SHE'S 1st Album『プルーストと花束』インタビュー
SHE’S 井上竜馬、自身の過去に向き合い導き出したこと「動こうと思うきっかけって理屈じゃない」
昨年6月のメジャー・デビューシングル『Morning Glow』、そして10月には2ndシングル『Tonight / Stars』をリリース。既存のバンドシーンとは一線を画し、洋楽志向のスケールの大きなピアノロックを鳴らしてきたSHE’S。彼らがついに初のフルアルバム『プルーストと花束』をリリースする。従来のエモーショナルなロックサウンドや繊細なバラードに加え、エレクトロニックなエレメントや、現行のR&Bに近いボーカル表現、洗練されたファンクネスなど、新たなアプローチも散見される11曲。だが、ジャンル的な広がり以上にソングライターの井上竜馬(Vo、Pf、Gt)が書くメロディの美しさ、彼自身の過去に向き合って導き出した覚悟が伺える歌詞に、フルアルバムならではの多様性が垣間見える。若き名ソングライターかつ、常に現状不満足な井上竜馬にアルバム、そしてそこに至るプロセスを訊く。(石角友香)
“新しいものが一番いい”人でいたい
――メジャーデビュー1年目はどんな年でしたか?
井上:まず、音楽を作る側として……音楽のことばかり考えていた1年でした。良くも悪くも。すごく囚われてたし、心のやり場に迷った時期もあったし。でも音楽人として具体的に「こうありたいな」と思ったのが、まずいろんな曲を書きたいということ。SHE’Sってこういう感じのサウンドでこういう感じの曲をやるバンドやでって言われたくなかったんで、MVになっている曲に一貫性はあったとしても、アルバムを聴いたときに全然違うものでありたいという気持ちが強くなりました。と同時に、そのためにリスナーとしてもっと色々な音楽を聴かなあかんなと思って、「サブスクリプションなんか絶対入らんわ!」と思ってたのに入ったり(笑)。
――2016年はビッグアーティストも新しい存在感を持っている人にもヒットが多かったので、励まされる部分は多くなかったですか?
井上:一番大きいトピックスだとRADWIMPSですかね。あと、THE YELLOW MONKEYも復活して。正直、「若手にももっとチャンスを!」と思うんですけど、力を持ち続けてる人は変わらず評価されるということには納得しました。
――希望のある出来事だったんじゃないかと思います。洋楽はどうですか?
井上:洋楽だと、一回通ったバンドとかアーティストをもう一回通って行くことが多かったですね。新しいものはエレクトロやUKポップを聴いてみたりしたんですけど、やっぱり一貫して好きな感覚があって。改めて聴き込んだのはMumford & Sonsと、新しいのならParade of Lightsってバンド、フィリップ・フィリップスも聴いてましたね。
――井上さんがこれまで以上に音楽を作ることに良くも悪しくも囚われていたというのは、今までの自分を超えたいという意識があったからなんですか?
井上:すごくハードルが上がったというか、自分の中での審査が厳しくなった(笑)。別にメジャーがどうだとかではなくて、単純に“新しいものが一番いい”人でいたいから、自然とそのハードルは上がるんです。でも、それを客観的に見たら、新しい要素を取り入れようとしている自分も見えたし、それをやりすぎると、きっとこれまでのSHE’Sを好きなお客さんは目に見えて離れていくっていうのもわかりきってたことやから、そのバランスを取るのが大変でした。あとは、単純にリリースまでのペースに追いつけなくて、ずっと音楽のことを考えていたということでもあったんですけど。
――なるほど。初のフルアルバムにどういう気持ちで向かって行ったんですか?
井上:色々考えてたんですけど、そういうことよりも手を動かした方が自分のことをわかるタイプやなと思ってたんで、とりあえず曲を書きまくって。ある一定の段階でアルバムのコンセプトを作ったんです。それは「プルースト」って曲ができてから”プルースト効果”(※マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』に登場する、マドレーヌの味によって幼少期の記憶が鮮明に蘇るという現象に基づく言葉)にまつわるというか、自分の過去の話をしていこうかなと思って。そこからアルバムのバランスを考えていきましたね。
――バランスというと?
井上:自分たちの思い描くSHE’Sの音楽の多様性、まだ自分たちがやったことのない音楽のジャンルにも手をつけていきつつ、今までのSHE’Sがやってきた感覚も残したいなと思って。そういうなんとなくのバランスを考えていったので、最終的に完成したものは今までのミニアルバムとそれほど大きな差はなかったかな、と。
――全体をまとめるような曲として「プルースト」が最初にできたというのは意外です。
井上:でもこの曲ができたからこそ、なんですよ。この曲って過去のある一点にフォーカスを当てたというよりは大局で見ている曲だと感じて、じゃあここの話をもっともっと深くしていこうと、他の曲を作っていきました。「プルースト」は歌詞も最初からそのまま歌ってたんですよね。「プルースト」の他には、「Ghost」「Tonight」もパッと浮かんだ曲でした。
――「Ghost」はおおらかな、のびのびした曲で。
井上:結構お気に入りです。元々2ndシングルを出す前、「Tonight」の前に作った曲です。でも制作スタッフに「や、重すぎ。なんかもうちょい手に取りやすい曲にしよ?」って言われて(笑)、「ですよね」って。
――そしてバンドヒストリー的な「Freedom」は他の曲や歌詞に比べると正面から向かっている感じがすごくします。
井上:この曲ではポップパンク×ピアノをまずやりたかったんですね。ライブでもそういう曲があんまりないし、勢いがある曲を書こうと。アップテンポでわかりやすくて。今までの僕らのアップテンポな曲って、ハードだったりヘヴィなものやったんで、もうちょっと自分自身も聴きやすくて楽しい曲をやってみようという気持ちで書き始めた曲でしたね。
――歌詞からは井上さんの自由の捉え方みたいなものがわかるなと。
井上:自由についてはあまり意味を考えてないけど、とりあえず言ってる人が多いんじゃないかなと思っていて。18とか19の頃は僕自身も「縛られんの嫌やな、自由にやりたいなぁ、好きなことを」って考えるふりだけだったけど、改めて自分でもちゃんと自由について考えたし、聴いている人たちにも考えてほしいな、という気持ちで書きました。
――歌詞に何度か出てくる<It’s Freedom、理屈じゃないものに動かされてる>という気持ちって、いつまでも変わらないものですよね。
井上:変わらないですね。結局、自分を動かしていくとか、自分で動こうと思うきっかけって理屈じゃないし、目に見えへんもんばっかりやから、そういうものを歌っていきたいんですけどね。その、目に見えないものに対して自分でちゃんと考えることができる、考えて答えを出せる人間でいたいなとは思うんで。でもそれってなかなかきっかけがないと考えられないので、僕が見つけたものを曲にすることで、そこからヒントを受け取ってくれたらより良いんじゃないかというか。