10thシングル『Family Song』インタビュー

星野源が語る、J-POPとソウルミュージックの融合「やってみたかったことが見事に合致した」

楽なアプローチはなかった

ーー「60年代末から70年代初頭のソウルミュージックをビンテージエフェクトの効果に頼らず、現在の日本に、日本的に立ち昇らせたいという気持ちで制作した」ということですが、「日本的に立ち昇らせたい」というところで今回もっとも苦心したのはどんな点ですか? 相当細かくこだわってレコーディングされたようですね。

星野:今回はずっとやりたかったことが実現できて「やったぜ!」って感じなんですけど、実はシンバルを一切入れなかったんですよ。一回も入ってないんです。打ち込みではそういう曲もありますけど、生演奏の日本の音楽でシンバルが入ってない曲はほとんどないんですよ。特にJ-POPでは。でも、海外のR&Bやソウルミュージックでは普通にあって。それはなぜなのか、なぜ日本人はクラッシュシンバル、ライドシンバルを叩いてしまうのか、というのはずっと考えていたことだったんです。今回古いソウルミュージックのニュアンスを追求するうえで大事な部分、鍵になっている部分はまさにそのシンバルを入れないというところで、あのなかにシンバルを入れると途端に普通のJ-POPになるんです。だから「古いソウルミュージックのニュアンスを追求すること」と自分がやってみたかったことが見事に合致して、やってみたらすごく良くなった。

ーー土壇場にきてそういうドラマがあったんですね。

星野:なんというか、シンバルって入れないだけでめちゃくちゃ不安になるんですよ。きっと日本の音楽家はシンバルを入れなくちゃいけないっていう強迫観念を植え付けられてる(笑)。まず、小節の区切りをシンバルで見極めていると思うんですよね。それから、サビに入るとき。ここからがサビ、というのをシンバルで判断してるところもあると思って。だから、そこでシンバルがないのを寂しくないようにするにはどうすればいいのか、いろいろ試しながらつくっていきました。

ーーその試行錯誤を実質一日でかたちにしていったと。

星野:それで朝までかかったんですよね。でもバンドメンバーのみんなが最高だと思ったのは、本当に楽しみながらやってくれたんです。ベースの弾き方とか、細かい部分までこだわってくれて。そんななかでみんなで自然と演奏したリズムが「これ、アル・グリーンみたいだね!」なんてことになったりするんですよ。特にみんなにはアル・グリーンっぽくしたいとか言ってなかったから、自分としては「しめしめ」みたいな(笑)。みんなの技術がすごくて、僕がやろうとしていることに付き合ってくれる。エンジニアの方が「この曲は響かせたくない。ここはドライに抑えていきたい」って言ってくれたのがすごくグッときて。たとえばラファエル・サディークもそうですけど、あのころのソウルミュージックをやろうとする人たちって、みんなビンテージの香りがするリバーブで雰囲気をつくるんですよ。でもそういうことはしたくないって言ってくれたから「なんてかっこいいんだ!」と思って。そういうエフェクトを使わないであの感じを出したいって言ってくれたのはすごいなって思いましたね。

ーーさらにそんな熱い展開が。

星野:もう僕としては「それこそイエローミュージックです! お願いします!」って。ただ、「できるかどうかはわからない」とは言われて。そういうなかで作業を繰り返していると、自分たちでもよくわからなくなってくるんですよ。これがどういうニュアンスで受け取られるのか、普通にJ-POPとして受け入れられるのか、そういう昔のソウルミュージックが香るものになるのだろうか、もうまったくわからなくなっちゃって。だから、完成していろんな人に聴いてもらった時に「ソウルだね!」って言われたときは「よかったー! ありがてー!」みたいな(笑)。

ーーもう本当にどうなるか、完成してみないとわからない状況だったんですね。

星野:そうなんです。だから「合ってた! でも楽なアプローチはぜんぜんしてません!」みたいな感じで(笑)。

ーー「ビンテージエフェクトの効果に頼らず」というところは強調されていますもんね。

星野:ノスタルジックなだけになっちゃうのがあんまり好きじゃないんですよ。ラファエル・サディークみたいな立場の人がやるのはすごくいいと思うんです。でも、日本人の僕がやるとなると急に陳腐になってしまう。リスペクトはあるけど、民族的な魂がつながっていないのに安易にやるのはちょっとどうかと思うし、そこは徹底しなくちゃいけないと思っていて。

ーー「あのころのソウルミュージックを日本的に立ち昇らせたい」というところで、そのほかではどんな点に苦心しましたか?

