『TABOO LABEL Presents GREAT HOLIDAY』インタビュー

菊地成孔が語る、主催イベント『GREAT HOLIDAY』の狙いとSPANK HAPPYの再結成

『TABOO LABEL Presents GREAT HOLIDAY』について

――5月13日にageHa @STUDIO COASTにて開催される『TABOO LABEL Presents GREAT HOLIDAY』は、レギュラーライブイベント『HOLIDAY』の集大成という感じですか。

菊地:そうですね。『HOLIDAY』は、CD不況の世の中でライブイベントが力を持ち始めてきたので、代官山UNITでドワンゴさんの生中継も入れつつ、TABOOレーベルのショーケースライブとして、トリプル・ビル形式でうちのレーベルのバンド2つと、よそさまからのバンドを1つ迎えて開催してきたイベントで、1年通して続けてきました。今年は5周年なんで、『HOLIDAY』を『GREAT HOLIDAY』に拡張して、場所もUNITからageHaへ移動して、全員で出ましょうと。総力戦で、レーベルウォーにしましょうという感じです。僕自身は、ペペ・トルメント・アスカラール、DC/PRG、JAZZ DOMMUNISTERSの3バンドでの出演に加えて、SPANK HAPPYの再結成ライブも行う予定です。

――SPANK HAPPY、再結成されるんですね。

菊地:特に理由はないんですけど、きっかけ程度のこととしては、僕『菊地成孔の粋な夜電波』というラジオ番組をやっていて、当たり前ですけどレイティングがでるんですね。裏番組との兼ね合いとかもあって、大勝ちして同時間帯1位を欲しいままにしてた時期もあるし、NHKの老舗番組に食われて苦しかった時期とかもあるんですけれど、少し前に「NON STOP SPANK HAPPY」といって、まったく解説しないで、1時間SPANK HAPPYの曲だけをDJでつないで流したところ、番組史上いちばんのレイティングだったんです。そのときにラジオを聴いていた人の過半数がそれを聴いていたという状況で、TBSもすごい盛り上がったんです。なので、SPANK HAPPYに関してはマーケットにまだ需要があるなと。それがユースにあるのか、ヤングアダルトにあるのか、完全なアダルトにあるのかわかんないですけど(笑)、SPANK HAPPYはおそらく、リリースされた当時はやっていることが早すぎたんだと思います。今だったら別にそんな変わった音楽じゃなくて、普通にいい音楽として受け入れられる。当時はすごく変わった音楽で全然売れなかったんで、伝説のバンドってことでSPANK HAPPYには蓋しとこうかと思ったんですけど、「SPANK HAPPYやろうかな」って言っただけで周りがどよめくし、だったらやろうかなと。また新しいボーカリストを迎えて、「最終SPANK HAPPY」として、この期で本当に終わらせようっていう感じです(笑)。『GREAT HOLIDAY』では、SPANK HAPPYは顔見せ的に3~4曲ぐらいやって、「あのボーカルの人なんなんだろう」って間にスッと帰っちゃうつもりで、本格的に活動を始動するのは夏以降ですね。ボーカルは当日まで内緒ですが、新人ではなく、もうすでに活動されている非常に才能豊かな人で、僕よりも曲が書けるぐらいちゃんとしてる人です。今までのSPANK HAPPYは、相方はただ歌うだけで、曲も詞もアレンジも全部僕がやっていたんですけれど、次の相方は曲も詞もアレンジも全部できるので、初めて音楽ユニットとして対々の関係を結べる。

――SPANK HAPPYもTABOOレーベルから出るんですか?

菊地:そうですね。細かいことを言うと、デビュー曲だけはちょっと違うんだけど、アルバムはTABOOレーベルから出る予定です。市川さんも作り終わったし、これからオーニソロジーを丁寧に作って、並行してSPANK HAPPYの準備をして。で、オーニソロジーが出る頃にはSPANK HAPPYもすぐ出せるように準備を進めています。

――JAZZ DOMMUNISTERSなどではヒップホップ界隈の人と一緒にやっていたりしますけれど、今回のイベントでもラッパーをフィーチャリングしたりはするんですか?

