「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第38回 『寺嶋由芙 生誕ワンマンライブ 〜夏色のゆっふぃー〜 Supported by japanぐる〜ヴ(BS朝日)』

寺嶋由芙はソロアイドルの夢を背負うーー26歳のバースデーワンマンに感じた期待

 そして歌われたのが「わたしを旅行につれてって」。作詞を担当したのは、元SUPERCARのメンバーにして、作詞家としても多数のヒット曲を手がけてきた、いしわたり淳治。作曲は、これまでインディーズ・シーンで活動し、メジャーでは初仕事になるという望月ヒカリだ。彼女の楽曲は、コンペで集められた105曲の中から選ばれた。編曲は、TOWA TEIの最新作『EMO』にも参加しているrionosだ。

 いしわたり淳治が歌詞で描くのは、彼氏と初めて旅行へ行く女の子の心情。望月ヒカリによるメロディは、1980年代の松田聖子を連想させつつも、実際には特定の楽曲に寄っていない点が光る。そして、rionosによるアレンジは、懐メロの匂いがしない、2017年ならではのサウンドだ。寺嶋由芙は、自身のキーのギリギリまでを使ってメロディを歌いこなしてみせる。

寺嶋由芙 / わたしを旅行につれてって(Short Ver.)

 「夏色のナンシー」も「わたしを旅行につれてって」のカップリング曲。早見優のカバーで、三浦徳子作詞、筒美京平作曲である。寺嶋由芙がロート製薬のCMソングとして歌っていることからCD化されたものだ。編曲はrionosが担当。テクノ色が濃い中にアタックの強い音を散りばめ、ボイスのサンプリングも挿入したサウンドだ。

 早見優がハワイ育ちということで、ハワイのゆるキャラであるホヌッピーと寺嶋由芙で「夏色のナンシー」は披露された。ゆふぃすとは、早見優親衛隊による複雑なコール表をWayback Machine(削除されたコンテンツも含めて過去のWorld Wide Webのデータを閲覧できるサービス)から探しだして、コールを完全再現。さらに、MIXとガチ恋口上も加えたために、曲中ずっとゆふぃすとが声を出している仕様になっていて圧巻だ。息継ぎに失敗すると、そのまま酸欠になりそうなほどなのだ。

 そして中盤は寺嶋由芙ひとりによるステージで、「まだまだ」「contrast」「ねらいうち」と盛りあがる楽曲が続いた。この3曲はすべてヤマモトショウ作詞作曲。なかでも驚いたのは、レア曲の部類である「contrast」を歌ったことだ。この楽曲は、寺嶋由芙が初めてオリジナル曲のみでソロライブを行った、2013年10月22日の『アイドル・フィロソフィー vol.3』で歌われた4曲のうちの1曲だ(当時のタイトルは「nip」)。そして、セットリストが進むうちにわかるのだが、この日のライブでは2013年10月22日の4曲がすべて歌われることになるのだ。そこに何かの意味を読みとるな、というのは無理な話だ。

 「ねらいうち」では「寺嶋かわいい超かわいい!」というコールが繰り返されるが、寺嶋由芙自身が「もっと言って!」と2回も煽るのは初めて見た。本人のテンションもまたフロアとシンクロしていたのだ。

 そして「#ゆーふらいと」では、この楽曲を作詞した夢眠ねむ(でんぱ組.inc)の「知り合い」である「たぬきゅん」が登場した。寺嶋由芙は、2014年2月26日には夢眠ねむが作詞したソロデビューシングル「#ゆーふらいと」をリリースし、2017年7月8日には夢眠ねむがプロデュースするたぬきゅんと「#ゆーふらいと」を歌ったのだ。長年に渡って続く寺嶋由芙と夢眠ねむの関係が、楽曲とステージの両面で表現された、感動的なシーンだった。

 そして、「#ゆーふらいと」もまた2013年10月22日のライブで歌われた楽曲だ。当時のタイトルは「サクラノート」で、作編曲と同じく作詞もrionosだった。rionosは現在も寺嶋由芙の楽曲の作編曲を手がけており、ここにも長く続く関係がある。

