2ndシングル『SKY’s the limit / つきとさなぎ』インタビュー

ぼくのりりっくのぼうよみが考える、“本当の姿”を超える方法「“強く、美しくありたい”という気持ちを肯定したい」

 ぼくのりりっくのぼうよみが、2ndシングル『SKY’s the limit / つきとさなぎ』を5月24日にリリースする。同作は資生堂「アネッサ」CMソング「SKY’s the limit」、『SR サイタマノラッパー〜マイクの細道〜』(テレビ東京系)エンディング曲「つきとさなぎ」を収録したダブルタイアップシングル。同作で彼は、現実社会とネットにおける“人格の差”を肯定しようとする「SKY’s the limit」、表現者としての“才能”について考えた「つきとさなぎ」といったメッセージ性のある楽曲を、タイアップというフォーマットにのせて幅広いリスナーに届けることに挑戦している。今回のインタビューでは両曲の制作過程から、渋谷クラブクアトロ、赤坂BLITZ、新木場STUDIO COAST、そして秋には東京・日比谷野外大音楽堂、大阪・ユニバースとライブのスケールが大きくなっていくことでの心境の変化、これから届けていく音楽の構想についてじっくりと話を訊いた。(編集部)

「否定する文脈へのカウンター」

ーー「SKY's the limit」は資生堂「アネッサ」のCMソングです。オファーを受けたときはどんな感覚でしたか。

ぼくのりりっくのぼうよみ(以下、ぼくりり):「マジか!」「担当の人、やるな!」みたいな感じでした。僕にオファーしてくれるんだ、というのがすごく面白いと思って。

ーーオファーがあってから曲を作ったんですか?

ぼくりり:そうです。去年の9月くらい、ちょうど2ndアルバム(『Noah's Ark』)の制作中で、まずはCM用に30秒の尺のものを作ったんですよ。完成させたのは最近だったので、サビができるのと、それが曲になるまでけっこうラグがあって。

ーーアルバムの世界観とはまた違うものになっていますが、CMを通して聴かれる、ということは意識しました?

ぼくりり:ガッツリ意識しましたね。聴いていて気持ちよくて、耳がオンになる、みたいなタイプのきれいな楽曲を作ろうと思って。曲調だったり、楽器だったり、トラックメーカーの選定もキャッチーさを重視しました。メッセージとしては、けっこう応援歌的なところがあるんですよ。例えば、インスタグラムに日常の特定の一面を載せて、自分の見え方をコントロールする技術があると思うんです。普段はコンビニのおにぎりしか食べないけれど、おしゃれなカフェに行って、その写真だけ載せる、みたいな。そこでキラキラ感が生まれるのって、面白いじゃないですか。でも、「盛るな」とか「嘘をつくな」と言われたり。

ーーわりとネガティブなことを言う人もいますね。

ぼくりり:「本当の姿はこんなんじゃないだろ」みたいな批判が多いと思うんです。でも僕は、そういう批判に意味を感じない。「こう見られたい」という理想があって、それに向かって自分を演出するのはいいことだと思うし、それって化粧と一緒じゃないですか。そういうところから、この曲のメッセージができたんですよね。資生堂さんのCMなので、「女の人って、なんで化粧をするのかな」って考えたり、そういう部分から掘り下げていって。Twitterで、SNOWを使ってめっちゃ盛った写真をアイコンにしている人もそうですよね。誰が撮っても同じ顔になるし、僕はかわいいとは思えないんだけれど、その行為自体が面白い。それを肯定したいというか、否定する文脈へのカウンターというか。自分がきれいだと思う自分を演出して、笑っているのが一番きれいじゃないかと。

ーー<“本当は”なんて意味無いよ>という、まさにカウンター的なフレーズも出てきます。

ぼくりり:“本当の姿”って、実際にあんまり意味がないと思うんですよ。例えば、インターネット上で運用されている人格と、リアルで使っている人格には差があると思うんですけど、どっちが尊いとか、どっちがメインでどっちがサブだとか、それは人による。僕はインターネットが主体だし、いまは「ぼくりり」という人格が僕の自我をすべて飲みこんで存在しているので。

