『冥土ノ宴』 赤坂BLITZ公演

島爺の初ライブには“生きた表現”があった 歌い手としての実力発揮した『冥土ノ宴』

 ネット上でカルト的な人気を誇るシンガー・島爺が6月16日、赤坂BLITZにて初ライブとなる『冥土ノ宴』を開催した。過去のインタビューでは、幾度もの歌い直しを経て、一曲入魂で作り込んだ「動画」の歌唱は再現できないとして、ライブには消極的な発言もしていた島爺。ファンの期待の高まりに応える形で開催されたライブはしかし、「再現」を超えて新たな「表現」に向かう、内容の濃いものになった。

 超満員の孫(ファン)たちが見つめるステージの上には、島爺の遺影。記念すべき初ライブで最初に鳴らされたのは、「ポク、ポク」という木魚の音だった。それに合わせて、ギターのヨティ、ベースのMIYA、ドラムのSHINJIが次々とステージに上り、遺影に手を合わせる。シャレのわかるファンたちのこと、会場は笑いに包まれたが、和やかムードも束の間のことだった。

 エキゾチックなロックチューン「バケモノダンスフロア」(日向電工)のイントロが爆音でかき鳴らされ、大きな歓声が上がった。主役の島爺は、遺影を突き破って登場。裏方気質で、バンド活動をしていた頃もライブは苦手だったという島爺にとって、満員の赤坂BLITZに立つことは、「現世に蘇る」くらい、覚悟がいることだったかもしれない。そのパワフルな歌声は、胸に迫るものがあった。

 間を置かずエレキギターを手に取り、2曲目には「ムーンウォークフィーバー」を披露。そして3曲目には、ニコニコ動画上で680万再生に届こうかという歌い手・島爺の代表曲、「ブリキノダンス」を歌い上げた。やはり、よどみない滑舌とエッジの立ったハイテンションなボーカルが好相性だが、抑揚やブレスは動画とは変わり、生のステージだからこその熱が伝わってくる。ここまで、日向電工作の難曲が3連続だ。

 正式に音源としてリリースされた楽曲がまだ少なく、「どんな曲を披露してくれるのか」と、ファンは各曲のイントロが流れるたび大きな歓声を上げる。「暑い!」という正直なMCで笑いを起こした島爺は、動画も高い人気を誇る「タイトロープドリーマー」(ねじ式)、「人造人間ナマミマン」(マッハ人生)、1stアルバム『冥土ノ土産』に収録された「月陽-ツキアカリ-」、さらに、複数のボーカロイドによるラップの掛け合いが魅力的な「R.O.C.K.E.T」(Torero)と、ファンが聴きたかったボーカロイド曲を次々と披露した。

 まさにサービス精神全開のセットリストで、必ずしも生身のシンガーが歌うことを想定していない尖った楽曲のオンパレード。さすがに息を切らしながら、島爺は「誰やこんなセットリストを考えたのは! アホか!」と叫び、加熱し続ける会場の空気をクールダウンさせる。「ムリしないでー!」と、“老人”をいたわる歓声も多く聞かれた。熱いパフォーマンスと和やかムードのギャップが、島爺のライブのひとつの魅力になっていくのだろう。

 その後、島爺がアコースティック・ギターを手に取り、弾き語りパートに。1stシングル『ガッチェン!』にも収録された「真夜中の微笑み」(ナナホシ管弦楽団)、そして意外な選曲に歓声が沸いた「アイネクライネ」(米津玄師)と、じっくり歌を聴かせた。爆音のバンドサウンドに負けない、強い歌声も島爺の大きな魅力だが、ささやきかけるように、あるいは心の奥深くに届けるように歌いこむ姿も、同様にリスナーを魅了する。

 アコースティック・ギターを置き、「かくれんぼ」(buzzG)、「Calc.」(ジミーサムP)、「エイリアンエイリアン」(ナユタン星人)と人気曲を惜しげもなく歌うと、島爺のボーカルはさらに調子を上げる。「現代ササクレ学入門」(なす)では、ロングトーンで会場を沸かせた。

 ハイライトは、卓越したギタリストでもあるナナホシ管弦楽団をステージに呼び込んでの「ガッチェン!」だ。アニメ『デジモンユニバース アプリモンスターズ』(テレビ東京系)の主題歌として、すでに大きな話題となっている同曲は、リスナーを強く勇気づける王道のアニメソングだが、ライブになると、やはりロックなニュアンスが強く出る。ニコ動のタグになぞらえるなら、「喉からCD音源以上」のパフォーマンスで、特別ゲストとして登場した同アニメの人気キャラクター・ガッチモンの「島爺は、本当に歌がうめえなあ」というコメントに、実感を込めてうなずくファンも多かっただろう。

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