デヴィッド・ゲッタ×FEELCYCLEが生む新しい音楽の楽しみ方 最新アルバムとの相性を考察

 ランニングやエクササイズを行う際に、EDMをBGMにしている方は少なくないだろう。BPM120〜140ほどのEDMの多くは、フロアの観客たちを気持ちよく“踊らせる”ために作られた機能的な音楽であり、その様式は今ではほとんど完成されていると言って良いほどである。中でも、2010年代頃から世界中で一大ムーブメントを巻き起こしたビッグルームハウスと呼ばれるサブジャンルは、ハウスミュージックならではの反復するビートによる高揚感と陶酔感がありながら、歌モノの親しみやすさも加えられているため、聴く人を選ばない間口の広さがある。ビルドアップ(サビに入る直前にドラムパターンの変化などによって、聴衆を焦らしたり、意外性を与えたりする音楽的テクニック。近年のEDMアーティストのクリエイティビティが集約されているポイントのひとつ)によって溜めに溜めたエナジーが、ドロップ(サビ)で一気に爆発する展開は、じっとして大人しく聴いている方がよほど難しいくらいだ。体を動かして気持ちのよい汗をかくには、まさに打ってつけの音楽といえる。

 そんなEDMを大音量で浴びながら、人目を気にせずにバイクエクササイズを思う存分に楽しめるスタジオがあるのをご存知だろうか? 今回紹介する「FEELCYCLE」(フィールサイクル)は、音楽に合わせて踊るようにエクササイズを行うことが可能な、日本初となる暗闇バイクエクササイズの専門スタジオだ。クラブのようなライティングと、極上のサウンドで鳴らされる最先端の音楽によって、海外のスタジオに遊びにいったかのような非日常的な体験ができると評判である。しかも、インストラクターが楽曲の展開に合わせて、ペダルの回転数や負荷、運動内容(立ち漕ぎ、前後左右運動等)などを指示してくれるので、初心者でも簡単に楽しめるだけではなく、ドロップではスタジオ全体が一体感と高揚感に包まれるという。運動好きにとってはもちろん、音楽好きにとっても興味深いエクササイズといえよう。

 もちろんFEELCYCLEは、音楽のセレクトも重視している。通常のエクササイズスタジオと同じように、プログラム単位でのスケジュールが組まれているのだが、そこにはどんなジャンルの音楽がかかるのかも明示されているため、遊びに行くクラブイベントを選ぶように、好みのプログラムを選択することが可能だ。アーティストとのコラボレーションにも力を注いでおり、今回なんと、EDMムーブメントを牽引したビッグルームハウスの巨匠であり、“人類最強DJ”との異名さえあるデヴィッド・ゲッタとのコラボレーションが決定した。FEELCYCLEのスタッフによると、デヴィッド・ゲッタの楽曲は同スタジオが営業を開始した当初からプログラムに入っていてすでに人気があったため、会員の間でも、待望のコラボレーション! と話題沸騰中だ。

「FEELCYCLEが大事にしていることのひとつは、“新しい音楽との出会いの場となること”です。レッスンを通して、今までデヴィッド・ゲッタを知らなかった方が彼のファンになる、ということもあります。音楽好きの方に喜んでいただいているのはもちろんですが、しばらく音楽離れしていた方が、ビートに乗り、ペダルを漕ぎながら全身で音楽を感じ“音楽とひとつになる”という新たな体験をすることで、再びその魅力に目覚めるというケースもあとを絶ちません」(FEELCYCLEスタッフ)

 デヴィッド・ゲッタの約3年ぶりとなる待望の新アルバム『7』は、ヒップホップやR&Bの旬なアーティストを起用し、さまざまな音楽ジャンルの架け橋となる活動を展開してきた彼らしく、今回も期待を裏切らない豪華なフィーチャリングゲストがずらり。アン・マリー、シーア、ジェイソン・デルーロ、ニッキー・ミナージュ、マディソン・ビアー、ジャスティン・ビーバー、スティーブ・アオキ、G・イージーなど、現在の音楽シーンを俯瞰するようなメンツが揃っている。本作を通じて新たに知ったアーティストをさらに深掘りしていけば、そこにどこまでも拓かれた新たな音楽の世界を見いだせるだろう。まさに、FEELCYCLEが掲げる“新しい音楽との出会い”を創出し、リスナーを終わりのない音楽の旅へと誘う作品であると言える。

 音楽性の進化と深化も、大きなポイントだ。Destiny's Childの元メンバーであるケリー・ローランドや、The Black Eyed Peasのファーギーなどをフィーチャリングゲストに迎えて、現在のデヴィッド・ゲッタの評価を形成した2009年のアルバム『One Love』の頃から、アーバンかつポップなサウンドメイキングがその音楽的特徴だったが、本作ではそうした魅力を保ちつつも、近年のポストEDMの流れを汲み、よりリラクシンでメロウネスなアプローチを行なっている。UKの空手歌姫ことアン・マリーが〈私をひとりにしないで〉と歌う一曲目「Don’t Leave Me Alone」から、レイドバックした心地良いムードが漂っているのが印象的だ。もしFEELCYCLEのプログラムで聴いたら、夕焼け時のアメリカ西海岸の街をクルージングしているような気分を味わうことができるのではないだろうか。

 さらに、『7』は二枚組の作品となっており、CD2にはジャック・バックという別名義でプロデュースした12曲が収められている。こちらはデヴィッド・ゲッタがクラブDJとして活動していた時期に原点回帰した作品で、ストイックなディープハウスやテクノを集めた、1枚目とは対称的な作品に仕上がっている。ビッグルームハウスが様式化し、より派手さや過激さが求められていった流れへのカウンターとも捉えられる、シンプルながら練り込まれた潔いトラックの数々からは、ハウスミュージックというものへの深い敬愛と憧憬が感じられる。世界的DJへと成長していく中で付いていったあらゆる肩書きを取り外し、丸腰のミュージシャンとして、改めて自らの核にある音楽ジャンルに挑戦したかったのだろう。より真剣に、とことんFEELCYCLEと向き合ってみたいと考える野心的な上級者にとって、これほどピッタリな作品はなかなかあるまい。50代となり、DJとしては円熟期を迎えながらも、今なおチャレンジングな姿勢を保ち続けるデヴィッド・ゲッタのビートと一体になる体験は、肉体的にはもちろん、精神的にも貴方をパワーアップさせてくれるはずだ。

(文=松田広宣)

■リリース情報
『7』
発売:2018年10月10日(水)
価格:¥2,700(税抜)
アルバム『7』商品ページ

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