ーーたしかに不思議な余韻を残す作風ですよね。曲を作ってもらうにあたって、ウォルピスさんから何か具体的なオーダーはされた?
ウォルピスカーター:僕からは「エンディングっぽい曲を書いてほしい」とは言いましたけど、それ以外はほとんど何も言っていないですね。アニメサイドからは主に詞の方向性とタイトルの部分で意見をいただいて、はるまきさんが調整したというお話は聞いてます。
ーーウォルピスさんは最初にこの曲を聴いたときに、どんな印象を抱きましたか?
ウォルピスカーター:実ははるまきさんには3曲分のデモを作っていただいたんですけど、この曲はその3曲目だったんです。最初はインストの音源を聴いたんですけど、すごく透明感があって、音の粒の際立ちもすごくて「こんなにキレイな曲を歌いたい!」と思ったんですよ。それで「この曲が歌いたいです」とお伝えしたら、翌日にはるまきさんが仮歌を入れたものが届いたんですけど、そのクオリティーがとにかくすごくて、ハモりからコーラスまですべて入ってたので、「もうこれでよくないかな?」と思ったぐらいでした(笑)。
ーー歌入れするにあたってどんなことを意識したのでしょうか。
ウォルピスカーター:とにかくはるまきさんの(仮歌の)歌マネにならないように心がけました。元々ボーカロイドの楽曲を二次創作で歌っている身としては、どうしても一次創作の良いところをマネして歌うクセがついてるんですね。だから、ついついはるまきさんのデモをなぞってしまうことがあったので、僕のオリジナル曲として僕なりの歌い回しを出せるように、コリをほぐすのに時間がかかりました。
ーー今までの歌い手としての活動と、ボーカリスト/シンガーとしての自我との岐路に立っている状態というか。
ウォルピスカーター:ちょうど狭間で揺れている感じはありますね。マネしなくちゃいけないときもあるし、マネしてはいけないときもあるので、最近はそのオンオフの切り替えに苦労してます。
ーーそこで自分なりのオリジナリティーを確立するにあたって、「1%」で特に指標としたことはありますか?
ウォルピスカーター:この曲に関しては、クセを出しすぎないことを目標に録音したんです。僕の普段の歌はかなりクセが強くて、それがこの曲のような透明感が強い曲調と混ざるとぶつかりあってしまうかなと思いまして。なので今回はビブラートもなるべくかけずに、真っ直ぐ歌うことを意識したんですけど、そうすると今度ははるまきさんのデモに寄ってしまうんです(笑)。だから真っ直ぐに歌いつつ、僕のニュアンスも残す、普段の40パーセントぐらいの力で叩くみたいな力加減にものすごく苦労しました。
ーー透明感という意味では、コーラスやハーモニーの重ね方にこだわりを感じました。
ウォルピスカーター:ありがとうございます。でも、そのアレンジも全部はるまきさんのデモの段階で完成してたんです(笑)。だからお株を奪われた感じだったんですけど、最後のサビの前に入ってるクレッシェンドのコーラスは、僕が考えてはるまきさんに無断で入れたんです。僕のオリジナル曲ではあるので、一か所はそういう場所を作らなくてはいけないと思いまして……はるまきさんごめんなさい!(笑)。
ーーシンガーとしての自我もしっかりと刻まれて。この曲は歌詞も夜空をメロンソーダに例えたりしていて、離れ離れになる二人の関係性を示唆するメランコリーな内容でありながらも、すごくロマンチックですよね。
ウォルピスカーター:僕も最初は「悲しい歌なのかな?」と思ったんです。でもレコーディングしてみて、曲の雰囲気と合わせて聴いてみると、結構ポジティブというか、センチメンタルになりすぎない、思っていたよりも破滅願望のある詞ではないんだなと思って。ガラッと印象が変わりました。
ーーたしかに、歌詞の中では世界の終わりが訪れそうな雰囲気がありますけど、最後は爽やかな余韻が残る、はるまきさんらしい不思議な世界観で。
ウォルピスカーター:そうなんですよ。達観した感じというか、ある種、悟りを開いた人の詞の様に見えるんですけど、その辺を踏まえながらもプラトニックな人間関係が見えてくるというか。