星野:やっぱりアレンジですね。楽曲としてはバラードと受け取る人もいるかもしれないけど、自分のなかではバラードと呼ばれてるものはグルーブと掛け離れているような感じがしていて、そこはちゃんとグルーヴのあるものにしたいなと。そういうなかでリズムやスネアが鳴ってる場所、あとはタンバリンがどこに入ってくるかとか、細かい調整をしていくのがたいへんであり楽しかったですね。「ここでタンバリン入るといいよね!」みたいな。

ーータンバリン、すごくいいですよね。『永遠のモータウン』(2002年公開のドキュメンタリー映画)を改めて観たくなるような鳴りのタンバリンでした。

星野:いいですよね、タンバリン。実は不安だからコンガを足してみたりもしたんですけど、そうするとより記号的になってきちゃうというか、この曲に関してはちょっとちがいましたね。あとは2/4でウッドブロック的な「コン!」っていう音を入れるとよりマーヴィン・ゲイっぽくなるんですけど、これもちょっとちがうなって。いろいろとやってはみたんですけどね。そうすると本当に真似っぽくなっちゃう。

ーー「Week End」のレコーディングのエピソードにも通じる話ですね。70年代感を記号として使っているように受け取られることを懸念して、一度試したボコーダーを結局入れなかったという。そういうトライ&エラーのなかで、J-POPとしての向き合い方についてはどのように考えていましたか?

星野:J-POP的なものはコード進行とメロディのなかにあらかじめ入っているので、それでもう十分だろうと。だから、そこはアレンジとメロディの融合が不自然でさえなければおのずと向き合えるものになるだろうという確信はありました。ソウルミュージック的なメロディというのは、今回はほとんど入っていないんですよ。メロディでニュアンスを追求することって結構できちゃうんですけど、でもそれってJ-POPからは限りなく離れていくことになってしまう。自分がつくったメロディはそういうソウルミュージック的なものとは対極にあるんだけど、「でもなんか合いそうな気がする!」という微かな予感と希望を頼りに試行錯誤していくような、そういう作業でしたね。

ーー今回改めて感じたこととしては、ブラックミュージックの血肉化もそうなんですけど、星野さんはアメリカのルーツミュージックを吸収したロックバンド、たとえばザ・バンドとかウィルコとか好きですよね?

星野:好きですね。

ーー過去には彼らのようなアーティストからの影響を受けてつくった曲もあると思うんですけど、そういうルーツロックやアメリカーナの下地がこういうときに強みになっているところもあると思っていて。今回の「Family Song」でいうと、ピアノとコーラス、特にゴスペル的なコーラスですね。

星野:うれしいですね。

ーーコーラスにはペトロールズのお三方が参加しているんですね。

星野:ペトロールズの3人の声が好きなんですよね。自分のファミリーというとおこがましいですけど、自分が知っている近い人たちの声でコーラスを録りたくて。プロのシンガーの知らない人たちの声で録るんじゃなくて、あくまで自分たちで工夫してつくってる感じが出せたらと思ったんです。

ーーいい塩梅ですよね。決してきれいすぎない、ほどよい泥臭さがあるというか。

星野:そうですね。まさにそういう感じを出したくて。気取りすぎちゃうと、この曲の雰囲気が変わってきちゃうから。

ーーそれこそ、星野さんが大好きなチャンス・ザ・ラッパーやカニエ・ウェストは最新作で大胆にゴスペルを取り入れていますよね。彼らヒップホップアーティストのゴスペルの導入に刺激されたようなところもあるのでしょうか?

星野:完全にそうですね。そこを感じてもらえてよかったです。

第3回インタビューに続く

(取材・文=高橋芳朗)

星野源『Family Song』ロングインタビュー特集

・第1回:星野源、「Family Song」で向き合った新たな家族観「“これからの歌”をまたつくりたいと思った」

『Family Song』

■リリース情報
『Family Song』
発売:2017年8月16日(水)
【初回限定盤(CD+DVD、スリーブケース仕様)】¥1,800(税抜)
【通常盤(CD)】¥1,200(税抜)
<CD 収録内容(初回限定盤・通常盤 共通)>
01. Family Song ※日本テレビ系 水曜ドラマ『過保護のカホコ』主題歌
02. 肌 ※花王ビオレuボディウォッシュCMソング
03. プリン
04. KIDS (House ver.)

<初回限定盤収録DVD>
DVD『Home Video』
・新春Live『YELLOW PACIFIC』厳選ライブ映像
Voice Drama
ワークソング
Snow Men
口づけ

一流芸能人からの新年のメッセージ
Continues
時よ
・「プリン」Recording Documentary
星野源と友人によるコメンタリー付

■配信情報
iTunes Store 
レコチョク
mora

■ライブ情報
『星野源 LIVE TOUR 2017『Continues』』
8月25日(金) 日本ガイシホール(名古屋)
8月26日(土) 日本ガイシホール(名古屋)
9月9日(土) さいたまスーパーアリーナ
9月10日(日) さいたまスーパーアリーナ
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