『Reset』リリースインタビュー

牧野由依が語る、声優アーティストとしての変化と葛藤「断食状態を経験したからこそハングリー精神が芽生えた」

 声優・アーティストとして活躍する牧野由依が、6月7日にシングル『Reset』をリリースする。同作はアニメ『サクラダリセット』の第1期オープニングテーマである表題曲と、第2期エンディングテーマのカップリング「Colors of Happiness」を収録しており、表題曲のレコーディングでは牧野がピアノを弾き、カップリングでは作詞を担当した。

 現役音大生としてデビューしたキャリアの特異性もあって、一般的な“声優アーティスト”とは違った経験値を積んできた牧野。さらにここ数年は声優としても『アイドルマスター シンデレラガールズ』や『プリパラ』といった新たな境地に挑戦し、これらが良い方向にフィードバックされていることが、1月の単独公演『YUI MAKINO LIVE―Thanx Beginning♪―』でもわかった。今回はそんな牧野に、近年訪れた変化や過去の葛藤、新作についてじっくりと話を訊いた。(編集部)

 「正しいことって何なのかわからなくなってしまう瞬間」ってたくさんある

ーーまずは1月の『YUI MAKINO LIVE―Thanx Beginning♪―』から振り返らせてください。これまでの牧野さんは音楽大学の器楽科を卒業したピアニストという特徴を前面に出した、着席型の「コンサート」がメインでしたよね。それが「ライブ」と銘打って歌い踊るとは思いませんでした(参考:牧野由依がライブで見せた明確な変化 彼女がいま“歌い踊る”意味とは)。

牧野由依(以下、牧野):デビュー当時は「現役音大生」という肩書もあって、声優も音楽活動もしっかりやるという方向性を、当時のスタッフさんと共有していたんです。そのなかで、色んなジャンルも取り入れつつ、自分の音楽の軸となっているピアノやストリングス、コーラスワークをしっかり地固めしていったのがキャリアの初期でしたし、それを好きでいてくださる方々ーー特にアニメ『ARIA』(声優として茜役で出演、主題歌も3期に渡って歌唱)の時期に知ってくださった方が多いんですけど、私がピアノを弾く姿を当たり前のものとして見てくださっていて。ただ、ここ数年で声優として関わらせていただくアニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』や『プリパラ』では、自分でも驚きなんですが歌って踊っていて、その作品をきっかけに入ってくださった方にとっては、歌って踊る牧野由依が普通なんですよね。だから、単独公演をするときにはその2つの私それぞれを好きな方に、全体を通して満足して欲しかったですし、そこを繋げるライブは今の私だからこそできることだと思ったんです。そんな考えを具現化して作っていくためにはどうすればいいのか、練りに練って作ったのが『YUI MAKINO LIVE―Thanx Beginning♪―』でした。

ーーライブを見て、「牧野由依」という名前のカバーする領域がここ数年でさらに大きくなっていることを改めて実感しました。

牧野:色んな所に点としてあったものが繋がって線になるのってすごく感慨深いですよね。お仕事をご一緒する方からは、今でも「岩井俊二さんの映画でピアノを弾いていたの、牧野さんだったんですね!」(注:映画『Love Letter』『リリイ・シュシュのすべて』、『花とアリス』などの劇伴でピアノを演奏)と言っていただくことが多いですし、毛色の違う現場であればあるほど、そこで繋がることに嬉しさを感じます。

ーーその姿勢は、随所のMCや演出にも表れていたと思います。どちらのファンも納得させるような名演説でしたから。

牧野:私自身は、どちらかに活動をシフトさせることは考えていなくて。それでも、突然踊り始めたら「アイドル方向に行くのか!?」と思われてしまうのは仕方ないし、やる前にも葛藤が無かったといえば嘘になります。「今までの路線を捨てた」と思われて、不安にさせることを望んでいるわけではないので。どういう言い方や見せ方ならその誤解を一つでも多く無くせるかと考えました。

ーーこのライブでも披露した「Reset」が今回シングルとしてリリースされますが、カップリングの「Colors of Happiness」を含め、2曲とも牧野さんが出演するアニメ『サクラダリセット』の主題歌に書き下ろされたものですよね。同じ作品に寄り添うという意味では「コンセプトシングル」と言っても過言ではない作品だと思うのですが、そのあたりは意識して作り上げたのでしょうか。

牧野:意識した部分もあれば、ただただ楽曲に向き合ったところもあるので、必然であり偶然の産物といえるかもしれません。いつもは楽曲制作時に作家さんへリクエストする内容やその後のやり取りについて、私も関わらせていただくんですが、今回はわりとスタッフさんにおまかせしました。なので、私はコンペで選ばれた最後の2曲になるまでタッチしていなかったんです。「Reset」に関しては、残った2曲は夏を感じさせるようなノスタルジーもありつつ爽やかさもあった楽曲と、切なさを前面に押し出した曲の2つだったので、私は前者を選ばせていただきました。メロディラインにクッと落ちる瞬間がフックとして効いていたり、憂いやノスタルジーを感じたことや、この曲みたいに間奏でキメを多く使っているものは私の楽曲としては無かったアプローチで、新鮮に感じたというのも理由ですね。

ーーそれが滝澤(俊輔)さんだとわかったのはどのタイミングですか?

