RADWIMPSが『君の名は。』で発揮した、映画と音楽の領域を越えた作家性

 8月26日公開のアニメーション映画『君の名は。』で、RADWIMPSと新海誠監督がタッグを組んだ。単に主題歌を提供するだけでなく、バンドが全ての劇伴を手掛けた。出会う前から惹かれ合う二人の思いと、数奇な運命に翻弄されながらその繋がりをたぐり寄せる物語を、美しい筆致で描く傑作。その作品の本質的なところまで手を取り合ったコラボレーションが実現した。

 8月24日にリリースされるRADWIMPSの最新アルバム『君の名は。』は、映画のサウンドトラックでもあり、バンドが1年以上をかけ全力を注ぎ込んできた正真正銘の最新作でもある。映画の予告編にも使用されている「前前前世 (movie ver.)」を含む主題歌4曲と、劇伴22曲が収録されている。

「君の名は。」予告

 RADWIMPSと新海誠、それぞれの作品を知っているのならば、その組み合わせに深い納得を感じる人は多いだろう。一方はロックバンドで、一方はアニメーション映画監督。活躍してきたフィールドは全く違う。しかし両者の作家性は深いところで重なり合っている。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 それは、研ぎ澄まされた表現、解像度の高いイメージによって、とても純度の高い感情を抽出するところ。「君と僕」という、一対一のかけがえのない関係にフォーカスを絞り、光をあて、息を呑むようなそのきらめきを切り取るところにある。

 新海誠監督は『ほしのこえ』や『秒速5センチメートル』から「君と僕」のストーリーを描き続けている。単に恋愛をモチーフにしているということではなく、その主題の描き方に大きな作家性がある。SF的な世界観を持った舞台でも、その中ですれ違う二人、煩悶する主人公の「一対一」の関係にぐっと焦点を当てたストーリーを描き続けている。そして、独特の色彩感を持ったアニメーション映像の美しさが、そのポエティックな叙情性を支えている。

 RADWIMPSも、特に「有心論」や「25コ目の染色体」など、初期から一貫して純度の高い「一対一」の愛情を歌ってきたバンドだ。「君と僕」のミクロな思いがそのまま「生命の神秘」や「宇宙」のような大きなスケールの本質に通じ合うような、アクロバティックな歌を生み出してきた。類まれなる言葉の才能とサウンドメイキングの才能で、それを形にしてきた。

 その両者が組むわけだから、共同作業は単に主題歌を作るだけのことに終わらなかったんだろうと思う。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 音楽とアニメーションが今までになかった次元で融け合い、手を取り合っている。それが『君の名は。』という作品を観ての最初の印象だった。「夢灯籠」「前前前世(movie ver.)」「スパークル(movie ver.)」「なんでもないや(movie edit./movie ver.)」というボーカル曲の4曲は、映画のストーリーの中で「これしかない」というタイミングで使われる。

 一方、「三葉の通学」「憧れカフェ」「デート」などと名付けられた22曲の劇伴は、そのタイトルが示す場面にきっちりと寄り添っている。クレジットはRADWIMPSというバンド名義になっているが、こちらの多くはストリングスやピアノを用いた正統派の劇伴のサウンドとして仕上げられている。

 新海誠監督は、川田十夢がナビゲートするJ-WAVEの番組『THE HANGOUT』にゲスト出演した際に「もともとRADWIMPSの大ファンだった」と語っていた。プロデューサーの川村元気が野田洋次郎と新海誠監督を結びつけ、脚本の初稿を渡した2カ月後には「前前前世」が出来上がったという。

 それを受け取った新海誠監督は「この曲がかかる瞬間を映画のピークにしなければと思った」と言う。そして、そういう曲が4曲あり、結果、107分の映画の中で4曲分のクライマックスが訪れるような構成になった。同番組の中で新海誠監督は「なかばミュージカルみたいな感じでもいいと思った」と語っていた。その言葉の通り、これまでのアニメーション映画の文法からは逸脱するような演出が繰り広げられていた。楽曲が、主人公・瀧と三葉の物語をドライブさせていた。

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