アルバム『TROPICAL LOVE』リリースインタビュー
電気グルーヴが語る、楽曲制作の流儀「悲しみや怒りを無理やり同意させるのはカッコ悪い」
3月1日、電気グルーヴがニューアルバム『TROPICAL LOVE』をリリースする。同作は、4年ぶりのオリジナルアルバムで、ゲストに夏木マリ、KenKen(RIZE、 Dragon Ash,、LIFE IS GROOVE)、トミタ栞らが参加した。
今回の制作にあたり、石野卓球とピエール瀧は3日間の合宿を行い、歌録り以外のほとんどを、Macの音楽制作ソフトGarageBandで作っていったという。そうして完成した『TROPICAL LOVE』は、電気グルーヴの“最高傑作”であると、以下のインタビューの中で石野卓球は語っている。2015年年末から2016年にかけて公開され、ファン以外からも大きな反響のあったドキュメンタリー映画『DENKI GROOVE THE MOVIE? 〜石野卓球とピエール瀧〜』を経た、今の電気グルーヴのモードとは。ふたりに話を訊いた。(編集部)
「間違いなく最高傑作だと思います」(石野卓球)
ーー4年ぶりのアルバム『TROPICAL LOVE』が完成しました。
石野卓球(以下、石野):新譜でこういうこと言うのも陳腐なんですけど……新譜と陳腐(笑)。や、ホントに最高傑作ーー電気グルーヴとしては、いちばんの最高傑作というか、ひとつの到達点になったと思います。過去に出したものを並べて、客観的に聴いても。
ピエール瀧(以下、瀧):うん。作った本人が言うんだから間違いないですね。
ーーおお……。
石野:まあ、過去のものっていうのは、CDも売れていた時代だし、ファンの思い入れもあるとは思うけど、そういうのをいっさい抜きにして、単純に音楽のアルバムとして聴いた場合、これはあらゆる点で、間違いなく最高傑作だと思います。
ーーなるほど。制作は、いつ頃からやっていたのですか?
石野:去年の10月3日から始めて……1曲だけ、ちょっと時間が空いてからやったのがあるんですけど、それ以外はもう、11月下旬にはできていましたね。だから、1カ月ちょっとぐらいで、もうほとんど完成して。
瀧:とりあえず、制作のスケジュールは押さえていたんですけど、そうやって決めたレコーディングの時期もきたし、始めますかっていうことで、2人して3日間ぐらい、合宿というか泊まり込みで作業をして。そっからはもう、トントン拍子というか、その3日間の合宿で、結構曲もできたので。
ーー合宿みたいなことって、これまでやっていましたっけ?
石野:昔はやっていました。いわゆる、作曲合宿っていうのを。ただまあ、今回のは、作曲合宿というか、打ち上げを先にやるみたいな感じで……。
瀧:まずは、レコーディング開始の打ち上げをね(笑)。
石野:開会式みたいな(笑)。で、そしたら思いがけず、その開会式で曲ができたから、それをまた祝って、打ち上げをするみたいな(笑)。
ーー(笑)。合宿は、どちらに行かれたんですか?
石野:都内ではないですね。人里離れたところじゃないと、うちら遊んでしまうので。
瀧:まあ、そうだね(笑)。
石野:だから、人里離れた山のロッジというか、そういうところにパソコンとノートと小さなスピーカーを持って行って……。
ーーあ、機材がそろっているスタジオではなく?
石野:そうです。というか、今回のアルバムは、ほとんどGarageBandで作ったんですよ。
ーーえっ? Macに入っている、音楽制作ソフトのGarageBandですか?
石野:そう。まあ、ほとんどと言っても、歌録りとかは別ですけど。でも、96%ぐらいは、GarageBandで作って。だから、今回のアルバムは、ほとんどラップトップだけで作っているんです。仮歌も全部、ラップトップのマイクで録ったし、そのまま残っているものも、結構あるんですよね。
瀧:MacBook Proのマイク、超優秀だったよね。
石野:超優秀だった。MacBookで仮歌を録って、そのあとスタジオにあるNEUMANNのマイクで録ったんだけど、あんまり合わなかったから、もう一回MacBookで録り直したものもあったりして。
ーーそんなに優秀なんですか?
