映画『デッドプール2』、劇中曲から伝わる“80’sポップソングへの歪んだ愛” 宇野維正のサントラ解説

 「保守的な層に好まれている80年代の白人女性シンガー代表」という共通点において、前作のオープニングで使用されていたカントリーシンガーのジュース・ニュートンとも呼応する、今回のセリーヌ・ディオンの主題歌起用については少々補足が必要だろう。もちろんセリーヌ・ディオンも80年代から活躍してきたシンガーの一人だが、より直接的な狙いとしては『美女と野獣』(1991年)や『タイタニック』(1997年)における「大作映画主題歌御用達歌手」としてのセリーヌ・ディオンの起用、それ自体が壮大なパロディとなっている。さらに、その楽曲の無駄な壮麗さと重々しさ、そして作中のタイトルバックや使用方法は一目瞭然、アデルやサム・スミスの大げさなバラードを起用してきた近年の『007』シリーズのパロディでもある。『デッドプール』というシリーズはこのように、アメコミ・ヒーロー映画に限らず、二重にも三重にも様々な引用とオマージュとパロディが張り巡らされている。

Céline Dion - Ashes (from the Deadpool 2 Motion Picture Soundtrack)

 セリーヌ・ディオンとデッドプールがコラボしている「Ashes」のMVは現在3100万回再生を突破している。舞台上で無駄に仰々しく主題歌「Ashes」を歌い上げるセリーヌ・ディオン。その周りで『フラッシュダンス』のジェニファー・ビールスのような無駄に華麗なダンスを披露するデッドプール。歌い終わったセリーヌに、デッドプールはこんな言葉をかける。「セリーヌ! アメイジングだったよ! これまでの人生の中で見た最も美しいパフォーマンスだよ! でも、もう1度やり直してくれない?」。訝るセリーヌにデッドプールはこう続ける。「君の歌は最高すぎるんだよ。でも、これは『タイタニック』じゃなくて『デッドプール2』なんだ。これじゃ10点満点で11点って感じじゃない? 『デッドプール』はもっとテキトーに、5点か5点半ぐらいの感じいいんだ」。怒ったセリーヌはこう返す「私の歌には11点しかないの! わかった? スパイダーマン!」。オチはデッドプールの「'N Syncにでも頼んどきゃよかった……」という独り言。このように、主題歌のミュージックビデオ一つとっても『デッドプール』のクオリティ・コントロールは完璧に効いている。

Diplo, French Montana & Lil Pump ft. Zhavia - Welcome To The Party (Official Video)

 世界各国で前作を上回るメガヒットを記録中の『デッドプール2』。その作品、そしてサントラを心の底から楽しみ尽くす上では、引用元、参照元の記憶を総動員して、そのような「5点か5点半ぐらいの感じ」を余裕をもって嗜む高度なリテラシーを必要とすると言ってもいい。まあ、そのまま無邪気に観て、無邪気に聴いても、存分に楽しめるからこそ、ここまでヒットしているとも言えるわけだが。サントラにはディプロ、フレンチ・モンタナ、リル・パンプ、ジャヴァイア・ワードという超豪華なメンツによる新曲「Welcome To The Party」も収録。本編中のアクションシーンが満載のミュージックビデオと合わせて、こちらも必聴だ。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■リリース情報
『「デッドプール2」オリジナル・サウンドトラック』
発売中
価格:¥2,376(税込)
<配信>
iTunes

『「デッドプール2」オリジナル・スコア』
6月29日(金)
オープン価格
音楽:タイラー・ベイツ 
ピクチャー・ディスク仕様/透明スリーブ入
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※完全生産限定盤につき、在庫が無くなり次第販売終了。

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<輸入盤商品>
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■映画情報
『デッドプール2』
出演:ライアン・レイノルズ、ジョシュ・ブローリン、モリーナ・バッカリンほか
監督:デヴィッド・リーチ 
脚本/製作総指揮:レット・リース/ポール・ワーニック 
配給:20世紀フォックス映画
公式サイト 

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