RADWIMPS 『人間開花』レビュー

RADWIMPSの楽曲はどう“開花”したのかーー『SONGS』出演を機に柴那典が考察

 そして中盤はトラックよりも歌に、サウンドよりも歌詞の言葉にスポットを当てた楽曲が並ぶ。7曲目「アメノヒニキク」は透明感あるギターフレーズに乗せて丁寧な歌声を響かせる一曲。そして8曲目の「週刊少年ジャンプ」は、インパクト充分のタイトルのイメージとは一味違うしっとりとしたピアノバラード。<ねえ 僕は人間じゃないんです>という歌い出しの「棒人間」も、野田洋次郎がこれまで何度も書いてきたような、世の中の常識や当たり前を問い直すようなモチーフを歌う一曲だ。

 後半には、シングルとしてリリースされた「記号として」、ライブ映えしそうな「ヒトボシ」と躍動感あるバンドナンバーが並ぶ。

RADWIMPS「記号として」

 12曲目は『君の名は。』のサウンドトラックに収録された「スパークル (movie ver.)」のオリジナルバージョン「スパークル [original ver.]」。『君の名は。』には4曲の主題歌が作られたが、結果、「夢灯籠」と「なんでもないや」は『人間開花』には収録されないこととなった。

RADWIMPS「スパークル[original ver.]」予告編

 終盤も素晴らしい。アコースティック・ギターをフィーチャーした短いインストゥルメンタル「Bring me the morning」に続き、14曲目に収録されたのが「O&O」。この曲はRADWIMPSなりのゴスペルだ。おおらかなビートに乗せて、半径の広いメロディが歌われる。実はRADWIMPSにとってゴスペルはとても大事な要素の一つだった。「いいんですか」(『RADWIMPS 4~おかずのごはん~』収録)や「七ノ歌」(『アルトロコニーの定理』収録)や「Tummy」(『×と○と罪と』収録)など、これまでもゴスペルの要素を持った数々の曲を作ってきた。それを経て、この曲では、デジタルなボイスエフェクトを大々的に取り入れ、ボン・イヴェールやチャンス・ザ・ラッパーなど現在進行形の海外シーンと当たり前に共振しているようなサウンドメイクが成されている。バンドの黄金律を更新しているような一曲だ。

 そしてラストは「告白」。雑誌『MUSICA』(2016年12月号 Vol.116)掲載のインタビューで語っていることによると、武田祐介の結婚式のために作られた一曲だという。とても優しくピュアなバラードでアルバムは幕を閉じる。

 こうして全曲を聴いていくと、バンドが10年の歩みを経て「第二章」の扉を開けたのが、よくわかる。まさに「第二のデビューアルバム」になった実感がある。サウンドや歌っている言葉の一つ一つの要素は、決してガラッと変わったというわけではない。彼らがこれまで撒いてきた沢山の音楽の種は、ちゃんと実って、ここにも息づいている。

 ただ、歌われている言葉や、鳴っている音が「外に向かっている」。きっと、『君の名は。』での新海誠監督との共同作業を経て、バンドに求められているものを改めて外から俯瞰で見たことも大きかったのだろう。

 様々な経験が、この『人間開花』に繋がったのだと思う。そして今夜の『SONGS』のパフォーマンスで、“開花”したRADWIMPSの姿を初めて目の当たりにすることになるだろう。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

アルバム「人間開花」特設ページ
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