桑田佳祐、松任谷由実、北島三郎が並んだ“平成最後のお祭り” 2018年『紅白』が盛り上がった理由

 ほかにも取り上げるべき歌手はまだまだいるのだが、あと一組だけ挙げるとすればやはり、今回テレビで初歌唱となった米津玄師になるだろう。前半に登場したDAOKOやあいみょんとともに、その存在はネットの普及を背景にした新しい時代の息吹を感じさせた。そして彼の郷里である徳島からの中継で歌われた「Lemon」は、静謐さを強調した見事な演出も含めて期待に違わぬ強烈な印象を残すものだった。

 ここで注目しなければならないのは、この楽曲が「大切なひとを失った喪失感」を歌ったものだということだ。

 それは最初に述べた今回の『紅白』の「明るさ」とは一見矛盾する。しかし、ゆずが、嵐が、そして北島三郎らが語っていたように、平成は二度の震災など災害に見舞われ続けた時代だった。そこにもやはり、多くのひとが身近なひとの死によって体験することになった深い喪失体験がある。だがそのことがあるからこそ、歌の力がもたらしてくれる「明るさ」はより価値あるものになるのだ。

サザンオールスターズ『海のOh, Yeah!!』

 そして今回、そんな「明るさ」の持つエネルギーを一気に解放して昭和と平成を融合させてくれたのが、サザンオールスターズであった。そのことは、今回メドレーで歌われた「勝手にシンドバッド」と「希望の轍」が象徴している。

 1978年発売の「勝手にシンドバッド」のタイトルは、周知のように阿久悠作詞の大ヒット曲「勝手にしやがれ」と「渚のシンドバッド」を組み合わせたものだ。ジャンルとしてはロックでありながら、そこには昭和の歌謡曲のエッセンスが盛り込まれている。一方、「希望の轍」は平成になってすぐの1990年の発売。その後この曲は長く支持され、平成を代表する応援ソングになった。

 最後に「勝手にシンドバッド」で出場歌手全員がステージに登場してお祭り騒ぎになったとき、桑田佳祐を挟んでユーミンと北島三郎が並ぶかたちになった。それが感動的だったのは、三人が掛け合いをしながら歌い踊る姿に、昭和を経て平成が終わろうとするいま、未来への確かな“希望”が一瞬垣間見えたように思えたからに違いない。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

関連記事