PKCZ®連続インタビュー企画:VERBAL(m-flo)
VERBALが目指す、理想のパフォーマンス「“思い出作りマスター”がオーディエンスをロックできる」
「『日本と同じような感じで、海外のクリエイターとも一緒にやれるな』と思えた」
ーーm-floのメンバーとして活動する一方、2001年頃からVERBALさんはプロデューサーとしてのキャリアもスタートさせます。
VERBAL:きっかけは『ASAYAN』の「ラッパーオーディション」ですね。審査員として参加させてもらって、Heartsdalesというフィーメール・ラッパーのユニットがデビューすることになったんですけど、エイベックスのスタッフから「プロデュースもやってよ」と言われて。最初は「プロデュースって何するんですか?」っていう感じだったんですけど(笑)、エイベックスからラップグループがデビューするのも初めてだったし、他にやる人もいなくて。見よう見まねでやりながら、少しずつプロデュースのおもしろさがわかってきた感じですね。僕は打ち込みも下手だし、自分で曲を作っていたら時間がかかってしょうがないと思ったから、知り合いのトラックメイカーやクリエイターに頼んで。そしたらどんどん曲が出来て、プロジェクトもいい感じで動き始めたんですよね。そこからですね、A&R的な動きをするようになったのは。
ーー海外のクリエイターとはどうやってつながったんですか?
VERBAL:大学に行っていたときから、まわりにミュージシャンが多かったんですよ。90年代はbirdさん、UAさんなど、アンダーグランドな音楽で活動しているアーティストも多かったから、いろんな海外のクリエイターからデモを渡されることもけっこうあって。NIGO®さん、WISE、IRIMARI、RYO-Zと一緒にやってたTERIYAKI BOYZの経験も大きかったですね。ファレル・ウィリアムス、カニエ・ウエストとも一緒にやれたし、僕は英語ができるから、直接話す機会も多くて。「日本と同じような感じで、海外のクリエイターとも一緒にやれるな」と思えたというか。
ーーファレル、カニエのようなビッグネームと直接やりとりできる日本のアーティストなんて、VERBALさん以外にはいないですからね。
VERBAL:ビッグ・ギャランティも絡んできますけどね(笑)。法務のことというか、契約内容の説明も任されていたんですよ。僕は説明するだけで、メーカーの方におつなぎする役目だったんですけど。日本とアメリカではやり方がぜんぜん違いますからね。「どうして自分で作った曲の権利を持てないんだ?」「いや、そうなんだけど、日本では違っていて……」とか。日本の音楽業界も「海外のアーティストと一緒にやるメリットって何?」という感じだったんです。「ホントに売れるの?」って聞かれたら「わかりません。約束はできないです」って言うしかないというか……。セレーナ・ゴメスが来日しても、Zepp Tokyoが埋まらなかったりするじゃないですか。
ーーそういう温度差は確かにありますよね。
VERBAL:そこはもう「この人はこういうアーティストで、すごい人なんですよ」ってバリューを説明して、がんばって引っ張っていくしかないんですよね。そういう意味では、LDHはすごくやりやすいんですよ。トップのHIROさんが音楽大好きな方で、「カッコいいことをやろう」とモチベーションを上げてくれるので。(リスナーを)エデュケーションして、日本のシーンを変えようという発想もあるし、「ついていきます!」って感じですね。LDHのアーティストはポップなフィールドで活動していますけど、ルーツはめちゃくちゃ濃いヒップホップだったりするんですよ。だから海外のアーティストとつながせてもらっても「待ってました!」って盛り上がってくれるんですよね。
ーーVERBALさんとLDHの関わりは、いつ頃からですか?
VERBAL:遡るとEXILEの前身のJ Soul Brothersとm-floがレーベルメイトだったんです。その前からHIROさんのことは知っていたし、僕はダンサーを目指していた時期もあったので、憧れの存在だったんですよね。直接関わったのは、EXILEが「銀河鉄道999」をカバーした時にラップで参加させてもらったとき。そのすぐ後に「SUPER SHINE」でもラップさせてもらって。m-floの楽曲(「ALIVE」)でATSUSHIくんをフィーチャーさせてもらったこともあるし、どんどん仕事する機会が増えてきて。ちょうど僕も自分で会社を立ち上げていたんですけど、HIROさんに「会社ごとウチに入っちゃってよ」と言ってもらったんです。
ーーLDHにおけるVERBALさんの立場は「国際事業部プロデューサー」。
VERBAL:いまはそういう形になってますけど、最初は「海外案件が増えているので、とりあえず国際事業部って言っていいですか?」という感じだったんです(笑)。その後、優秀なスタッフも入ってきてくれて、すごくスムーズになってますね。日本から海外のアーティストにコンタクトを取る場合、以前は「まずレーベルに連絡して、そこからマネージメントにつないでもらって…」という感じで、(アーティストと)直結は無理っていう感じだったじゃないですか。でも、僕は「何でダメなんですか?」という入り方なんですよ。実際、アーティストに会えるまでのスピードも速くなってるんです。PKCZ®の楽曲に参加してくれたAfrojackも、この会社に来てもらったんですよ。馬が合えば一緒にやればいいし、合わなければやらないでいいし、来てもらったほうが話が早いので。
ーーすごいですね、そのスピード感。
VERBAL:向こうのアーティストは自分でマネージャーを雇っているケースが多いから、「俺に直接連絡してくれたほうが早い」という感じなんです。AfrojackもLDHのメンバーと何度か飲みに行くうちに仲良くなって、「おもしろいことやろうよ」みたいな話になったので。結局は人間関係ですからね、クリエイティブって。
ーーなるほど。特にPKCZ®のメンバーとは同世代だし、分かり合える部分も大きいのでは?