牧野:曲を頂いた時点で、なんとなく滝澤くんかもという予感はしていました。

ーー彼の楽曲に感じる特徴などがあれば教えてください。

牧野:滝澤くんの曲は、抽象的な言い方ですが……ずっとキラキラしているんです。澄んだ楽曲が多いし、ストレートに良い曲だと思わせるものがあったり、必ず一箇所どこかに「これは歌うの簡単ではないかもしれない」という箇所があるんですよね(笑)。

「Reset」MV(Short.Ver)

ーーその「ストレートに良い曲」という印象は、カップリングに収録されているアコースティックバージョンだと、よりダイレクトに伝わってきます。こちらのピアノと歌は表題曲バージョンとは別に録音したんですよね?

牧野:はい。なので別モノの2曲をやったという感覚ですね。ピアノと歌をそれぞれ1日2バージョン分レコーディングしたんですが、これって本来は4日に分けてやるもので……スケジュールの都合上そうなりました(笑)。「合間に一回寝ないとリセットできない」と思ったのはこれまでになかったことでしたし、そのレコーディングの様子は初回限定盤Bの特典DVDに収録されています。ちなみに、ピアノの譜面をもらったのがレコーディングの2日前で、久しぶりに完徹しないと間に合わない状況だったこともあり、熱量は込もっていると思います(笑)。

ーーその熱量も相まってなのか、アコースティックバージョンとオリジナルバージョンの歌声にも、かなり違いがあるように聴こえました。

牧野:オリジナル版は透明感や儚さをしっかり出したり、自分の声質的にも倍音をもっと響かせたり、ボーカルとして引っ張っていけるよう心がけました。逆にアコースティックバージョンは一瞬でも気を抜いてしまうと全体の雰囲気が一気に崩れていくようなどうにもならない状態になるような繊細なものだったので、真っ向勝負してくる滝澤くんのメロディに正面から向かい合う難しさはありましたね。

ーーカップリング「Colors of Happiness」はもともとサクラダリセットの2期エンディングになることが決まっていたんですか?

牧野:まずは「Reset」を完成させて、ライブにも間に合わせるということがあったので、そこを先に進めつつ、後から2期エンディングとして楽曲制作がスタートしたという流れですね。

ーーこちらの作詞は牧野さんです。アニメ『サクラダリセット』の2クール目エンディングテーマということもあって、物語に寄せている部分もあると思うのですが。

牧野:『サクラダリセット』の原作をフラットな状態で読んでいて、自分の生活と重ね合わせて思ったことなんですけど、「正しいことって何なのかわからなくなってしまう瞬間」ってたくさんあるなと。自分が正義だと思ってやったことが、誰にとっても同じかというとそうではなくて、他の人にとっては残酷なことだったりして。そういうシチュエーションは、日常の些細な出来事においてもたくさんあると思うんです。これ哲学的なことみたいになってしまうんですけど(笑)、「正義ってなんなんだろう」ということも考え始めたりしました。

ーー原作と重ね合わせたテーマ性もありつつ、牧野さん自身の哲学や思想のようなものも込めた歌詞ということですね。

牧野:「Reset」が作品にしっかり寄り添って書いていただいている歌詞だったので、同じシングルに入る2曲を同じような寄り添い方で作っていいのかと疑問に思ったんです。なので、「Colors of Happiness」では自分がふと考えたことを膨らませる方向で詞を書きました。もちろん、言葉選びなどついては作品の世界観にも気をつけていますし、方向性が違った場合に軌道修正をしなければならないので、書き上がったところから「これで大丈夫ですか……?」と恐る恐るディレクターにチェックしてもらっていました。

ーー牧野さんは作詞をする際、今回のような手法がメインなのでしょうか?

牧野:バーっとプロットと歌詞の中に登場する人物の設定を細かく書いたりして、頭のなかで動かして作っていくというやり方が多いですね。今回は間違えることはしたくないと思って、前もってプロットも書きつつ、何層も何層も重ねて積み上げていくというこれまでにないやり方に挑戦しました。テーマ的にも何度も書き直して仕上げるものではないなと思ったので。言葉を入れる場所によっても意味が大きく変わってきますし、時間をかけるとブレていきそうだったので。これまでが右脳で作っていたとしたら、今回は左脳で作った感じというか(笑)。

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