姫乃たま『音楽のプロフェッショナルに聞く』004 ロベルト吉野(サイプレス上野とロベルト吉野)
姫乃たまがロベルト吉野に聞く、DJの面白さ「見ている人を楽しませて、何を考えさせるかが大事」
DJと聞くと、音楽に疎いクラスメイトだとか、親戚のおじちゃんですら、左手を左耳に、右手を前に突き出して、あのジェスチャーをするのに、DJが何をしているのかは、きっとあまりよく知りません。
「音楽のプロフェッショナルに聞く」第4回目は、ヒップホップユニット・サイプレス上野とロベルト吉野から、ターンテーブル担当のロベルト吉野さんをお招きして、DJについて教えていただきます。世界最大級のDJ大会『DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS』の決勝戦で血を見た、孤高のターンテーブリストによる授業の始まりです。(姫乃たま)
【起】横浜の少年がストリート文化からDJを選び取るまで
姫乃たま(以下、姫乃):今回は、「DJってこんなことしてて、格好良いし面白いぞ!」という魅力を教えてもらいに来ました。
ロベルト吉野(以下、ロ吉):それ、僕で大丈夫なのかな。僕はもともとラップをしていて、最終的にDJを選んだんです。ラップって特殊技能ですよね。
姫乃:ラッパー側もDJに同じことを思ってますよ、きっと! ビートを探すためにレコードを買い始めたんですか?
ロ吉:いや、単純に同じレコードを買って遊ぶのが格好良いなって思ってたんです。Zoo Yorkって今はもうファッションセンターしまむらでも売ってるようなブランドですけど、1997年にSK8ビデオ『Mixtape』っていうVHSがあって、そこにブルックリンのROC RAIDAて伝説のDJが映ってたんですよ。有名なラッパーのレコードを2枚使いするのを見て、一気にバコーンってきちゃって。僕たちの周りだと、BEAT武士が最初にターンテーブルを買ったので、当時のVHSにかなり影響を受け夜な夜な家に行って、本人よりレコードいじってました。
姫乃:初めて買ったレコードは覚えてますか?
ロ吉:Gang Starrの『YOU KNOW MY STEEZ』と、TWIGYの『DATEME』ですね。Manhattan Recordsの通販で買いました。
姫乃:シスコ坂の近くの?
ロ吉:はい、あそこで頼むと新譜情報とか再発情報とか全部届くんですよ。で、買いに行くかーって。それから高校に入ってちょっと経って、自分はターンテーブルを購入しました。
姫乃:あれっ、でも吉野さんってヒップホップよりもバンドサウンドのほうがお好きなイメージがあります。
ロ吉:そうですね。小学生の頃は往年のハードロックが好きだったんですけど、ずっと封印してて。
姫乃:封印。
ロ吉:ほら地元がアレっていうか、一個上が上野くん(サイプレス上野)達だし、スケボー乗ってたり、「この曲カッケー」ってヒップホップ聴いてたり、まあ「今はヒップホップだろ」っていう空気が。
姫乃:わはは、先輩達の圧が。ハードロックはご両親の影響ですか?
ロ吉:兄貴ですね。当時はハーコーな人だったんで、団地にドラムセットがあって。迷惑だろっていう(笑)。
姫乃:わははは、団地住まいなので、その迷惑さわかります。
ロ吉:わかりますよね!それで練習しろって言われて、できねーよって言ったら殴られたりとか(笑)。兄貴はブルースが好きで、オーストラリアで黒人とバンド組んだりしてて、今はもう落ち着いて寿司屋なんですけど。
姫乃:振り幅!!!
ロ吉:そう、振り幅がすごいんです。同時期に高校にはローライダーとかギャングみたいな奴がいたんですけど、格好に似合わずメロウなR&Bとか聴いてて、いいなと思ってましたね。
姫乃:学校にギャング。
ロ吉:ローライダーもやんちゃだったんで、車にバッテリー20台くらい乗せてて……爆発しないのかなあれ。とにかくそんな環境で、高校生の時はしらみつぶしに横浜のクラブに行ってよく遊んでいました。もうなくなっちゃったけど「CIRCUS」って老舗のディスコがあって、よくDJ観に行ってたら、なんか帯でやんないかって言われて。
姫乃:えっ、すごい。
ロ吉:平日で誰もいない時間なんですけど、R&Bとヒップホップの時間にわけて、R&Bは普通に曲を繋げて流して、ヒップホップのほうでスクラッチをやってだんだん覚えていったんです。当時からDJ KENSEIさんとかのミックステープには、がんがんスクラッチが入ってたので、見よう見まねでやってました。
姫乃:そうやってDJの技術を学んでいったんですね。
ロ吉:もうね、本当にやることなかったので、家でもAIWAのボロボロのラジカセをミキサーに繋いでミックステープを作るんですけど、24時間とかずっとやるんですよ。図工が好きって感じですね。好きな音楽を好きなところで繋ぐっていうのは、ほんと図工。しかもスイッチ入っちゃうと、3カ月くらいずーーーーーーっとやってて、風呂、飯、ミックステープ製作の繰り返しで、親も心配するくらい。
姫乃:それは今日会った私でも心配します。
ロ吉:はははは。それで出来上がったテープをたまり場に持って行って聞かせてたりしてました。その頃って曲の知識もあまり無く、面白い展開になれば良いと思い、家に昔から置いてあるシャネルズのレコードからヒップホップに繋いでいくっていう楽しいこともしてましたね。同時に上野くんがやってたドリームラップスってグループを見てて、ラップもゴリゴリなハーコーだけじゃなくて、いろんなスタイルがあるんだなって思ったりしつつ、僕はDJの道に進んだんです。
姫乃:そこまで夢中になれるものって、なかなか出会えないですもんね。
ロ吉:同時期にスケボーもやってたんですけど、大怪我して3カ月くらい歩けなくなったり、その間にボコボコにされたりとかで、こっちはもういいやって思っちゃったんですよね。まあ、不良も多かったですし。
姫乃:わあ、弱ってる人に強くいくスタイル。
ロ吉:そんな感じで最終的にDJだけになりました。
姫乃:わあ。
【承】上手なDJのつくりかたーー「電話も出ないし、飲みにも行かないし、しまいには炭水化物食わないっすもん」
姫乃:吉野さんが参加していた『DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS』のように、DJにも勝敗を決める大会がありますけど、DJの上手い下手ってどういうものなんでしょう?