VERBAL:通ってきたところが似てるというのはありますね。僕らって、スーパー体当たり世代のひとつ下なんですよ。HIROさんたちの世代が無理矢理こじ開けてくれたところに入っていけたし、ストリートの感覚もありつつ、「これはやめたほうがいいな」というちょっと賢いところもあって(笑)。PKCZ®としても「一味違うことをやりたいね」という話をしているんですけど、あ・うんの呼吸で伝わるので。僕らって、言ってみれば1周してるじゃないですか。MAKIDAIはEXILEのパフォーマーから勇退したわけだし、僕もm-floやTERIYAKI BOYZを経験しているし、DARUMAくんもいろいろなシーンで活動してきて。いい意味で大人というか、自分たちの好きなことを浸透させるために「ここはガマンして、こっちをやろう」というジャッジもできるし、「こういう広いプラットフォームで尖った曲をブッこんでみるのもおもしろい」という判断もできるので。
ーー三代目 J Soul Brothersのドームツアーに参加する一方、「ULTRA SINGAPOLE 2017」(シンガポール/6月11日)、「Tomorrowland」(ベルギー/7月23日)などの世界的EDMフェスに出演。活動の幅も広がってますね。
VERBAL:日本のファンはEXILEやm-floのイメージもあるだろうし、いきなりSmoothe Da Hustlerをかけても「なんのこっちゃ」という感じだと思うんですよ。まずはみんなが聴きたい曲から入って、いろいろな曲を混ぜていかないといけない。でも、海外のフェスはやりたい放題というか、とにかく盛り上げなくちゃいけないので。EXILE、m−floなんて誰も知らないし、新人ですからね。ただ「ULTRA SINGAPOLE」のときは出演時間が昼の1時くらいで、炎天下だったんです。それでも「こういう曲だとリアクションがあるんだな」ということがわかったし、勉強になりましたね。
ーー日本のメジャーシーンでも、最新鋭のダンスミュージックを取り入れた楽曲が増えているし、新しいムーブメントが起きる可能性も広がっているのでは?
VERBAL:確かにリスナーの耳は肥えてきてるだろうし、「何がカッコいいか」という知識も増えてるとは思いますね。ヒップホップやトラップなども抵抗なく受け入れてる気がするし、そこからモダンフォームのポップミュージックにつながっていくんじゃないかなって。あと、いまはいろんな発信の方法があるじゃないですか。音楽やファッションだけではなくて、インスタなどを通して、ライフスタイルを垣間見せることもできる。いまのアーティストは僕らがデビューした頃に比べるとすごくスマートですよね。セルフプロデュースのセンスもあるし、アーティストとしての知能指数が高いと思います。リスナーもちゃんと見ているから、自分で発信しているかどうかは見ていればわかりますからね。よりリアルなものが求められてるというか……。“体験を求めている”ということに関しては、ずっと同じだと思いますけどね。
ーーキーワードは“体験”?
VERBAL:1970年代に「イーグルス最高!」と言っていたオーディエンスと、いま「三代目 J Soul Brothers最高!」と言ってる人たちの“感情”のあり方は同じだと思うんです。たとえばデッドヘッズ(グレイトフル・デッドのファンの総称)はライブを録音したカセットを聴いて「俺が見たライブとセットリストが違う」という話で盛り上がっていたはずなんです。それはBIGBANGのファンもEXILE THE SECONDのファンも同じ。「このアーティストが好き」というトライブに入って、体験を共有するという楽しさは、時空を超えているんじゃないかなって。そうやって思い出を残してあげる“思い出作りマスター”が、いちばんオーディエンスをロックできるアーティストになっていくと思うんですよね。
ーーいいですね“思い出作りマスター”。もちろんPKCZ®もそこを目指している?