石野:まあ、SkypeとかFaceTimeとかで話すわけだから、声はすごくクリアに録れるんですよ。ただ、録音するときに、カチャってキーボードの音が入ってしまうのと……あと、LRが逆なんですよ。MacBookに向かって録ったあと、再生すると、LRが逆になっているという(笑)。
ーー機材には、あまりこだわらなくなったのですか?
石野:相変わらず好きは好きですけど、今回は別にそういう感じではなかったので。外部の音源も、ヤマハのミニ鍵盤しか使ってないですし、使っている音も全部ソフトだし。それもケーブルが無かったから、ずっとMacBookのマイクの前で、弾きながら録って。そうすると、鍵盤の音がガチャガチャ入ったりするんだけど、その空間の音も入るので、ちょっといい感じで変な音像になるんですよね。で、やっぱり出来合いのサンプルとかでやっていくと、なかなかそういうのが出ないというか。それによって「汚し」みたいなものが生まれたんですよね。やっぱり、お金と手間だけじゃないんだなっていうのは、今回改めて思いましたね。
ーー電気グルーヴとしては、かなり新鮮な試みだったのでは?
石野:試みというほど大したものではないというか、最初にGarageBandを使ったのもメモ代わりに録っておこうぐらいの感じだったんですよね。でも、最終的に、それで最後まで行けちゃったという。
ーーちなみに、その合宿というのは、具体的には、どんな感じだったのですか?
石野:結局、60時間ぐらい連続で一緒にいたんですけど、30年以上一緒にいて、60時間話すことがあるのかって言われたら、それは無いですよ(笑)。無いから作るんです。
瀧:まあ、テーブルの上にラップトップを開いて、その前に2人で座って、ビール飲みながら、ああだこうだ言いながら、途中で寄り道して……で、またその寄り道したやつが、次の曲のパーツになったり「こんなことできるんだぜ」、「へー、すごいね」なんて言いながら(笑)。だから、曲を作ろうと思って、頑張って作っていたわけじゃないんですよね。
石野:そう。だから、うちら、休憩しないんですよ。ずーっと休憩中みたいなもんだから(笑)。
瀧:うん、ノンストップでやってたね。
石野:まあ、途中で気分転換に、替え歌を作ったりはしていたけど。
瀧:あと、酔っぱらって、寝落ちしたりとか(笑)。
ーー(笑)。いわゆる「根詰めて」みたいな感じではなかったと。
石野:うん。やっぱり根詰めて作るようなものでもないというか、そういうのは別にうちらに求められてないし、うちらもやろうとは思わないですから。根詰めて作るのは、やっぱり嫌ですわ(笑)。
瀧:だから、小学生が友だちと家で遊ぶとき、おやつに出てきたカールとかに、「これにマヨネーズつけて食ったらどうかな?」みたいな感じってあるじゃないですか。あれの音楽版みたいな感じですよ。そのベースラインにこっちを乗っけてみたら、「いいねえ」、「合うねえ」みたいな感じというか。で、それを積み上げていったら、アルバムができていたっていう感じですよね。
石野:やっぱり、テンションが上がるんですよね。まあ、瀧がコンピューターをいじるわけじゃないから、音を出すのこっちなんだけど、横で瀧の反応があるから、こっちもアガるじゃないですか。「お前、こういうの好きだろ?」、「好き! それ、たまんない!」っていう(笑)。だから、仕事と言うには、ちょっと申し訳ないというか……。
ーー本当に2人の共同作業というか。
瀧:まあ、仕上げているのは、卓球君ですけどね(笑)。
石野:でも、それを言ったら、バンドとかだって、別に作曲するやつが歌うとは限らないわけで。いろんな関わり方があるんですよね。まあ、昔はレコーディングのほうの比重が大きかったので、何もしないやつが一緒にいるっていうのは、すごく不公平なんじゃないかって思った時期もありましたけど(笑)。でも、今はもう無いですね。
ーーいつ頃から、無くなったんですか?
石野:いつ頃っていうか、お互いの役割を認め合ったっていうのと、そうやって役割分担したほうがうまく転がるっていうのを、お互い理解したんじゃないですか。あと、そっちのほうが面白いっていう。