ーーその人がどこに力点を置くか、ということだと。

ぼくりり:そう。だから、インターネット上だけで楽しく過ごしている人たちに対して、「リアルでは違うじゃん」とか、「普段はコンビニのご飯を食べてるじゃん」みたいなディスは的外れでしかないし、そういうふうに言われて悲しい思いをしている人がいたらかわいそうだなと。それでこういう曲を作ってみました。

 

ーーそういうふうに「リアル」にもいろんな形がある、という考えが固まってきたのはいつくらいのことですか。

ぼくりり:インターネット上で音楽をやり始めたころかな。当初は「紫外線」という名前でやっていたんですけど、「紫外線としての自分」が確かに存在していて、だんだんと本名で過ごしている時間を侵食していったんですよ。例えば、学校にいる間も、インターネット上で次は何をしようか、と考える。だって、学校よりもインターネットのほうが、自由度が高いわけじゃないですか。
 自分を支持してくれる人も、友だちもたくさんいるし、年齢も職業もさまざまな人たちがいて、世界の大きさ的には手が届く範囲より、インターネットのほうが広い。僕は部活にも入っていなかったし、学校という場所のプライオリティーがすごく低くて。そういう意味で、リアルよりネットのほうが価値が高いと思っていました。それがいま、「ぼくのりりっくのぼうよみ」という名前でメジャーデビューして活動しているうちに、ネットとリアルの境界が溶けてなくなっちゃいました、みたいな感じですね。どこにいっても同じ自分というか。

ーーなるほど。なおさら「何がリアルか」という問いとは離れていると。

ぼくりり:単に好みの問題だろうなと思います。僕は最近、本当に誰も否定しない、っていうスタイルを確立したんですよ。悪口は言うけれど、否定はしない。どんな主張をしている人でも、「あなたの場合はそうですよね」と。ある種、思考を放棄しているんですけど、自分が正しいと思う主張をすればいいし、その過程で誰かを否定することもないんじゃないかと思っていて。

ーー面白いのは、そういうメッセージが必ずしも大の音楽好き、ポップカルチャー好きだけではない、幅広いリスナーに届くCM曲になっていることです。そのあたりも意識しましたか?

ぼくりり:ガッツリ意識しましたね。僕としても、ポップな曲も実はできます、というのを早めに見せたかったということもあって。キャラが固まったあとで、「あ、ぼくりり、セルアウトに来たか」「落ちたなw」とか書かれるのは嫌なので(笑)。僕のなかでは遅いくらいでしたけど、機会をいただけたのでやってみました。うれしいですね。

ーーサウンド面でも楽園的で、ポップに突き抜けた楽曲になっていますが、トラックはどんなふうに作りましたか。

ぼくりり:リファレンスでいうと、MONDO GROSSOの「LIFE feat.bird」というめっちゃ好きな曲を参照しながらやりました。もう、極限までポップにしようと。

ーーMONDO GROSSOというと、お母さまがファンだという話でしたね。

ぼくりり:そうなんですよ。トラックメーカーのDYES IWASAKIさんに、特にそういう話はせず、「アネッサのCM曲、一緒に作りましょうよ」と話したんです。明るい、光のようなイメージがいいよね、と言っていたら、「LIFE」をリファレンスしたトラックが上がってきたという。感覚が共通していたんでしょうね。

ーー「ファンの期待をプラスの方向に裏切る」という言葉もよく口にしていますが、2ndアルバムを聴いてファンが求めてくるものとは、やはり違う展開ですね。

ぼくりり:やっぱりファンに縛られて行動するのはよくないなと思って。ファンのなかに僕の理想像はあるんですけど、それはファンの人が想像できる範囲内のもの。そこからガッとはみ出る、あるいは突き抜けて新しい次元に行くとか、ハコから出るということがどうしても必要だなと思うんです。そうじゃないと、消費されちゃうというか。

 

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