VERBAL:そうですね。もっともっと大規模な思い出マスターになっていきたいので。「PKCZ®のパーティ、最高だった」って思ってほしいじゃないですか。「DJ良かったね」とか「ラップが上手かった」ではなくて、「ホントに楽しかった!」という思い出を作ってあげたいなって。それはデビューしてすぐに感じたことでもあるんです。僕はもともとCOMPANY FLOWやKOOL KEITHが好きで、歌詞の世界に入り込みながら音楽を聴いていて。デビューした直後は「すげえ歌詞でみんなを感動させたい」と思っていたんですけど、そんなの誰も求めてなかったんですよね。それよりも「みんなで手を挙げたときに一体感を感じた」とか「VERBALくんのリュック、何が入ってるんですか?」みたいな感想が多くて。そのときに「そうか、ファンは体験や思い出を求めてるんだ」ということに気付いたんですよ。
ーーVERBALさんがライブ中によく言ってた「知ってるフリしろ」というMCも、「一体感を生み出して、体験や思い出を作ってあげたい」という気持ちから生まれたものなんですか?
VERBAL:m-floは「カッコいい」とか「オシャレですね」って言われることが多かったんですけど、そういう印象があったら盛り上がりづらいじゃないですか。だから「知ってるフリしろ」って言うことで、「そんなのは関係なく、盛り上がろう」ということを伝えたくて。ハードルを下げれば音楽も入りやすくなるし、いい意味で「ステージに立ってる人もアホだな」と思ってもらうことで、「自分たちもアホになっていい」という気持ちになってくれるんじゃないかなと。PKCZ®でプレイするときも同じですね。最初に誰でも知ってる曲で盛り上げることで、途中でエッジのある曲をかけても「これもカッコいいんだろうな。PKCZ®がかけてるんだから」と思ってくれるはずなので。
ーー8月2日には1stアルバム『360°Chamberz』がリリースされます。アルバムの制作でも「まずハードルを下げる」ということは意識してました?
VERBAL:間口を広げる、という意味ではそうですね。曲調だったり、メロディだったり、誰が参加しているかということだったり。まずは入口がわかりやすくないと、入って来てくれないじゃないですか。せっかくいいものを売っていても、入り口が妖しい雰囲気だったら誰も来てくれないので(笑)。
(取材・文=森朋之)
あわせて読みたい
・PKCZ®連続インタビュー1回目:DJ MAKIDAIが語る、クラブミュージックの醍醐味「新しいものと古いものをつなげることができる」
・PKCZ®連続インタビュー2回目:DJ DARUMAが語る、“ヒップホップ”でつながるPKCZ®の強み「全員のグルーヴが合っている」
■リリース情報
1st ALBUM『360° ChamberZ』
発売:8月2日(水)
CD(全12曲+特典曲)+DVD(MV全4曲)
価格:¥4,000+税
<CD収録曲>
1. PLAY THAT feat. 登坂広臣,Crystal Kay, CRAZYBOY
2. Cult of Personality feat. EXILE SHOKICHI
3. World Is Yours feat. Crystal Kay, MIGHTY CROWN (MASTA SIMON&SAMI-T)
4. X-RAY feat. 三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE
5. UNITY feat. DOBERMAN INFINITY
6. Beauty Mark feat. 登坂広臣, SWAY
7. T-REX feat. Crystal Kay, CRAZYBOY, ANARCHY
8. CHAIN BREAKER (ALBUM Ver) feat. 登坂広臣, CRAZYBOY
9. ROAM AROUND feat. GENERATIONS from EXILE TRIBE
10. MIGHTY WARRIORS (ALBUM Ver) feat. Afrojack, CRAZYBOY, ANARCHY, SWAY, MIGHTYCROWN (MASTA SIMON&SAMI-T)
11. INTO THE CIRCLE feat. METHOD MAN (Wu-Tan Clan) & EXILE THE SECOND
<Producers>
Afrojack/Amon Hayashi/Chaki Zulu/DJ KIRA/NAOtheLAIZA/SAKURA/SUNNY BOY/☆Taku Takahashi (m-flo / block.fm)/YVES&ADAMS
<CD特典曲>
「BED ROOM feat. CRAZYBOY , 登坂 広臣」DLコード封入
<DVD収録曲>
OPENING CG「360° ChamberZ」
「X-RAY feat. 三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE」
「ROAM AROUND feat. GENERATIONS from EXILE TRIBE」
「INTO THE CIRCLE feat. METHODMAN(Wu-Tang Clan), EXILE THE SECOND」
「PLAY THAT feat. 登坂広臣,Crystal Kay,CRAZYBOY」