 「わたしになる」は、2016年のアルバムのタイトル曲だ。ディアステージとテイチクエンタテインメントに移籍して初めてリリースされたのがアルバム『わたしになる』であり、そこに至るまでは、寺嶋由芙が内容に妥協したくないと、発売の延期もあった。そのタイトル曲「わたしになる」の作詞は、寺嶋由芙が敬愛する歌人・作家の加藤千恵が手がけている。寺嶋由芙という人物の内面の葛藤も含めて、彼女を肯定するかのような歌詞なのだ。

 延本文音作詞、倉品翔作曲と、GOOD BYE APRILのメンバーによって書かれた「初恋のシルエット」から、ヤマモトショウ作詞作曲による「ぜんぜん」へ。そして、「ぜんぜん」もまた2013年10月22日のライブで歌われた楽曲だ。「ぜんぜん」は、これまでダブルアンコールの最後で歌われることが多かった楽曲だが、この日は本編のラストに置かれた。

 寺嶋由芙がステージからまだ去りきっていないうちからアンコールが起きるのも馬鹿馬鹿しい。やがてVTRが始まり、再び全国のゆるキャラからのメッセージが流された。とち介、えび〜にゃ、ゾンベアー、レルヒさん、しんじょう君、カパル、ペッカリー、オカザえもん、木曽っ子、有明ガタゴロウ。寺嶋由芙の活動を見ているうちに、私もだいたいのキャラクターがわかるようになってしまった。恐ろしい話である。

 映像が終わると再び川嶋志乃舞が登場。彼女の三味線の早弾きにフロアは湧いた。そして、浴衣姿になった寺嶋由芙が登場して、町あかり作詞作曲の演歌「終点、ワ・タ・シ。」の生三味線バージョンへ。イントロで梅本マネージャーの曲紹介が入り、しかも「終点、ワ・タ・シ。」でだけ寺嶋由芙が有線マイクを使うなど、お約束をしっかりと守っていた。また、この楽曲のMVに登場しているこぶしまるも登場したが、巨大すぎてほぼ移動できない状況に。設計段階で誰か気づかなかったのだろうか……。

 そして、寺嶋由芙は2017年第3弾シングルが11月8日に発売されることを発表。また、10月14日の千葉を皮切りに、福岡、広島、仙台、札幌、大阪、名古屋、東京を回る過去最大規模の全国ツアーの開催も発表した。

 残るアンコールは「好きがはじまる」と「好きがこぼれる」。ともにミナミトモヤ作詞作曲編曲で、2013年10月22日のライブで歌われた4曲のうち最後の1曲が「好きがはじまる」(当時のタイトルは「好きが始まる」)だ。<今度はどこにも行かないから>と歌われる「好きがはじまる」は、寺嶋由芙現場の初期からのアンセムである。「わたしを旅行につれてって」発売日である2017年7月12日のリリースイベントで、1曲目に歌われていたことも付け加えたい。

 寺嶋由芙がステージを去ろうとすると再びアンコールがスタート。そして、ダブルアンコールで寺嶋由芙が再登場し、サプライズゲストとして彼女が紹介したのは……なんとポムポムプリンだった。2015年、2016年の『サンリオキャラクター大賞』で優勝してから、ポムポムプリンが外部のライブに出演することはほぼない。そのため会場からはこの日最大の歓声が上がった。

 寺嶋由芙は出てきたポムポムプリンにすぐに抱きつくと、「本物だ!」「耳が動く!」などと繰り返し、正気を保つのがやっとという状態に。そして、寺嶋由芙とポムポムプリンが踊ったのは「KAWAII FESTIVAL」。2017年5月13日から5月21日まで開催された『夢みる☆ディアステージ in サンリオピューロランド』の最後の2日間では、ディアステージのアイドル総出演で踊る圧巻のパレードが展開されたが、「KAWAII FESTIVAL」はそのときも披露されていた。寺嶋由芙とポムポムプリンによるステージは、夢のように一瞬で過ぎ去った。

