ユアネスが東京初ワンマンで示した、過去の延長線上にある今と未来

　それぞれの楽器が優美ながらも大胆に爆音をかき鳴らし、メランコリックなメロディを紡ぎ出す。しかし、不思議と黒川の歌声が消されることはない。楽器隊3人が生む音に黒川の歌声が絶妙に混ざり合っているのだ。

　ステージの上からソールドアウトしたフロアを見て黒川は、ユアネス結成当時の想いに耽る。「結成当時のことを覚えてるから、すっごく不思議な感じだよな～って。正直本当に、まだ実感があまりないですけど……」と今この場所に立っていることに対して感慨深げに呟いた。続けて「もともと音楽が好きで始めたわけじゃないし、誰かに憧れてバンドを始めたわけじゃないけど、誘ってもらってずっとやっていく中で、どんどんどんどん音楽が好きになっていって。今僕、真ん中に立ってるんです。それがすっごく不思議で仕方ないんですよね」とメンバーを見渡しながら、顔をほころばせる。

　そしてライブハウスいっぱいの観客と一緒にステージに立つメンバーに向かって「ユアネスで音楽をやってる目標っていうのは、武道館でライブがしたいとか、メジャーデビューがしたいとか、誰かと共演したいとかっていう、そういった特に決まった目標っていうのがないんですけど」と赤裸々に告白し、言葉を詰まらせながら「僕はみんなにずっと今後ライブハウスで会いたいと思ってるし、メンバーと長くずっと一緒にいたいと思ってるので……」とユアネスで音楽をやり続ける理由を宣言した。

　メンバーそれぞれが過去を振り返りながら、だからこそある今を大切にするように一つひとつの音を丁寧に奏でていくユアネス。今日という日が彼らのどんな未来に繋がっていくのだろうか。そして、あの場所にいた私たちもまた、今日という日がきっとこれからの私たちを作る一つの要素になったに違いない。この日ユアネスは地元・福岡から東京に拠点を移すことを発表している。新しい土地、東京でユアネスはこれからどんな“思い出”を作り出していってくれるのだろうか。

（取材・文＝戸塚安友奈／写真＝高田梓）