ケイシー・マスグレイヴス、Soccer Mommy、 Caroline Says……心洗われる“歌モノ”新譜5選
春の訪れとともに、温かい歌声が恋しくなってきました。「純粋にいい曲」って、一昔前まではFeistの「1234」のように、TVやラジオ、あるいはレコード店から火がついて周期的にヒットしたものですけど、最近は(洋楽に限ると)あまり聞かなくなった気がします。それもあって今回は、自分がレコード店のバイヤーだったら猛プッシュするであろう、 心洗われる歌モノを5枚取り上げることにしました。
ケイシー・マスグレイヴス『Golden Hour』
これが評判に違わぬアルバムで、まずは曲の完成度にビックリ。「Happy & Sad」という曲がわかりやすいですが、どの曲もメロディがふくよかで味わい深く、イントロからサビへと至る流れも絶妙なんですよね。その巧妙なソングライティングに加えて、晴れやかで透き通ったボーカルと、内省的な憂いのフィーリングを兼ね備えているのもポイント。爽快だけど物哀くて、センチメンタルなのに人懐っこい。ヒップホップ/トラップが黄金期を迎えている昨今、オーセンティックなポップソングがここまで胸に響くのも、なんだか久しぶりな気がします。
普遍的な曲のよさに加えて、カントリー特有の土臭いイメージとはかけ離れた、モダンで洗練されたアレンジも『Golden Hour』の魅力。ボコーダーを用いた歌声の加工処理、丁寧に敷かれた煌びやかなシンセ音、スペーシーに鳴り響くペダル・スティール、はたまたディスコ調に弾けたナンバーまで、先鋭的なアプローチが楽曲の旨みを引き立てています。ローリングストーン誌が本作について、「未来派と伝統主義の出会い」「カントリー、フォークとドリーミー・エレクトロニカの融合」と評しているのも納得。個人的には、かつてオルタナカントリーと呼ばれていたWilcoが、2002年の名作『Yankee Hotel Foxtrot』で大化けした時の衝撃を思い出したりもしました。
Soccer Mommy 『Clean』
そもそもこのアルバム、いわゆる宅録女子が初めてバンド編成でスタジオ録音を行った……はずなのに、演奏もめちゃくちゃシンプルだし、ディストーションしているはずのギターも全然うるさくないから(密室っぽい響きがバンド感をスポイルしているというか)、そんなふうに聴こえないんですよね。実際には、鍵盤の音色や凝ったスタジオワークにも明らかな通り、精巧に作られたアルバムなのは間違いないけど、ラフスケッチみたいな質感のせいで、ベッドルームで録られたデモ集っぽくも思えてくる。この曖昧でパーソナルな音像を、『Clean』と名付けるセンスも痺れます。それに何より、クールなのに情感がこぼれ落ちそうなボーカルがたまりません。
Caroline Says『No Fool Like An Old Fool』
こちらはアラバマ出身で、現在はテキサスを拠点にしているキャロライン・サリーによるソロプロジェクト。名義はもちろん、ルー・リード(Velvet Underground)の同名曲に由来しています。ヴェルヴェッツといえば、「Pale Blue Eyes」というドリームポップの雛形になった名曲がありますが、Caroline Saysもあのロマンティックな響きを受け継いでいる模様。サーフポップやボサノヴァの影響もチラつかせながら、とろけそうなコーラスがリバーブの海へと誘います。前作はもっとバンドっぽい曲もあったんですが、今回は全編ドリーミーに振り切っているのは大正解。収録時間も28分と短く、永遠に聴いてられそうです。先日ニューアルバムを発表した、Yo La Tengoが好きな方もぜひ。