平井 大『映画 ドラえもん』主題歌になぜ抜擢? 「THE GIFT」からSSWとしての手腕を紐解く

 シンガーソングライターの平井 大が、『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の主題歌「THE GIFT」を2月27日にリリース。これまで映画『ドラえもん』の主題歌から、絢香、スキマスイッチ、福山雅治、秦基博、miwa、山崎まさよし、平井堅、星野源ら人気アーティストが担当し、多くのヒット曲が生まれてきた。今回抜擢された平井 大は、サブスクリプション発の世界では、あいみょんと並び称される人気を誇る。映画『ドラえもん』とサブスクという2つのトピックで、さらなる飛躍が期待されている。

次世代を担うシンガーソングライター・平井 大とは?

平井 大 / THE GIFT (Music Video)

 昨年末『NHK紅白歌合戦』に初出場を果たし、日本武道館公演を成功させたあいみょんや、「Lemon」のMV動画再生数が3億回を突破した米津玄師など、近年サブスクリプションやSNSなどネット発のヒットが多数生まれている。その観点から次に頭角を現すと、期待を寄せられているのが平井 大だ。

 平井 大は、2012年のアルバム『ALOHA』がiTunes総合チャートで1位に輝いたほか、2016年には『iTunes / Apple Musicスタッフが選ぶ2016年ベストアルバム』にアルバム『Life is Beautiful』が選出された。また、2018年8月度有料音楽配信認定では、楽曲「Slow & Easy」がゴールド認定されている。現在までにサブスクリプション総再生回数は3億回を突破し、『LINE MUSIC 年間トップ100』にも選ばれている。さらに自身のInstagramでは、まるでアート作品かのような写真や動画を発表し、クリエイターとしてのセンスも輝かせてインフルエンサーとしての側面を持つなど、SNSやサブスクとは非常に好相性だ。

「THE GIFT」から『ドラえもん』抜擢の要因を考察

 映画『ドラえもん』が大人も泣けると以前から評判なのは、ドラえもんという存在が、子どもから大人になる過程で忘れてしまう大切なものの象徴であるからだろう。子どものころの経験はすべてが冒険で、そのときのワクワクした気持ちなど、そのころの思い出をずっと覚えていてほしいというメッセージが、常に根底にはある。思い出はひとりでも作ることはできるだろうが、誰かと一緒のほうがより印象深く心に残るもので、そこで「君」という存在が必要不可欠になる。

 これまでの映画『ドラえもん』の主題歌を紐解くと、平井堅の「僕の心をつくってよ」では、〈ねぇ〉と問いかけるサビが胸に響いた。秦 基博の「ひまわりの約束」は、冒頭から〈どうして君が泣くの〉とやさしく語りかけるなど、多くの楽曲に「僕」と「君」が登場してきた。ときに「君」は、楽曲のなかから「僕」というリスナーに呼びかけ、ときに聴く人自身である「僕」が、大切な「君」との関係に重ねて聴き、そこに『ドラえもん』の物語があいまってより大きな感動が生まれた。

 平井 大が歌う「THE GIFT」にも、〈僕の名を呼ぶ声〉や〈君が笑うから〉というように、「君」と「僕」が登場する。また、〈共に過ごした記憶〉や〈旅立ちの季節〉というフレーズもあり、それはどこか昔のことを思い出しているような印象だ。遠く離れてしまった過去と今、もう逢えない大切な人との絶対的な距離、今回の『ドラえもん』で言えば月と地球。人によって受け取り方はさまざまだろうが、そうした届かない距離を越えて「君」への思いを届けたいと願う気持ちが、この曲では歌われている。

 映画『ドラえもん』を観ている間は誰もが童心に返り、物語が終わりエンドロールで少しずつ大人という現実に戻っていく。その3~4分の間で物語を反芻しながら自分のことも振り返るとき、そっと寄り添ってくれるのが「THE GIFT」という曲だ。

 サーフィンや音楽が好きだった父親の影響から、ハワイやサーフィンなどを題材にした作品を数多くリリースしてきた平井の音楽は、実に聴き心地がよく子どもの耳にもやさしい。サーフィンでほてった身体を鎮めてくれるような、浮遊感のある心地の良いサウンド。頬をなでるやさしい風のような歌声。チルアウト感が隅々まで行き渡る彼の音楽は、サーフミュージックの旗手=ドノヴァン・フランケンレイターも認めるほど。面と向かっては照れくさくてなかなか言えない言葉も、平井は歌詞で素直に表現する。その言葉を邪魔しないほどよい歌い癖も、実に耳に心地良く響く。子どもでも理解できるほどわかりやすい言葉、一緒に口ずさみたくなるシンプルで普遍性のあるメロディ。平井の音楽は、お豆腐にナイフを刺すように何の抵抗もなくスッと胸に突き刺さるが、胸の奥でその味わいがジワジワと広がるようだ。

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