菊地:今回は、ヒップホップ色はギリギリまで抑えられていて、ポップミュージックとR&Bを中心にする感じです。JAZZ DOMMUNISTERSも、今回はICIさえフィーチャリングせず、大谷能生くんと2人でひたすらDJをやるだけ。『HOLIDAY』のなかでヒップホップ色があるのは、Rinbjoこと菊地凛子さんとJAZZ DOMMUNISTERSだけなんで、ラップもほとんどやらないと思います。

――ご自身が出演している4バンドは、それぞれまったく違う音楽性ですよね。

菊地:結局、同じ奴がやってるんで、エッセンシャルなメッセージは変わんないんですけれど、ペペとDC/PRGとJAZZ DOMMUNISTERSとSPANK HAPPYは外装が全然違いますよね。なので、音楽性の違いをお楽しみいただいてという感じで。1人の人がいっぱいバンドをやるのは別に珍しくないですけど、4つやってこれが限度じゃないですかね。あと増やしたって何かの模倣になるだけで、もう自分でギター1本弾いて歌うとかね(笑)。

――『HOLIDAY』はずっとクラブで開催されてきていますが、その狙いは?

菊地:とにかくユースに知らしめたいということがあるんだけど、残念ながらまだまだ移行期という感じで、ジャズ客が多いんですよね。日本ではジャズとR&Bとヒップホップが融合しうるということが、一般の人にはまだまだ知られていない。ジャズは日野皓正さんみたいな感じで、R&Bやソウルは鈴木雅之さんで、ヒップホップは『フリースタイルダンジョン』に出てくるような人たちという感じで、住み分けられちゃっている。これらはたやすくひとつのものにまとまるんだっていうことを、あんまり知られていない状況ですよね。だから、クラブでの開催で公演の値段を下げることによって、ユースが来やすいようにしたかったんですけれど、結果として気の若いおじさんがいっぱい来てしまった。つまり、既得圏のジャズからの客ですよね。ジャズボーカル好きのおじさまにしたら、ものんくるの吉田沙良ちゃんとか、市川愛さんとか涎だらだらですよね。だから喜んで応援してるわけで(笑)。まぁ、彼らがいることにはなんの問題もないんだけど、もっとSEKAI NO OWARIとか聴いてる人たちに、片隅にこういうものがあるんだということを知ってもらいたいんですよ。ものんくるは、代官山UNITでやるよりBlue Noteでやった方がほかほかする状態で、でも彼らはそれで満足はしていないんですよね。やっぱりクラブで客がわっさわさになるのが目標でしょうから。欧米では、ロバート・グラスパーの『Black Radio』がすごい盛り上がったんだよね。もともとジャズが好きなオヤジも喜んだし、R&B、ヒップホップが好きな若者も喜んだ。マーケットが拡張されたんですよ。でも、日本はR&Bの客も少ないし、アニソンとアイドルの国だから。アメリカみたいにジャズの客層もいっぱいいて、R&Bの客層もいて、合わせたら倍化するっていうような、夢のストーリーが成り立たないんですよね。どっちも細くて(笑)、2本寄り合わせてもねって感じなので、なかなか難しいなとは思いますけど。でも、このイベントを機会に、菊地成孔がやってんだからジャズのレーベルでしょ?っていう先入観を取っ払ってもらって、ちゃんとR&B、ポップス、AORをやってますよと。日本の場合、なんちゃってでR&BやAORをやる方がクールに見えたりするけれど、ジャズスキリングがある人たちがやるとこうなるんだよっていうのを示して、マーケットを作っていきたいですね。やっぱりマーケット自体を作っちゃうことが大事ですから。

(取材・文=編集部)

■イベント情報
『TABOO LABEL Presents GREAT HOLIDAY』
出演:市川愛、オーニソロジー、菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール、けもの、JAZZDOMMUNISTERS、DC/PRG、ものんくる
公演日:2018年5月13日(日)開場:14:00 開演:15:00
会場:新木場 STUDIO COAST
入場料:¥6,500(税込)オールスタンディング(整理番号付き)
※入場時ドリンク代別途必要 ※6歳未満入場不可 ※開場開演、チケット代は変更の可能性あり

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