ロ吉:バトルDJじゃなくて、曲を繋いで流すタイプのDJだと……時間帯の雰囲気に合わせて選曲するとか、わはは。それ大事ですね。あとはビートや全体をキープするのも大事だけど、誕生日の人がいたら誕生日の曲をかけてあげるとか、新しい曲を取り入れるのもそうだし、その曲にちなんだ曲をどんどん繋いでいく様な展開になると、「こいつ音楽好きだな」ってなる。
姫乃:はー、なるほど! すごく良いことを聞きました。
ロ吉:更には曲の元ネタとかだけじゃなくて、そのアーティスト自体が好きな曲とか、そのアーティストがライブの時にいつもSEで流してる曲とかをかけると、「こいつ玄人だな」ってなりますよ。
姫乃:DJをやるのに向き不向きってあるのかなって思ってたんですけど、音楽好きかどうかが大事そうですね。
ロ吉:あっ、でもDJバトルだけが好きで、音楽自体あまり聴かない人も居るんではないでしょうか。本当にスクラッチだけが好きな人とか。マニアな世界でもあるので。
姫乃:えー! でも『DMC』の決勝なんかを見ていると、全員がすご過ぎてよくわからないのですが、バトルの勝敗をわけている技術ってなんですか?
ロ吉:起承転結ですかね。
姫乃:起承転結?
ロ吉: 『DMC』の場合、決勝戦は6分間なんですよ。その6分間に、2分くらいのネタをふたつくらい入れて、ネタを繋げるためにワードプレイを、、とかですかね単純に言えば。
姫乃:ワードプレイ。
ロ吉:たとえば日本語のラップを流して、相手をディスるとか。それこそヒップホップじゃなくても、神保町で売ってるような民謡のレコードとかと混ぜて、オリジナルの言葉の流れを作ってディスってもいいんです。相手のネタを先読みして、何を使ってくるかわかったら、あえて同じネタを用意して、「俺がこのネタ使った方がうまいよ」みたいなワードプレイをして、次の曲に入るとか、そういう感じ。それやったら会場大興奮だと思います。
姫乃:ほああ、じゃあ完全に作り込んでるわけじゃなくて、臨機応変にやってるんですね……!
ロ吉:DJは練習をやり過ぎると、頭がだいぶパープリンになっちゃうんですけど、それくらいやりすぎちゃった奴が、予選の3分を戦ってから、決勝を6分で争うんです。イントロ、スクラッチ、ビートジャグリング、どんだけビートをキープしてるか。あとは曲の展開とか、最後にどれだけヤバいことやったかとかね。
姫乃:2015年の決勝戦では血を見ましたもんね……。
ロ吉:あっ(笑)、レコードを頭で止めたら血が。あれはシングル部門なんですけど、8人でやるバトル部門もあって、1対1になって90秒間で相手をどれだけ威嚇したり相手よりヤバい事やるかっていうので勝ち上がっていきます。
姫乃:うわあ、めちゃくちゃ難しい! 『DMC』の前は、みなさん大変でしょうね……。
ロ吉:みんな電話に出ないですね。ふははは。電話も出ないし、飲みにも行かないし、しまいには炭水化物食わないっすもん。
姫乃:えっ、なんで!
ロ吉:炭水化物食べ続けると、頭がパーン! ってなるじゃないですか。いかに自分に勝つかが大事なんで。今日の僕は沖縄帰りなので、沖縄ロスだし、だいぶ炭水化物で頭がパーン! ってなってますけど。本番前にコーヒー飲まない人もいます。
姫乃:はー、ストイックだ……。未だに吉野さんも、DJしかできなくなっちゃう時期ってあるんですか?
ロ吉:やべー、家帰って練習しなきゃって思ってる時期もありました。でも勝敗はあんまり気にしないというか……楽しくやりたい気持ちは大事にしたいっすね。