4thアルバム『The Crossing』リリースインタビュー

バイリンガルシンガー・ナノ、デビュー5年で辿り着いた場所「やっと『時代がきた!』って感じ」

「日本国内だけで音楽をやるという感覚もなかった」

ーー国内で初ライブを行った2カ月後の2013年5月、早くもドイツ・デュッセルドルフで初の海外公演が実現しています。その後も頻繁に海外公演を行っていますが、冷静に考えてこれだけ海外から求められること自体すごいことだと思うんです。

ナノ:改めて考えると本当にすごいことだと思うんですけど、もともとアメリカから日本に来たのもあって、「海外に行く」という感覚があまりなくて。日本国内だけで音楽をやるという感覚も、自分の中に概念としてなかったので、海外に行くことにそこまでハードルの高さを感じていなかったんです。だから日本でライブをやるのと海外でライブをやるのと、自分の中では立ち位置、価値としてはまったく変わりません。

ーー思えばナノさんは音楽活動を始めた時点で、ネットを通じて世界中のリスナーとコミュニケーションを取っていたわけでし、国内のみと限定していたわけではないですしね。

ナノ:そうなんですよ。ネット中心に音楽活動をしていた頃にも海外のリスナーはいましたし、いずれは海外にも歌を届けたいなというのはその時点で芽生えていたというか。そこは海外のリスナーに育ててもらったと思いますね。

ーーナノさんの場合は英詞の楽曲というのもあるし、そこに日本のアニメも絡んでくる。それもあって、海外のリスナーにも受け入られやすかったのかなと。

ナノ:実は日本語詞の楽曲を英訳してカバーしていた頃は、日本人に向けて英訳していたわけではないんですよ。だからスラングもバンバン使っていたし、すごく意地悪だったなと思うんですけど、それよりも海外にいる人たちに向けてJ-POPの良さを伝えたいという気持ちでやっていた。だから、最初から外に意識が向いていたというのはあったと思います。だから、それが日本で注目されたことにびっくりしたんですよ。「世の中変わってきたな〜」と驚いたことをよく覚えてます。

ーー思えば5年前って動画サイトに「歌ってみた」動画を上げる人が多かったけど、J-POPを英詞に訳して歌う人はあまりいませんでしたものね。

ナノ:認識してる限りで他に数人はいたんですけど、その人たちは日本人に向けて歌っていた人たちばかり。英語の響きが面白いからという感覚でやっていたと思うんですけど、自分は海外の人が聴いたときに、日本人が言うところの“洋楽”として違和感なく聴けたら面白いんじゃないかと思って、あえてタイトルにも「洋楽風に」とか「洋楽っぽく」っていう表記を入れていたんです。でも、今は日本でもいろんなメジャーのバンドが英詞で歌っているじゃないですか。音楽業界自体が5年でそれだけ変わったってことですもんね。当時は英詞の楽曲なんて洋楽ファンじゃないと聴かないと思っていたので、やっと「時代がきた!」って感じです。

ーー僕はドイツ公演に二度ご一緒させてもらっているので、現地のファンがどういう感じなのかは理解していますが、例えばそれ以外の国とのファンと比べてそれぞれ違いを感じることはありますか?

ナノ:面白いことに、みんなちょっとずつ違うんですよね。西洋とアジアの違いというのもありますけど、アジアの中でも台湾とインドネシアではまた違うし。具体的に何が違うというのは明確には表現しにくいんですけど、例えばMCのときにこういうニュアンスで言うと喜んでくれるとか、わかりにくいとか、そういう細かいことで違いを感じることはあります。とはいえ、結局のところはどこに行ってもライブが始まってしまえば、どこの国で歌っていようとあまり変わらないかもしれない。

ーーみんな日本語詞でも一緒に歌ってくれますし。

ナノ:むしろ日本人より日本語で歌ってくれますよ、海外に行くと(笑)。日本の方は控えめで歌わないって人も多いけど、「Nevereverland」なんて日本語詞で早口な曲なのに、海外ではみんなペラッペラで歌ってくれるから最初びっくりしちゃいました。そこには本当に愛しか感じないし、やっぱり音楽っていいなと思いますね。

「『Rock on.』以降からライブを意識して歌に取り組むようになった」

ーーこの5年で数々の作品を発表してきましたが、「これが自分の中で大きなターニングポイントだった」という作品を挙げるとしたらどれになりますか?

ナノ:正直言うと毎回どこかで「今の自分を超えたい」って気持ちがあるので、毎回ターニングポイントにはなってるんですよね(笑)。だけど、中でも大きなターニングポイントだったのが「Rock on.」(2015年1月発売の3rdアルバム『Rock on.』収録曲)かな。「Rock on.」に関しては自分の思いを歌詞に強く込めていて。自分がこれから音楽に対して“Rock on”していきたいっていう強い思い……自分はただ周りの人間に付いていくだけじゃなくて、いつか今の自分を超えて人を引っ張っていけるぐらいの存在になりたいという気持ちが集約されているんです。そこからがちょっとずつだけど、自信を持てるようになってきたし、ナノのサウンドや音楽性が「Rock on.」からさらに強くなったとも思うんです。

ーー確かに「Rock on.」という楽曲もそうだし、『Rock on.』というアルバム自体もそれまでの作品と比べて外を向いてる感が強いですし。そう考えると、『Rock on.』に続く新曲がEDM色の強いダンスチューン「Freedom Is Yours」(2015年春発表。その後、2016年7月発売のリミックスアルバム『nano's REMIXES』収録)なのも納得いきます。

ナノ:だから「Rock on.」以降は新しいことにチャレンジしたり幅を広げたりする、心の余裕ができたのかもしれない。それまでは「努力、努力! 自分を良くしていく!」という気持ちが強かったところで、さらに一歩踏み込んで音楽を楽むことを意識し始めた。だから「Freedom Is Yours」もすごく楽しかったし、「Rock on.」以降はやればやるほど楽しくなってきてるんですよね。

ーーそこから『Bull's Eye』(2015年10月発売の6thシングル)があって、1年後の『DREAMCATCHER』(2016年11月発売の7thシングル)からデビュー5周年企画に突入。個人的な感想ですけど、『Bull's Eye』以降の作品を聴いているとナノさんの声質が変わったというか、声が太くなったような気がしていて。

ナノ:確かに。特に今回のアルバム『The Crossing』を通して聴くと、それが顕著なんですよね。「Bull's Eye」から「DREAMCATCHER」、そこから「MY LIBERATION」「PARAISO」「HAVEN」と、ちょっとずつ声が太くなっていってるんです。もしかしたらですけど、自分の気持ちが声の太さや声質に表れているのかもしれません。自分の自信もそれだけ強いものになってるのかなって。あとは、アルバム『Rock on.』以降からライブを意識して歌に取り組むようになったんですよ。それまではレコーディングのための曲と思っていたところがあって、例えば「No pain, No game」なんてライブを想像してレコーディングはしてなかったですし。でも、『Color my world.』『World of stars.』とツアーを重ねていって、ライブの空気感を一度知ってしまってからは、「これはいずれライブでファンのみんなと一緒に歌う」とレコーディングでも意識するようになったんです。それが歌い方や声にも表れるようになったのかな。

ーー確かに『nanoir』や『N』はもっとスタジオ作品としての完成度に重きを置いてましたものね。

ナノ:そうですね、そこを極めていたので。

関連記事