『テレビとジャニーズ 〜メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?〜』刊行記念

社会学者 太田省一が語る、“テレビとジャニーズ”の過去と未来 書籍刊行記念インタビュー

ジャニーズ全体で魅力を出す展開にも期待

佐藤:太田さんが考える“ジャニーズの魅力”とはどのような部分にあるのでしょう。

太田:ジャニーズを好きになるのって、究極を言えばやはり人間性なんですよね。故・蜷川幸雄さんのラジオ番組『蜷川幸雄のクロスオーバートーク』に出演したジャニー喜多川社長がアイドルづくりについて問われた時、「アイドルづくりは人間づくりなんだ。成長しない子どもはいませんよ」という趣旨の発言をしていたのが強烈な印象に残っています。「成長しない人間はいない」と断言できるのはすごいことだなと。もちろんそこにはジャニー氏の「人間を見る目」もありますが、ジャニーズに所属する人たちに共通する人間性として「成長のための努力を惜しまない」ということがあるのだと思います。それがアイドルの成長プロセスを見る喜びにもつながっている。それはテレビにも共通して言えることでもあって。テレビは完成されたものを見るより、ある人の不完全な部分、努力や経験を積んで成長していく姿を見るほうが喜びがあるんです。たとえば、『プレバト!!』で千賀健永さんが俳句で1位を獲って号泣したことがありました。努力をし続けるという意志や人間性がジャニーズをテレビで見る時の喜びや楽しさにつながっているように思います。

佐藤:そうですね。Kis-My-Ft2や舞祭組の体当たりなチャレンジには、特に色濃く感じます!

太田:彼らのメインの活動は歌やダンスですが、司会など器用になんでもこなしますよね。テレビ番組で必要とされるリズム感、間の取り方がダンスなどの訓練で自然と身につくというのもあるのかなと。テレビではトークにしても演技にしても相手がいる時の間合いが重要となります。ジャニーズに入ることでそれが身についていき、様々な活動の中でさらに磨かれ、それぞれの場で発揮される。そしてその中でも得意な部分で個性が出てくる。ジャニー氏の「成長しない子どもはいない」というのはそういうことなのかもしれません。

佐藤:個性ということでいうと、活躍の幅が広がった分、冒頭の滝沢さんしかりそれぞれがすごくマニアックなところに介入している印象があります。ポジショニングとしても細分化されすぎているというか。

太田:来るところまで来ている印象はありますね。メンバーたちも「次はどこでアピールしよう?」という感じになっているのかと。だからこそ、音楽やダンス、パフォーマンスの部分をテレビでしっかり示す方向性も改めて開拓していいと思うんです。それがうまくできているのが関ジャニ∞の『関ジャム 完全燃SHOW』。いまのテレビに必要なマニアックさと大衆性のバランスが良く、今後のジャニーズの冠番組の一つのモデルになるでしょう。ここ数年テレビで存在感を示しているグループといえば、『鉄腕DASH!!』で誰にも真似できない境地にたどり着いたTOKIO、『東京フレンドパーク』のようなファミリー向けのゲーム番組『VS嵐』と自分たちの個性を出すような『嵐にしやがれ』を持つ嵐の2グルーブがいましたが、関ジャニ∞もいよいよその仲間入りを果たすように冠番組が増えています。『関ジャニ∞クロニクル』のようにあれくらいお笑いに取り組んでいるグループも他にはいないと思いますし、その意味でまさにトップランナーの列に加わろうとしているのではないでしょうか。

佐藤:そうですね。ジャニーズスタイルが成熟した印象を受ける中で、今後の“テレビとジャニーズ”に期待していることは?

太田:近い将来ポイントになるイベントは、間違いなく2020年の東京オリンピックです。つい先日もジャニー氏がジャニーズのタレントたちに英語を習得するよう言ったということがスポーツ紙などで話題になりました。ジャニー氏は1964年の東京オリンピックの記憶も踏まえつつ、自らのエンターテインメントを発信するチャンスとしてオリンピックを本気で捉えているはずです。

佐藤:たしかに2013年には2020-TwentyTwenty-という東京オリンピックにむけたグループを作るという構想もありましたよね。本でも触れられているように、歴代グループがバレーボールのサポーター的な立ち位置を務めたり、原点が野球チームであったりとスポーツとの関わりが深いジャニーズだからこそ、オリンピックでの活躍は期待してしまいます。日本のダンス&ボーカルグループ陣とのエンターテイナー共演も見てみたいですし、ジャニーズが一体となって盛り上げてくれたらうれしいです。

太田:それでいうと、最近のテレビ番組ではグループの枠を越えて共演するパターンが増えています。ジャニーズという大きな集合体がクローズアップされつつあるというか。『リトルトーキョーライフ』(テレビ東京系)のHey! Say! JUMPとジャニーズWESTのように、2つのグループがレギュラーを交互にやるものはすでにありますが、複数のグループがしっかり組んだ番組ができていくのではと期待を込めて思っています。

佐藤:年末年始の『ジャニーズカウントダウン』の中継や特番『元日はTOKIO×嵐』のようなTHE・ジャニーズのお祭り感は見ていて楽しいです。

太田:特番ではなくレギュラー的な番組があってもいいなと思います。Jr.ブームの時代には『8時だJ』などもありましたし。それぞれのグループのファンがいるので混じり合ってしまう感じになるのはイヤだという方もいらっしゃるかもしれませんが、テレビの企画・番組としてやる意義はあるように思いますね。

