『パトスとエートス』ツアー最終公演レポート

Brian the Sunが困難を越えて突き破った壁 『パトスとエートス』ツアー最終公演に見た変化

 5月27日に恵比寿リキッドルームで行なわれたBrian the Sunの『パトスとエートス』ツアー最終公演は、これまでバンドが打ち出してきた二面性を更新し、新たなチャンネルを切り開いた一夜だった。

 同ツアーはアルバム『パトスとエートス』を携えて行なわれたものだが、そもそもこの作品自体「パトス」(情動や感情の動き)と「エートス」(性格や習慣)をモチーフにしたアルバムだ。本稿ではこの“二面性”をキーワードにしながら、この日のライブを紐解いていきたい。

小川真司(Gt./Cho.)

 ライブは小川真司(Gt./Cho.)による泣きのギターや、白山治輝(Ba./Cho.)と田中駿汰(Dr./Cho.)による緩やかなグルーヴが観客を優しく包み込むような「Impromptu」から、ガレージ・ヒップホップがミクスチャーされたArctic Monkeysライクの「Physalia」、つまり『パトスとエートス』と同じ曲順で幕を開ける。そこから4人が楽しそうにセッションする「Noro」、ハードな「Mitsuhide」と、“穏やかさ”と“激しさ”を交互に見せていく。ここまではいつものBrian the Sunらしさを見せてくれていた。

白山治輝(Ba./Cho.)

 そして、バンドの変化を感じたのは中盤以降。アルバムにも収録されている爽やかなギターロック「Hi-Lite」から、鼻歌のようにラフなアカペラを経て、魂を削るような歌声で始まった「神曲」、Brian the Sunの中でも屈指のグッドメロディを誇る「Maybe」と、森良太(Vo./Gt.)が弾き語りから作った歌心のある楽曲が続く。彼はかつて、インタビューでこのように応えてくれた。

「もともとは『ここは誰にも触れられたくない』という自分一人だけでやりたい曲と、バンドに持っていきたい曲を分けてたんですけど、曲が足りなくなって弾き語りのストックを提出したら反応が良くて」(参考:Brian the Sunが語る“遅れてきたルーキー”の戦い方

 そのように生まれた楽曲たちはインディーズ最後のアルバム『Brian the Sun』以降にバンドが辿り着いた新境地だが、まだこの時は点でしかなかった。しかし、今はそれが彼らの大きな武器になったと言えるところまで来たように思える。その回答といえるのが、この日披露された新曲「Sunny side up」だ。Brian the Sunがバンドとして持つ高い演奏力を容赦なく発揮しつつ、メロディと歌の良さもこれまで以上に響いてくる。

田中駿汰(Dr./Cho.)

 そこから「ねこの居る風景」や、森が「Brian the Sunの夏の曲ってあんまりないですよね」と語って披露した「隼」と意外なくらいストレートな楽曲が続き驚いていると、エッジの効いた「パトスとエートス」で無言の「別にそっちの方向に行ったわけじゃないから」というメッセージを発し、聴き手をニヤリとさせる。

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