市川哲史『逆襲の〈ヴィジュアル系〉-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの-』発売記念 PART.2

私が〈hide〉と 呑み倒してた日々ーー市川哲史が濃密な10年間を振り返る

 あらゆる意味で、hideは本当に優秀な洋楽リスナーだとつくづく思う。

 そして自分が「なんじゃこりゃあ 」と思った数々のロック衝撃体験を、現在の少年少女たちにも味合わせたいと心底思っていた。Xにせよソロ活動にせよ、彼の行動原理はすべてここにあったのだ。

「ロックって、『うりゃあ!』とか『ほりゃあ!』とか『ほえ?』とか思わせるものがやっぱり凄い。『私が悪うございました』と素直に認められちゃうからねー。そんな僕みたいな人ってきっと多いだろうと思ってる。だって平均的な人だからさ、俺」

「『そういうのはロックじゃないよ』って言われりゃそれまでだけど、自分がそういうものに...... 助けられてるからね(照笑)。恩恵を受けてるからさ。あの『なんじゃそりゃあ 』体験がなかっ たから、もしかしたら人生いまの2%程度が関の山かも。僕はいま愉しいから、そう導いてくれたものに対して足を向けては寝られないじゃない? 同じように......まがりなりにも生み出す立場としては、昔の自分と同じことを想ってる人がもしいるならば――どこにいるかは知らないが(苦笑) ――『助けたい』なんておこがましい気持ちじゃないけれど、『どこかにいるはずだ!』と。『そいつよ聴け!』と。『俺だってそうだったんだよ』と(子供笑)」

 同じXのYOSHIKIも自己表現に対してトゥーマッチなんだけども、それは自分の美学を一分の隙なく具体化するための過剰さだ。較べてhideのトゥーマッチさは聴き手に重きを置いたというか、リスナーの〈ロック少年少女たち〉の方しか向いていない過剰さだ。

 リスナーとしても表現者としても、hideの「なんじゃそりゃあ」に裏表はない。

 ザ・マッド・カプセル・マーケッツがいかに面白い新人か、私に一晩中説いた。「コーネリアスの新譜が好き♡」との理由だけでひょいとV系/渋谷系の垣根を超え、小山田圭吾と対談した。縁もゆかりもないアマチュア・ZEPPET STOREに惚れこんだのを機に、損得勘定抜きでレーベル〈LEMONed〉まで設立して市井の才能に門戸を開放した。

 つくづく誠実な男である。

「だから市川さんが言ってくれる『なんじゃそりゃあ 』の感触? たまに忘れることもあるけど(苦笑)、俺にとっては大切なことだと思うんだー。だから僕の音聴いて『なんじゃこりゃあ 』 と思ってくれたら嬉しいけれど、自分がどう思ったか――自分がそん時に思った気持ちをいまの20何歳になっても持てることが、僕にとっては重要なの。だから中学生のころの『なんじゃこりゃあ 』をそのままここに持ってはこれないけど、いまでも別の『なんじゃこりゃあ』を思えるからね」

 ちなみに私がいちばん好きな、hideの「なんじゃそりゃあ 」話は――。

 ヴォーカルのブラッキー・ローレンスが骸骨を盃にして生き血を飲み干すライヴ・パフォーマンスが人気の、WASPを観に行ったまだ〈サーベルタイガー〉時代のhide 。もちろん「なんじゃそりゃあ 」魂絶好調である。

 ローレンスが血をすすり客席に放り投げたその夜の骸骨は、hideの目の前に飛んできた。咄嗟に摑むと当たり前の話だがその骸骨はプラモデルで、底にはまだ血糊がべっとり。次の瞬間「すいません、その血を分けてください」と横の女性から丁重に頼まれ、「いいですよ」と快く手渡したら「ああー♡」とやたら悦ばれたらしい。

「もういたく感激しちゃってるから、『これだ!』と。ウチのバンドのライヴで――血を吐きました、肉屋で買ってきた生肉を食いちぎりながら(失笑)。当時はメンバー皆お金全然ないんだけど、豚だと身体に悪いからってんで牛にしたの。くくく」

 なんじゃそりゃあ。

※まだまだ続く貴重なエピソードは、書籍『逆襲の〈ヴィジュアル系〉-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの-』にて。

■書籍情報
『逆襲の〈ヴィジュアル系〉-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの-』
価格:3,000円(税込価格:3,240円)
判型:四六判
総頁数:584頁
発売:8月5日
発行/発売:垣内出版

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【目次】

●プロローグもどき/《ルナフェス》という名の到達点

第Ⅰ章 私が〈V系〉だった頃(21世紀version)
§1 XとLUNA SEAの〈再結成〉で考えた、いろんなこと
§2 生き残った者たちの、それぞれの〈正義〉
§3 キリトが〈社会派〉であり続ける理由

第Ⅱ章 〈V系〉がヤンキー文化だった頃
§1 ハレだ祭りだヤンキーだ〈V系オールドスクール〉再考
§2 YOSHIKI伝説フォーエバー

第Ⅲ章 〈V系〉がオタク文化になった頃
§1 ゴールデンボンバー売れっ子大作戦
§2 鬼龍院翔も〈V系カリスマ〉である、たぶん
§3 〈サブカルとしてのV系〉の知らない世界
§4 或るバンギャルの一生

第Ⅳ章 私が〈hide〉と呑み倒してた日々
§1 hideと私と愉快な〈元・ロック少年〉たち
§2 すべての後輩たちの《hide兄ぃ(J談)》
§3 〈好奇心〉という名のクリエイティヴィティー
§4 hideと小山田圭吾

●エピローグもどき/ももクロベビメタエグザイル三題囃
●年表

【内容紹介】
ゴールデンボンバーは〈V系〉の最終進化系だったーー? 80年代半ばの黎明期から約30年、日本特有の音楽カルチャー〈V系〉とともに歩んできた音楽評論家・市川哲史の集大成がここに完成。X JAPAN、LUNA SEA、ラルクアンシエル、GLAY、PIERROT、Acid Black Cherry……世界に誇る一大文化を築いてきた彼らの肉声を振り返りながら、ヤンキーからオタクへと受け継がれた“過剰なる美意識”の正体に迫る。ゴールデンボンバー・鬼龍院翔の録り下ろしロング・インタビューほか、狂乱のルナフェス・レポ、YOSHIKI伝説、次世代V系ライターとのネオV系考察、そして天国のhideに捧ぐ著者入魂のエッセイまで、〈V系〉悲喜交々の歴史を愛と笑いで書き飛ばした怒涛の584頁!

【著者プロフィール】
市川哲史 いちかわ・てつし
1961年岡山県生。音楽評論家。予備校生時代の80年より現在に至るまで、『ロッキングオン』『同ジャパン』『音楽と人』『オリスタ』『日経エンタテインメント!』などを主戦場に書きまくってきたが、根が正直なため出禁多数。守備範囲は音楽も超えて∞。16年は絶好調なのか、洋楽本とプログレ本も近刊予定。主な著書は『X-PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME VISUAL SHOCK-』『BT8992』『ART OF LIFE』『BJC』『キリトの偽装音楽業界』『オレンジレンジのチーズバタージューシーメー』『私が「ヴィジュアル系」だった頃。』『私も「ヴィジュアル系」だった頃。』『さよなら「ヴィジュアル系」-紅に染まったSLAVEたち-』『ウルトラ怪獣名鑑戯画報』『遺留捜査』『遺留捜査2』など。

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