音楽業界とクラウドファンディングの距離感はどう変化? アーティストの発言からその行方を探る

 そして、このシステムはもちろんメジャーアーティストが使用するためだけにあるものではないし、インディーズアーティストが、自分たちのブランドを損なわずに上手く使っている事例もある。個人的にもクラウドファンディングを使うということが意外だった、THE NOVEMBERSとROTH BART BARONの2組によるプロジェクトだ。THE NOVEMBERSの小林祐介は「自分たちなりに『線引き』があって、そこから外れるようなものは出したくなかった」と、バンドのイメージを守りつつ、決意表明のような新木場COASTでのライブ映像化プロジェクトを成功させた(参考:THE NOVEMBERS、激動の2016年を振り返る「想像し、信じる力は現実をここまで変える」 )。ただやみくもに使うのではなく、しっかりとした目的とメッセージ性、意味のあるタイミングかどうかも重要で、アーティスト性の強さに惹かれるファンほど、その点はしっかり精査する。

 ROTH BART BARONは、海外のシーンに挑戦したいと思っているタイミングでUKのレーベルから提案があり、この千載一遇のタイミングが重要だと考えたからこそ、プロジェクトを立ち上げたという(参考:なぜROTH BART BARONはUKに挑むのか 「今、何かが起きてるのはヨーロッパなんだ」 )。フロントマンの三船雅也からは「東日本大震災以降、皆が少しずついろんなものの裏側ーー例えばスーパーに並んでいるもの、電話の料金を疑うようになってきたし、自分の生活を良くするためにどうお金を使うかを考えるようになった。だからこそ、お店に並んでるCDのアルバムが、なぜ全部プラスチックのパッケージで同じ価格帯なのかと疑われている気もする」という、現状の音楽シーンと世間の価値観が乖離し始めているのではないかという指摘もあり、今はまさに発信側も受け手も“変革”が求められているタイミングなのかと気付かされた。

 三船の論に一つ付け加えるとすると、今は受け手がかつてより「裏側」を知りたがっている時代なのかもしれないとも思う。アーティストだけではなく、それを支えるクリエイターへの取材記事が各Webメディアで増えていたり、そこに関心が集まる状況が生まれているというのは、その証左とも取れるだろう。先日SKY-HIに取材する機会があったので、クラウドファンディングについて訊いてみたところ、「僕は清潔なものだと思っているんです。というより、具体的なお金の話をすることに対して『不潔だ』と煽る空気が、逆に不潔に感じる」と答えてくれた(参考:SKY-HIが“ファン運用Twitterアカウント”を立ち上げた理由「『物議を醸す』ことを大事にしたい」 )。そういう意味で裏側で起こっていること、つまりお金の流れを明瞭にするクラウドファンディングは、今の価値観とマッチした一つの手法なのかもしれない。

 もちろん、これらの取材を通して価値観が変わったからといって、「音楽家は全員クラウドファンディングをすべき!」と言いたいわけではなく、時代が変わるにつれ、さらに的確な手法が登場する可能性もある。しかし、現状に関してはクラウドファンディングが「うまく使いこなせばこれほど便利なサービスはない」ことだけは、これらの取材をもとに、はっきりと断言したいと思う。

(文=中村拓海)

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