Yuji Ohno & Lupintic Six『YEAH!! YEAH!!』リリース記念対談

大野雄二×MUROが語る、ジャズからヒップホップまで“融合“の軌跡「音楽は混ざり合っていくもの」

 

「大野さんの楽曲は、本当の意味で僕の原点」(MURO)

MURO:僕の実家はガソリンスタンドをやっていたのですが、庭をちょろちょろしていると危ないからって、小学生の頃は隣にある映画館に朝から晩まで一人で入り浸っていたんですよ。いつもタダ券をもらっていたので、大人が観るような映画も観ていて、『人間の証明』や『犬神家の一族』も観ました。話の筋はよくわからなかったものの、だからこそかえって音楽の印象が鮮烈で、大野さんの楽曲に聞き惚れていたんです。僕にとって、本当の意味で原点なんですよ。もう、身体に染み付いているというか。朝方に、これからどうしようって落ち込んでいるときとか、NHKをつけっぱなしにしていて、良い音楽が流れてきたなって思ったら、大野さんの楽曲だったりして、常に助けられてきました。

ーー明確に大野さんの楽曲を意識したのは?

MURO:やっぱりルパンですね。ソノシートっていうペラペラのレコードを子どもの頃に集め始めて。ルパンの音楽はすごく大人っぽくてかっこいいな、ハードボイルドだなって思って聴いていました。いま振り返ってみれば、中学生くらいのころに大野さんの楽曲を意識したのが、ブラックミュージックとの出会いでしたね。求めている音のすべてがそこには詰まっていて。僕の中でそういうレコードを集めるのはすごく大人びた遊びで、いまも憧れの気持ちが残っています。DJとしても、そういう気持ちは大切にしていきたいですね。

大野:MUROさんが僕の楽曲を気に入ってくれているのは、たぶん僕が世界中の音楽を雑多に取り込んでいるところがあるからかもしれない。僕はジャズがルーツだけど、ソウルやボサノヴァやアメリカのポップスなども混ぜて出しているんだよね。ソウルだけが好きでルパンの曲を作っていたら、こうはなっていないね、きっと。ブラジル、フランス、イタリア、スペイン、ありとあらゆる国の音楽を聴いてきたからね。そうやっていろんな国の音楽を聴いていると、たとえばスペインのポップスを聴くと、かならずフラメンコの要素が入っていることに気付くんだ。ブラジルのジャズメンも、絶対にボッサやサンバの訛りが入っている。そういう風に混ざり合っていくのが、音楽の面白さのひとつだと思っていて、僕の音楽もいろんなものが混ざっているから、MUROさんも面白く聴いてくれているんじゃないかな。

MURO:そうですね。いろんなジャンルをすごく上手にミックスしていて、しかもさじ加減がすべて完璧なんです。世界中探しても、大野さんが作っているような音楽って実はなくて、だからこそ海外のDJの間でもすごく人気なんです。向こうのDJと会うと、大野さんのレコードを求められることが多いです。

大野:僕はデイヴ・グルーシンがすごく好きだったんだけど、当時の日本ではほとんど誰も聴いていなくて、そういうニュアンスを映画音楽のサントラとかに落とし込んでいたね。彼はセルジオ・メンデスなんかのアレンジとかも多くやっていたけど、小さくしか名前が載っていなくて。そういう小さな情報を頼りにして、いろんな音楽を探して、自分のセンスでミックスしていく感覚は、きっとMUROさんとも共通するところなんじゃないかな。

MURO:まさかデイヴ・グルーシンの話が出てくると思わなかったので、感動しちゃいました(笑)。僕もこの10〜20年くらいは、いろんな国に面白いレコードを探しに行っているので、そういう部分はすごく共通しているように思います。最近でいうと、ブラジルはオリンピック開催もあってか、音源のリリースがすごく多くて、面白いものがいっぱい出てきていますよね。

大野:ブラジルって、やたら才能のあるひとがいるんだよ。ちょっと異常なんじゃないかってくらい、すごい人材がゴロゴロしている。ただ売り方がよくないのか、世界的にはあまり有名になっていなかったりする。ちょっと加工してあげたら、ドーンと売れそうなんだけど、たぶんアメリカ的なビジネスセンスを持ったプロデューサーが少ないんだろうね。例えばアメリカにはトミー・リピューマやクリード・テイラーみたいなプロデューサーがいるでしょ? 彼らは、ジャズ好きなひとには絶賛されるプレイヤーだけど、世界的にはあまり売れないタイプのひとに、ちょっとだけ我慢をさせて、メジャーでスターにする。そういうことをすると彼らをコマーシャル野郎みたいにいうひともいるけど、それはミュージシャンにとってもすごく良いことで、結果的に好き勝手演奏できる場所は増えるんだ。クリード・テイラーがヴァーヴっていうレコード会社にいた時に、ジョアン・ジルベルトっていうボサノヴァ歌手をプロデュースしているんだけど、ジョアンはいうことを聞かないひとで、ポルトガル語にこだわるあまりアメリカではあまり売れなかった。でも、セルジオ・メンデスはポルトガル語でも歌うけど、英語もOKしたからこそ、売れるようになったわけ。

MURO:大野さんがクリード・テイラーにすごく影響を受けているという記事を読んで、僕もCTIのレコードをすごく集めました。やっぱり、そういう風にいろんなひとに聴いてもらえるように工夫をするというのは、大切だと思います。僕はDJなので、少しかたちは違うかもしれないけれど、いろんな音楽を幅広いひとたちに聴いてもらいたいという理想は持っているので、そのあたりの感覚は近いところがあるかもしれません。

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