1stEP『What’s Going On?』特別対談

Official髭男dism藤原聡 ×「鷹の爪」FROGMANが語る、創作でのし上がるために大切なこと

 

「メッセージをポップな音楽に乗せて伝えていく」(藤原聡)

ーー一方、髭男のEP『What’s Going On?』のコンセプトは?

藤原:今回はリード曲になってる「What’s Going On?」がまずできて。普段は言わないけど、僕は昔いじめられていた経験があるんです。いじめによる自殺は相変わらず多いし、最近は過労死とかもある。そうやって自ら命を絶ってしまうことに対して、僕たちはこう思うぜって投げかけようと思って書いたのが「What’s Going On?」なんです。で、その曲を作りながら、今回のEPに何か意味を持たせていこうと考えていたときに、新聞記事みたいなものにしていこうとひらめいて。だから、最初は新聞の社説っていう意味で、EPに「Editorial」っていう仮タイトルをつけてたんです。

ーー新聞の社会面や文化面に対する社説を書くような感じで曲を作っていこうと。

藤原:そうです。2曲目の「未完成なままで」は、僕もそうだったけど、今って、高校一年生くらいで文系/理系の進路選択を迫られるじゃないですか。そうやって自分の夢もはっきり定まってない状態で選択の時は来るっていう世の条理に対するメッセージを書いた曲なんです。「ニットの帽子」は、こじつけなところもあるけど、「そろそろ冬ですね」みたいな時候を絡めた記事、社説。4曲目の「黄色い車」は、僕らが地元の山陰を離れるときの気持ちを歌った曲なんですけど、地方の若者離れみたいな問題もよく取り沙汰されるじゃないですか。

ーー地方の過疎化問題ですね。

藤原:自分たちも夢を追いかけて出ていくといえば聞こえはいいけど、過疎化の一端にもなっているわけで。それで通常盤のジャケットは、新聞記事の上に自分たち色の絵の具をぶちまけたようなイメージにしたんです。一方、初回盤の方は、FROGMANさんの提案で、マーヴィン・ゲイの『What’s Going On?』のジャケットがモチーフになってるんです。

FROGMAN:オマージュってヤツですね。

ーーそれにしても、『What’s Going On?』とは、つくづく大胆なタイトルですよね。パッと聴き、マーヴィン・ゲイを思い出しちゃいますから。

FROGMAN:そうなんですよ。怖いモン知らずだなって(笑)。

藤原:あはは。1個前に『MAN IN THE MIRROR』というアルバムを作ってからタガが外れました(笑)。でも、僕が好きなマイケル・ジャクソンやマーヴィン・ゲイは自分の考えをしっかり持っていて、それをちゃんと世に向けて発信していたというところが共通していて。先程FROGMANさんが仰っていたように、僕も最近の邦楽のメッセージ性とか言葉選びには疑問を感じているんですね。自分たちはそうじゃないところに髭男の価値を見出したいなと思ってるし、メッセージをポップな音楽に乗せて伝えていくという姿勢を、平成生まれの僕らも受け継ごうということで、タイトルをそのまま拝借したんです。

ーー今の会話に出たように、藤原さんはもともとモータウン系のソウル音楽が好きなんですよね。

藤原:そういう古いものも聴きますけど、最近はアヴィーチーにハマって以来、スクリレックスとかジャスティン・ビーバーとか、トラックものを聴くようになりました。ああいう音楽を聴いていると、昔ながらのアコギにフィルターをかけてみたり、今だから出来る音の遊び方をしてるんですよね。バンドだとマルーン5とかフォール・アウト・ボーイは、新しい音を追求してるなと思う。たとえばフォール・アウト・ボーイは、トランペットとかストリングスを上手いことサンプリングして使ってるんですよ。それってDTMステーションを構えられる現代だからこそ作れる音楽だと思うし、そういうことをやらないというのは、周りは電子システムをどんどん導入してるのに、自分たちは帳面を付けてるのと同じことだから、使ってメリットがあるとかカッコイイと思えるものならどんどん採り入れていこうと思ってるんです。

(Official髭男dism・藤原聡(Vo、Key))

ーーFROGMANさんは最近どんな音楽を聴いていますか?