佐藤:個人的にはTOKIO、KinKi Kids、V6が阪神淡路大震災で立ち上げたJ-FRIENDSにはいつか復活してほしいと思っていて。鬱屈とした世の中をジャニーズの力で盛り上げようという働きは、震災を自分ごととして捉えるきっかけにもなりました。東日本大震災や熊本地震など大きな災害の時にはSMAPが支援を呼びかけてくれましたし、彼らの団結力には人を動かす力があります。

太田:次はどのグループの冠番組が始まるのかということも楽しみではありますが、やはりジャニーズ全体で魅力を出していくような展開も期待したいですよね。個々人が隙間産業のようにいろいろな番組に出ていくのもおそらくキリがないですし、先ほどもお話したように原点である歌とダンスにも注力してほしいなと。『ザ少年倶楽部』(NHK BSプレミアム)もありますが、地上波などでも歌やダンスを見せる機会がもっとあってもいいのではとは思いますね。

佐藤:舞台のエンターテインメントを目指して立ち上げられたジャニーズが、気づけば舞台とテレビが両輪になって活動していくようになりました。この先、もう一つの車輪としてネットが加わる時代がやってきそうな機運にありますが、それについては太田さんはどのようにお考えですか?

太田:舞台やコンサートに関しては、動画サイトでジャニーズチャンネルを開設したり、ライブ生中継をやるという手もありますよね。AKBグループやハロプロなど、女性アイドルはライブの生中継も当たり前になってきていますし。また2020年の東京オリンピックを意識するのであれば、なおさら世界に発信するためにネットは不可欠です。ネットを使うにしてもそれぞれの棲み分けがしっかりできれば連携できるはずです。テレビと舞台は連動しづらいですが、ネットと舞台、ネットとテレビは連動しやすい。ドラマでもスピンオフをネットで展開するという試みが始まっていたりしますよね。ネットを使った展開は今後さらに楽しみではありますね。

佐藤:Hey! Say! JUMP以降の人数の多いグループにはネットは合っているかもしれないです。テレビでは一人一人がカメラに抜かれる機会が少なくても、ネットを使うことでそれぞれのメンバーに光があたりやすくもなりますよね。

太田:テレビ番組のジャンルがそうなっていったように、今後はメディアの壁もボーダーレスに捉えていったほうがよいはずです。業界の事情はあるかもしれませんが、視聴者にとってはより楽しみが増えたほうがありがたい。テレビとラジオとネットが連動していくことで、違うかたちの楽しみ方がどんどん広がってほしいです。

佐藤:ライブ配信やネットラジオなど、様々なコンテンツとジャニーズをかけ合わせたら、“こんなこともできるのでは?”、“あんなことも面白そう”という想像はどんどん膨らみますね(笑)。最後に『テレビとジャニーズ』をどのような方々に届けたいですか?

太田:Webで連載していたコラムがベースなので、ぱらぱらと見ていただいてなんとなく目にとまったところから楽しんでいただければこの本の役割はとりあえず果たせるかなと思っています。そのうえでジャニーズが様々なジャンルのテレビに出ているのはどういうことなのか? ということを考える手助けになればいいなと。ジャニーズのファンの方々には、放送を終了してしまった番組も含め、年表や総論とともに振り返りながら楽しんでもらいたいです。一方でジャニーズに対してネガティブな先入観がある方にとっては、ポジティブに捉えるきっかけにもなるのではと期待しています。なので、ファンではない方にもよければ手にとってもらいたいですね。ちょっと裏話的なことになりますが、性格的にゴールを決めずに書き始めるのが好きなんです。そのほうがどういう結論にたどり着くのかと自分でワクワクしながら書き進めることができる。今までの本もそのように書いているので、今回も変わらないスタンスで書きました。編集者の方は書き手のことをよく見ていて、こんな感じのものが書けるのではと提案してくれなければ書けなかった回も中にはあります。そういう意味では、コミュニケーションの産物とも言えますね。また、資料として最後にある年表は編集の方に作っていただいたのですが、眺めているだけで楽しくこれがあってこそ良い本になったなと思っています。ですので、特にジャニーズファンの方は、テレビでジャニーズ番組を見る時は、一人一冊、一家に一冊、お供にしていただきたい、というのが欲張りな願いです(笑)。ファンの方にも個々にいろんなスタンスはあると思いますが、それぞれの思いを膨らませるために役立てていただけると嬉しいです。

(構成=編集部)

太田省一『テレビとジャニーズ 〜メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?〜』

■書籍情報
『テレビとジャニーズ 〜メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?〜』
発売:2018年2月21日(水)
価格:¥1,600+税
判型・頁:四六判・248頁

全国書店/Amazonにて発売

<著者プロフィール>
太田省一(おおた・しょういち)/1960年生まれ。社会学者、文筆家。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。専攻は社会学、メディア論、テレビ論。著書に『木村拓哉という生き方』『中居正広という生き方』『社会は笑う・増補版』(ともに青弓社)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社)、『ジャニーズの正体』(双葉社)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新聞出版)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(ともに筑摩書房)など。WEBメディア「Real Sound」ではコラム『ジャニーズとテレビ史』を連載。

関連記事