高田漣が追求し続けるモダンビンテージサウンド ライブで洗練されたポップに再構築した楽曲たち
高田漣が、2018年12月27日、『高田漣 WINTER GAMES -冬のレン祭り-』の東京公演を渋谷CLUB QUATTOROで開催した。2017年リリースのアルバム『ナイトライダーズ・ブルース』の楽曲、「コーヒーブルース」(高田渡)「びんぼう」(大瀧詠一)といったルーツに根差したカバー曲、さらに2018年に発表した新曲「GAMES」「モノクローム・ガール」まで幅広い楽曲を披露。伊藤大地(Dr)、伊賀航(Ba)、野村卓史(Key)とともに、彼が追求し続ける“モダンビンテージ”サウンドをじっくりと聴かせてくれた。
“ガタンゴトン、ガタンゴトン”と汽車が走り出すシーンを想起させるドラムのフレーズ、まるで汽笛のように響くギターからはじまる「Ready to Go〜涙の特急券〜」、そして、朝帰りの男を主人公にしたブルースナンバー「ナイトライダー」からライブはスタート。どちらもアルバム『ナイトライダーズ・ブルース』の収録曲だ。カントリー、ブルース、ウエスタン、ブギウギ、モータウンなどのルーツ音楽を現代的なポップミュージックに結びつけたこのアルバムの楽曲は、ライブを重ねるごとに洗練され、さらに心地よいグルーヴを獲得している。2017年12月に行われたアルバムの発売記念ライブに比べ、演奏全体に軽やかさが感じられたのも印象的だった。細野晴臣のバンドメンバーでもある、伊藤大地、伊賀航、野村卓史とのアンサンブルも絶品。幅広い音楽を吸収し、そこで得たものをさりげなくプレイに反映させながら、高田漣の音楽世界を増幅させる彼らの演奏は、お世辞でも何でもなく、日本トップレベルだと思う。
高田のアコースティックギターから始まった「ハレノヒ」のあとは、弾き語りのコーナーへ。父親である高田渡の名曲「コーヒーブルース」、辻村豪文(キセル)の作詞による「熱の中」の叙情的な表現も良かったが、個人的にもっとも心に残ったのは、ストラトキャスターの弾き語りによる「月夜の晩に」だった。10代の頃に書いたという、憂いとロマンティシズムを兼ね備えたこの曲を高田は、映像を喚起させるようなギターとともにゆったりと描き出してみせた。
再びバンドメンバーがステージに上がり、大瀧詠一の楽曲を続けて演奏。「毎年、お正月にはっぴいえんどを聴いてたんですが、最近は12月になると、大瀧詠一さんのことを思い出します」という言葉から、まずは「びんぼう」。ブルージーなギターフレーズ、しなやかなグルーヴをたたえたアンサンブル、リズムを強調したボーカルが絡み合い、観客も体を揺らしはじめる。さらに骨太のファンクネスを感じさせるベースラインが鳴り響き、はっぴいえんど名義の「はいからはくち」へ。心地よく跳ねるワウギター、パーカッシブなドラムを含め、70年代サウスロック直系の原曲の雰囲気とはかなり異なるアレンジだった。
そしてこの日のハイライトを演出していたのは、2018年に発表された新曲だった。「ジャケットの車のイラストは、実際に僕が乗ってる車なんですよ。まあ、それとはぜんぜん関係ないんですけど(笑)」というMCから、「モノクローム・ガール」。ニューオリンズ的なアレンジと現代のシティポップのテイストが混ざり合ったこの曲は、古き良き音楽をポップに再構築する、彼のセンスと技術がしっかりと反映されたナンバー。初めてライブで聴くであろう観客からも、大きな拍手が巻き起こっていた。
ピアノのハタヤテツヤ、コーラスのバクバクドキン(YUI、NAOKOのユニット)を交え、7人編成で披露された「ハニートラップ」(伊藤大地の口笛も絶品!)のあとは、未発表の「ハロー・フジヤマ」。軽快なソウルネスをたっぷり含んだアンサンブル、超キャッチーなメロディライン、日本的エキゾチズムを投影した歌詞がひとつになったこの曲もまた、現在の高田のモードを端的に示していた。
さらに「GAMES」も。2018年夏にリリースされた原曲は砂原良徳のプロデュースによる“テクノ×エレクトロファンク”なダンスチューンだが、この日の演奏はオール生楽器。キレ味鋭いリズムとリラックスしたボーカルのバランスが良く、思わず身体を揺らしたくなる。
激シブのボトルネックギターに導かれたロックンロールナンバー「文違い」からライブは後半へ。「ラッシュアワー」、そして高田のスティールギターをフィーチャーした「Take It Away, Leon」で本編は終了。アンコールでは、MVに出演した子役の鳥居颯くんがゲストで登場した「ハニートラップ」、そして、この日3曲目の大瀧詠一の楽曲「夢で逢えたら」を歌い上げ、ライブはエンディングを迎えた。
2019年3月6日には、この日演奏した「GAMES」「モノクローム・ガール」「ハロー・フジヤマ」「はいからはくち」などを収めたニューアルバム『FRESH』をリリース。MCで「次のアルバムは、神妙な場には似合わないかも(笑)。気負わずに聴いてもらいたいです」と話していた本作は、高田漣のポップサイドを押し出したアルバムになりそうだ。ソロデビューから17年。ルーツミュージックとポップスを結びつける高田のトライアルは、本作『FRESH』によって大きな成果を挙げることになるだろう。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。