FROGMAN:最近は懐メロが多いですね。初期のレニー・クラヴィッツとか、90年代の曲ばっか聴いてます。あとはテクノとかハウスも好きなんで、4ヒーローとかニューヨリカン・ソウルとかも聴いてますね。

ーー創作時にインスピレーションをもらう音楽はありますか?

FROGMAN:ひとつ挙げるとしたらエイミー・マンですね。ポール・トーマス・アンダーソンが作った『マグノリア』という映画があって、そのサントラに彼女の曲が使われているんです。映画も音楽も本当最高なんですよ。

ーー映画は2000年に日本公開。サントラはグラミー賞にもノミネートされましたね。

FROGMAN:ポール・トーマス・アンダーソンって僕とあまり年齢が変わらない監督で、『マグノリア』を観に行ったとき、僕は20代だったんですけど、自分がやりたいと思ってたことを全部やられちゃったと思ったんです。なぜ彼がこんな素晴らしい映画を作ったのかなと思ってパンフレットを読んだら、もともと彼はエイミー・マンの曲を聴いてインスパイアを受けて、シナリオを自分で書いたそうなんです。だから音楽と映像が何から何までぴったんこなんですよね。超かっこいい。そのときに、俺はこういうことがやりたい、音楽先行で映画を作ってみたいと強く思ったんです。だから今でもシナリオを書くときにエイミー・マンを聴くと、ポール・トーマス・アンダーソンに対する悔しい思いと、その映画を見たときの最高な気分が甦ってきて、創作意欲が沸くっていうのはありますね。特に「One」という曲。

藤原:エイミー・マンは初めて名前を聞きました。

FROGMAN:ちょっとフォークっぽいスタイルのアーティストなんですよ。声がすごくいい。ちょっとキャロル・キングみたいな感じもあるかな。

藤原:そうなんですか。じゃあ、今度聴いてみますね。

FROGMAN:ところで、僕はさっきも言ったように「SWEET TWEET」が好きで。藤原くんは、髭男でもっと気軽な恋愛の歌を作った方が当たるかも、とか思わない? たとえば西野カナみたいな(笑)。

ーーもともと髭男は甘酸っぱいラブソングも得意ですからね。

藤原:確かにそういう曲をずっと作ってきてたんですけど、だんだん、自分たちがこれを歌ってていいのかと思うようになってきて。髭が似合う年になっても4人でバンドをやろうぜっていうことでグループ名をつけてやってるけど、何十年後かにステージで胸を張ってそういう曲を歌ってる画が浮かばなくて。

ーー青春時代の甘酸っぱさをオヤジになっても歌えるかと?

藤原:甘酸っぱい恋の歌は今でも髭男の中で評判が良いし、うれしいことなんですけど、そればかりになってもいけないなって。それよりはリスナーの辛いときに寄り添える曲とか、もっと別の背中の押し方ができる曲を作っていけたほうが、自分たちで自分たちをカッコイイと思えるなっていうところがあるんですよね。

FROGMAN:でも、恋愛の歌はこれからも作っていって欲しいな。甘酸っぱいだけじゃなくてさ。例えば五輪真弓の「恋人よ」みたいな、ただれた恋愛の歌があってもいいんじゃない?(笑)

藤原:ただれたって……(笑)。

FROGMAN:それに万国共通じゃないですか、恋愛の歌って。ヘヴィーというか、偽りのない恋愛の歌って、若いうちじゃないと作れないときもあるだろうし、髭男みたいな言葉のテクニシャンのバンドがそれをやったら説得力があると思うから。老婆心ながら、恐れずにやっていった方がいいんじゃないかなって思います。

 

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