『History In The Making』インタビュー

DEAN FUJIOKAが語る、3年間の歩みと変化「自分の音楽の未来を作っていきたい」

「コアになる部分は大切にしつつ、別の解釈で曲にしたい」

ーーそして次に制作したのが「Echo」と「Hope」(ともにシングル『Echo』に収録)だと思いますが、シングルのリード曲「Echo」(フジテレビ系ドラマ『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』主題歌)はウェーブを取り入れながらもDEANさんの最大のヒット曲になったと思いますし、「音楽的に冒険すること」と「ポップミュージックとしての間口の広さ」とが、理想的に同居した楽曲のように感じていました。

DEAN:ああ……! ありがとうございます。まだまだ「そうなっていきたい」という感じではありますけど、自分としては「そうなったらいいな」と思って作っていました。この曲は自分が想像していた音のレシピーー。「ドラムはトラップっぽくて、ベースは(ブリアルのような)オリジナルのダブステップの雰囲気で、上モノはグライムっぽい」というものが、ウェーブの要素に結びついた曲ですね。ただ、やっぱり「そのままウェーブを作ろう」という風にはならなかったんです。ピアノで切なく引きつけてからウェーブの要素を取り入れることで、復讐の悪魔として蘇ってくる主人公の雰囲気を表現したいと思っていました。

ーーこの頃になると、東京での音楽仲間の広がりも感じていたんじゃないでしょうか?

DEAN:たとえば「Echo」だと、「Let it snow!」でも一緒に楽曲を制作してくれたMitsu.Jさんの曲を高みまで持っていってくれる力に安心感を覚えていたので、自分としても思いっきり振り切ることができた部分があったと思います。他にも、東京を拠点にして活動をしていく中で様々な人との出会いがありましたし、技術的なものも、感性的なものも、学べることが沢山あって。「次の曲ではこんなことにトライしてみよう」とか、「前回はこうしたから、今回は逆にこうしてみよう」とか、「ここが足りていなかったからこうしてみよう」とか、色んな気づきを感じながら楽曲を制作していました。

DEAN FUJIOKA「Echo」Music Video

ーーそしてこれ以降は、今回のアルバム用の新曲が並んでいますね。この新曲群に関しては、アルバムに向けて、制作前に考えていた方向性などはあったのでしょうか?

DEAN:新しい曲を作っていく時点で、それまで曲を作る中で「次はこんなことをしてみたい」というアイデアが色々と出てきていたので、その流れに身を任せていくような感覚だったと思います。たとえば9曲目の「Sakura」なら、古き良き桜ソングとはまた違うアプローチの“ネオ桜ソング”があってもいいんじゃないかな、というアイデアで作りはじめました。

ーーなるほど、“ネオ桜ソング”ですか!

DEAN:卒業シーズンに、学生服を着た男女がみんなで歌う桜ソングとはちょっと違うものがあってもいいんじゃないかな、という提案です。ただ、曲調は違っても“未来に向かって旅立っていくポジティブなイメージ”や“青春の輝きや甘酸っぱさ”は普遍的なものだと思うので、そのコアになる部分は大切にしつつ、それを別の解釈で曲にしたいと思いました。

ーー途中、コーラスだけをバックにDEANさんの歌声が乗る瞬間もありますが、これは桜ソングらしい合唱をイメージしたものですか?

DEAN:そうです。制服を着た学生の方たちがみんなで歌っていて、そこにリードシンガーも加わって体育館で歌っているようなイメージですね(笑)。

ーー一方、次の「Legacy」は音数がとても少ない曲になっています。

DEAN:「Echo」を作ったときに、あまりに絶望を感じさせる曲だったので、それとは対照的な「Hope」を作ってカップリングにしましたが、そのとき「クリスチャンソングを作ったら面白いだろうな」というアイデアも浮かんだんです。でも、「Hope」は結果的にもっと一般的な希望についての歌になったので、そのときのアイデアを「Legacy」で形にしました。日本にはクリスチャンソング的なものってなかなかないと思いますが、海外には沢山ありますよね。それに何より、これまで自分で作った曲にはそういうタイプのものがなかったので、それを形にしようと思ったんです。

ーーDEANさんがまだ形にしていなかった新しいテーマに挑戦した曲なんですね。次の「Accidental Poet」も、デジタルな加工がほどこされたクワイアという意味で、DEANさんが新しいアイデアに挑戦した楽曲だと思いました。Francis And The Lightsの作品や、Bon Iverの『22, A Million』などに通じる雰囲気を感じます。

DEAN:そういう音楽を聴いてきた影響が出た曲だと思うんですけど、実はもともとは、完成版のようなクワイア風の曲にしようとは思っていませんでした。最初はビートもあって、和音もついていたんですけど、どうしてもある一線を越えられていないような気がしていたんです。それで、どんどん音を少なくしていったら……「音を全部抜いて、自分の声だけにすればよかったんだ」と気づいた感じです(笑)。この曲は初めて、ボーカルテイクがほぼ一発録りでした。この曲だけジャカルタで(前作『Cycle』にもかかわった)DJ Sumoと一緒に録ったんですけど、「とりあえず録ってみよう!」とデモの録音をはじめて、その場で「こんな感じにしよう」と言いながらボーカルを録音していって。どんな風に歌うかを詰めずに録音するのは初めての経験でしたけど、その粗いクオリティの声の方がオートチューンがパキッと効いて、まるで壊れそうな、“傷があるから美しい”という雰囲気の曲になりました。そんなアクシデントで生まれた詩だから、「Accidental Poet」というタイトルにしたんです。

ーー声だけで曲を構成するというのは、なかなか勇気のいることだと思います。

DEAN:「本当にこれでいいのか?」とも考えましたし、逆に「何度も録りなおして綺麗にしすぎると、この曲の魅力がなくなってしまうんじゃないか?」ということも考えました。そのいいバランスを見つけるのがすごく難しかったです。アレンジの段階でも可能性は感じていましたけど、最後に東京でミックスしてもらって、曲の魅力をさらに引き出してもらいました。

ーーそして12曲目の「Fukushima」は、mabanuaさんが参加している曲で、DEANさんの故郷がテーマになっていますね。

DEAN:そうですね。もっと言うと、自分なりの“童謡”のようなものを作りたいと思っていました。「赤とんぼ」のような曲の系譜にある、新しいもの……。つまり、“ネオ童謡”ですね(笑)。そういう曲を作りたいと思って。それでmabaちゃん(mabanua)に、「一緒にやってくれませんか?」とお願いをして、最終的にシンプルな楽曲になりました。タイトルを「Fukushima」にしたのは、自分の生まれが福島だということもありますし、もうひとつは、アルファベットで「Fukushima」と表記したときに、そこについて回るネガティブなイメージがあると思うんです。自分が子供の頃は、福島のことを知っている人はすごく少なかったのに、今世界で「Fukushima」と聞くと、色んな人がネガティブな意味でその言葉を知っていて。だからこそ、その故郷の情景を音で表現して、世界から見た「Fukushima」という文字に、自分なりの新しい意味を加えたいと思いました。世界の人にとっては情報が「0か100か」になってしまっていて、ネガティブな「100」の方だけが知られていて。だとするなら、その土地を愛して暮らす人々がいたり、そこに望郷の思いを感じる僕のような人間がいたりすることを伝えたい、と思ったんです。これまでの積もる思いがあって、その故郷や、日本も含めた祖国というものへの自分なりの思いがあってーー。これは、これからもずっと持ち続ける気持ちで、今後も継続してやっていくことのひとつなんだと思っています。

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