 最後の最後は再び「夏'n ON-DO」。ポムポムプリン以外のすべてのゆるキャラがステージに登場した。そして楽曲が始まると、ゆふぃすとが配布した青のサイリウムが一斉に焚かれ、会場の隅々でのぼりが上がった。さらに、フロアでゆふぃすとが輪になって踊っていると、ゆふぃすとが持ちこんだ神輿が登場して踊りの輪に参加。その神輿の上にいたのは、寺嶋由芙の描いたキャラクター「だいふく」の風船で、それを見た寺嶋由芙は一言「いいとこにいるね!」。こうして、最後までカオスなまま寺嶋由芙のワンマンライブは幕を閉じた。時計を見ると開演から3時間近くが経過。盛りこみすぎだ。

 この日は、寺嶋由芙を全国に連れていってくれるゆるキャラを招くというコンセプトがあったほか、「夏'n ON-DO」により必然的に祭りの空気となり、ゆふぃすとにより神輿やのぼりが持ちこまれた。そして、寺嶋由芙というソロアイドルの過去から現在までを見渡すセットリストでもあった。2013年10月22日の4曲すべてが歌われたことに意味づけを見いだすのは、決して深読みではないだろう。いくつものコンテクストが交錯したライブだったのだ。

 また、この日まで寺嶋由芙は連日積極的にワンマンライブを宣伝していたが、それが決して危機感を煽るタイプのものではなかったことも印象的だった。しかし、ワンマンライブへの覚悟は相当なものだったはずだ。2015年5月のメジャーデビュー時のインタビューでの彼女の言葉を引用しよう。

「知っている人の前だけでぬくぬくやっていても仕方がないので。」(参考:寺嶋由芙が明かす、“まじめなアイドル”の葛藤と覚悟 「CDを積ませるだけでは続けていけない」

 寺嶋由芙のこの気概は2年を経た今も変わらないはずだ。「わたしを旅行につれてって」のMVでビキニ姿になったり、ジャケットでビキニが透けたTシャツ姿になったりしたのも、そうした気概ゆえかもしれない。そうした気概のすべては、『わたしを旅行につれてって』のデイリー9位へと結実した。今、こうして規模を拡大できているソロアイドルは寺嶋由芙ぐらいのものなのだ。

 こんなことを考えていると、もうひとつ気づくことがある。自分が寺嶋由芙というアイドルに、夢を託してしまっているということだ。アイドルとはファンの夢を背負わされる過酷な仕事でもある。しかも、ソロアイドルであればその重圧はなおさらだ。

 しかし、熱狂とユーモアとカオスがひとつになっていた『寺嶋由芙 生誕ワンマンライブ 〜夏色のゆっふぃー〜 Supported by japanぐる〜ヴ(BS朝日)』の成功を見届けた今、どうしても寺嶋由芙にはもっと上を目指してほしいと願ってしまう。

 だからもう少しだけ、寺嶋由芙にとって残酷な存在でいようと思うのだ。夢を託したままで。寺嶋由芙のようなエンターテインメントを見せてくれるソロアイドルは、寺嶋由芙以外にはいないのだから。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■セットリスト
0.和太鼓&三味線演奏
1.夏n' ON-DO
2.オブラート・オブ・ラブ
3.ゆるキャラ舞踏会
4.いやはや ふぃ〜りんぐ
5.猫になりたい!
6.天使のテレパシー
7.わたしを旅行につれてって
8.夏色のナンシー
9.まだまだ
10.contrast
11.ねらいうち
12.#ゆーふらいと
13.わたしになる
14.初恋のシルエット
15.ぜんぜん
EN1.終点、ワ・タ・シ。
EN2.好きがはじまる
EN3.好きがこぼれる
W-EN1.KAWAII FESTIVAL
W-EN2.夏'n ON-DO

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