『午後の反射光』インタビュー

君島大空が語る、自身のルーツや曲作りに対する視点「僕の音楽では歌はひとつの要素でしかない」

「遠視のコントラルト」は自分で自分が救われた曲

ーーライブでは、生ギターの弾き語りをやっていらっしゃいますけど、宅録で作り込んだ音源とはまた違う狙いがあるってことですか。

君島:そうですね。弾き語りに挑戦してみようと思って。ギターと歌だけで、どこまで自分の音楽と言えるものができるかみたいな。今のところすごく難しくて。

ーーギター一本持ってお客さんの前に行くと、当然生身の自分をそこにさらけ出さなきゃいけないじゃないですか。それはご自分にとってはどうなんですか?


君島:とってもつらいんですけど、毎度。

ーーつらいんですか(笑)。

君島:毎度つらいんですけど、最近は楽しくやれるようになってきました。

ーータワーレコードのレコメンで今作が選ばれて、コメントの動画を上げてたでしょ。あれずーっと下向いてしゃべってて、この人どんだけシャイなんだと(笑)。

君島:ははは(笑)。そういうことがホントできなくて。

ーー最新のアー写ではちょっと顔を出してらっしゃいますけど、真正面から撮ったポートレイトではないし、そもそもあんまり顔も出さないですよね。ライブでも下を向いてるし。

君島:お客さんの顔を見れないっていうか、前向けないっていうのと、それ以前に、この人がやってるんだっていう印象をあんまり与えたくないというのも強い。顔の印象とかがあんまり付いてほしくないっていうのが多分あって。そこに縛られる部分ってあると思うんですよ。この人が作ってるんだって、顔を見てから聴くと、ちょっと聴こえ方が変わったりする気がしていて。音楽だけを聴いてくださいって思います。あんま見ないでください、目を閉じて聴いてくださいって。

ーー自分の音楽を通じて自分自身を知ってほしいと思う音楽家もいますね。

君島:作家の色味とか人間味みたいなものって、どうしてもにじみ出てきてしまうものだと思うんですよ。だから、私を知ってくださいっていう押しおしつけがましいことはせずとも、にじみ出て来たものを感じていただけたらいいなぁと思いますね。

ーー音楽に表れている自分というのは、君島さん個人の人間性のどれぐらいの部分を占めていますか? ほんの一部分にすぎないのか、それともやっぱり自分ですと言い切れる?

君島:自分ですね。これは自分だと思います。今回のEPの中には最初期の、自分が作り始めた頃の曲がけっこう多いんです。「遠視のコントラルト」と「午後の反射光」っていう曲は、自分の中ではすごく古くて、3、4年ぐらい前からある曲なんです。「遠視のコントラルト」は高校生ぐらいのときには曲は全部あって。2年前ぐらいにやっと歌詞が付いたものなんですね。その頃に見ていた景色とか気持ちとかっていうものを、一回吐き出しておきたかったんです。今だから見られる景色みたいなものもあるとは思うんですけど、まずこれを出しておかないと、自分の中で話が始まらない。スイッチというか、起動ボタンというか、扉みたいなもの。これをまず世に出しておかないと、これから作る新しい曲に自分が繋がっていかない気がしてしまって。

ーーそれはもうちょっと詳しく説明していただくと、どういう?

君島:自分が人生で一番つらいなぁという時期、音楽を別に聴きたくもないし、やりたくもないしっていう状態のときがあったんですけど、そのときに、ふっとできたのが「遠視のコントラルト」で、自分で自分が救われたというか。自分が作った曲で。

君島大空 MV「遠視のコントラルト」

サウンドクラウドにあがっているデモ・ヴァージョン

君島:ずーっと曲だけはあって、作ろうとはしていたんですけど作れなくて。でもけっこうズドーンって自分が落ちていたときに、歌詞がすーっと出てきて、「あ、こういうことだったんだ」と思って、これを形にしなければ、というか、世に出したいな思ったんです。

ーーつらいこと、ハードな体験みたいなものを、これを作ることによって、乗り越えることができた?

君島:そうですね。なんかそれが、曲の中に……なんて言うんですかね。乗り越えてはいな
いんですけど、そのときの気持ちみたいなものを化石にしておきたかったというか。

ーーー化石?

君島:はい。つらい時期が来る前に、美しかった時間、自分の中でずっとループして終わらない、美しい瞬間みたいなものがあって。その瞬間をどこにも逃げ出さないようにしておきたいという気持ちがあったんです。その一瞬、一瞬を、どうにか終わらないものにしたかったんですよね。つらいものを、「つらい!」って出す表現が僕は嫌いで。そんなものを聴いてしまったら、またつらくなっちゃいますから(笑)。だったらそうなる前の美しかった時間みたいなものを、自分がホントに心に留めているものを、自分しか知らないような景色を、どうにか絶対に、永遠に終わらないものにしようと。

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