森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.51
tofubeats、SALU、ぼくりり……海外トレンドにもコミットする独創的なサウンドを聴く
ケンドリック・ラマー、Future、Thundercat、The Weeknd、The Chainsmokersなどが次々と新作を発表しているが(どれも素晴らしい!)、彼らの作品は、海外の潮流に敏感な日本のアーティストもかなり大きな影響を与えている。最新のヒップホップ、R&B、ジャズをどのように解釈し、自己の作品のなかに取り込むか、そのエディット・センスこそが、いまのアーティストに求められる重要な要素なのだ。そこで今回は海外のトレンドにコミットしながら、独創的な音楽へと結びつけているアーティストたちの新作を紹介したい。
これまでtofubeatsの作品は「このトラックは○○の新作のシンセからの引用かな」「このビートの組み方はガバトランスっぽい」などという聴き方をすることが多かったのだが、メジャー3rdアルバムとなる本作『FANTASY CLUB』は、<これ以上もう気づかないでいい>と語り掛ける「CHANT #1」、<何かあるようで何も無いな>と呟く「SHOPPINGMALL (FOR FANTASY CLUB)」など、彼自身が紡ぎ出すリリックに強く惹きつけられてしまった。トライバルテクノの進化形とも言える「FANTASY CLUB」、近未来感たっぷりのフューチャーポップ「THIS CITY」などのインストももちろん素晴らしいが、本作のキモは彼自身の心情がリアルに反映された言葉ではないだろうか。声を素材として扱い、トラックに取り込む構成力の高さも素晴らしい。
前作『Good Morning』に続きSALUのセルフプロデュースによる本作『INDIGO』には、SUNNY BOY、David Amber、Estra、RYUJAといったトラックメイカーが参加。現行のUSヒップホップのテイストを巧みに取り入れながら、恋人、親友、未来の子供たちなどに対する愛を表現したリリック、メロディの要素を強めたフロウを丁寧に重ねることによって、これまで以上にポップな仕上がりとなった。もっとも印象的だったのは、SALUをフックアップし、初期の作品をプロデュースしたBACHLOGICとのコラボレーションによる「TOKYO」。The Weekndを想起させるような近未来的ファンクサウンドに90年代の日本のポップス感を加え、現在の東京に対する愛憎を歌ったこの曲は、新しい表現に挑戦した本作を象徴するナンバーのひとつと言えるだろう。
資生堂「アネッサ(ANESSA)」CMソングとしてオンエア中の最新シングル曲「SKY’s the limit」は、ぼくのりりっくのぼうよみ本人の「ここまで明るく突き抜けた曲を作ったのは初めて」というコメント通り、夏のキラキラした日差しをイメージさせるようなポップチューン。トロピカル・ハウス、EDMのテイストもさりげなく取り込まれ、“おしゃれで気持ちいい”というシンプルな印象を与える楽曲に仕上がっている。トラック・プロデュースはDYES IWASAKI。ジャズにも精通したこのクリエイターは、ぼくりりがリスペクトを表明している電波少女の新曲「ME」も手がけていて、このつながりも興味深い。カップリングにはササノマリイのトラックによる「つきとさなぎ」を収録。電子音、ノイズ、シンセなどを緻密かつ繊細に構築したサウンドと、自分自身の壁を壊そうともがく姿を描いたリリックが有機的に共存している。