『昼日中』インタビュー
Sori Sawadaに聞く、“悲しいラブソング”を綴る理由 アルバム『昼日中』インタビュー
何気ない日常風景と、誰もが共感し得る心の機微を繊細に綴った「転校前夜」「またねがあれば」などのボカロ曲が、動画投稿サイトで話題を呼び、現在はシンガーソングライターとしてのみならず職業作家としても活動の幅を広げているSori Sawada。彼にとって初の全国流通盤となるアルバム『昼日中』がリリースされる。
本作には、TVアニメ『宇宙よりも遠い場所』(AT-X、TOKYO MXほか、2018年1月から3月まで放送)のオープニングテーマ「The Girls Are Alright!」でも知られるシンガーSayaを迎え、男女混成ボーカルというスタイルで描いた7曲の切ないラブソングが並ぶ。美しいアートワークを眺めながら聴いていると、まるで7つの短編オムニバス映画を観ているような気分を味わえる。
「聴いた人が、過去の恋愛を思い出して“悲しい気持ち”になってくれたら本望」と、インタビューで語ってくれたSawada。そんな彼のソングライティング能力は、一体どのようにして培われたのだろう。そもそも人は、なぜ自ら進んで悲しい曲を聴き、悲しい気分になろうとするのだろうか。(黒田隆憲)
歌詞を「強み」と思えたのは好意的なコメントをくれた人たちのおかげ
ーーSawadaさんは、高校時代はオーストラリアで暮らしていたそうですね。
Sawada:はい。その頃は部活でずっと野球をやっていたのもあって、音楽は自分の範疇になかったんです。日本の音楽に関しては、オーストラリアへ移住する前の中学生の段階で止まっていたし、特に好きだとかそういう気持ちもなかったんですけど、部活以外にやることもないし、漠然と「曲でも作ってみようかな」と思うようになって。それでギターを手に入れて、DTMで音楽を作り始めたんですよね。もちろん、完全に独学なのでトライ&エラーを繰り返しながら。
ーーえ、じゃあ理論とかも全く知らずに?
Sawada:(笑)。とにかく勉強の類が苦手で、コード進行なんかも全く知らないまま、好き勝手にギターを弾いてその上にメロディを乗っけるくらいのことしかしていないんですけどね。その頃は「ベース」という概念すらなかった。ただ、時間だけは膨大にあったので、とにかく作りまくっていましたね。
ーー「ちんまりP」という名で、ボカロPとして動画サイトにも投稿していたんですよね?
Sawada:やっぱり作っていると、「誰かに聴いて欲しいな」と思うようになって。ほんの軽い気持ちでニコニコ動画にアップし始めたんです。そんなにたくさん聴いてもらえたわけでもなかったんですけど、反応をもらえるのがいつしかモチベーションになっていましたね。特に多かったのは、「歌詞がいい」という反応だったんですよ。「そうか、自分の歌詞は強みなんだ」と思って、そこから色んな人の歌詞を聴くようになりましたね。中でもback numberからは、大きな影響を受けていると思います。
ーーリスナーからの評価が、Sawadaさんの音楽性を形作ったとも言える?
Sawada:最初はほとんどそれだったと思います。ずっと音楽は聴いてこなかったから、自分自身のルーツというか「芯」のようなものもなくて。自分の歌詞を「強み」と思えたのも、好意的なコメントをしてくれた人たちのおかげだなと思っています。自分の歌詞や文章を褒められるまでは、読書も実はそんなに好きじゃなかったし、とにかく与えられたイメージに、自分から近づいていったところもあります。「暗い歌詞がいい」と言われれば「じゃあもっと暗い歌詞を書いてみよう」「そのために切ない小説や、切ない映画をもっと観なきゃ」って。
ーーそもそも「暗い歌詞」を書いていたのは何故だったと思います?
Sawada:まあ、多感だったんでしょうね(笑)。留学をすれば、日本にいる頃よりも1人の時間が増えますし。野球をやっていたことの、反動もあったのかもしれないですね。明るいものにばかり触れてきたので、余計に暗いものに惹きつけられるというか……。憧れに近い感情なのかな。そうだ、back numberだけでなくEXILEの歌にも影響されました。当時のEXILEってバラードが多くて、僕の中で「音楽=EXILEのバラード」という公式があったんですよ(笑)。さらに、一昨年の春くらいから職業作家としての仕事もさせてもらっていて、そこで様々なジャンルの曲を作るうちに音楽性が広がっていったように思いますね。
ーー今回、「Sori Sawada」名義での全国流通盤『昼日中』を作ることになった経緯は?
Sawada:シンガーソングライターとしてこれから活動していく上で、名刺代わりになる作品が欲しいなと思ったんです。2作前に作った『Flower Girl』というアルバムは、自分の中では渾身の出来だったんですけど、それを超える作品をそろそろ作らなければという、半ば使命感もありましたね。「何か作らなきゃ」っていう焦りもあったのかもしれない。
ーー「焦り」というのは?
Sawada:例えば米津玄師さんもそうですが、ニコニコ動画出身のアーティストさんたちが、今みんなボカロPとしての活動から次の段階へ進んでいると思うんですよね。それに、僕が書いているような恋愛の曲というものは、そんなに長いこと書いていられないとも思ったんですよ。自分はこれからも年相応の作品を作っていくつもりでいて、そうなると今しか書けないものは今のうちにちゃんとパッケージングして出したかった。
ーーお話を聞いているとSawadaさんは、音楽を始めたきっかけも含めてマーケティングやセルフプロデュースに対して、すごく意識的な方なんだと思いました。
Sawada:そうですね、ボカロで曲を作ったり、歌い手さんに歌ってもらったりしていたときは、「別に自分は前に出る必要ないかな」と思っていましたが、「職業作家」としてだけではなく「アーティスト」として作品を表現をしていくのであれば、自分自身の内面にも真摯に向き合わなければいけないんじゃないかというふうに、考えが変わっていきました。