「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第26回 おやすみホログラム『2』

おやすみホログラム、いよいよリキッドの舞台へーー新機軸も飛び出した“奇祭”を振り返る

 

 バンド演奏で始まった「machine song」では、麻袋に詰められたままダイヴしてきたヲタがフロア前方へと運ばれてきた。コーヒー豆かよ……。「plan」では、演奏の疾走感に煽られて、フロアもさらに荒れ狂っていく。「last dance」「before」からの流れで溜めた熱が、「strawberry」やHave a Nica Day!のカヴァー「forever young」では暴発したかのようだった。チケットがソールドアウトするのもわかる。これほど自由な現場はそうそうないのだ。熱気のある場所に人は集まる。

 「under water」や2回目の「note」では百瀬巡がキーボードを弾いていたが、「note」ではオリジナルよりも激しい演奏に。「note」でのバンド演奏のタイム感も秀逸だった。

 ミディアム・ナンバーの「帰り路」では、カナミルと八月ちゃんのハモりが美しい。ハーモニーはおやすみホログラムの大きな魅力のひとつだ。「our future」「夜、走る人」「11」と続いた本編終盤では、ときにサイケデリックな百瀬巡のヴァイオリンが大きなアクセントになっていた。

 

 「誰かの庭」で本編は終わったが、アンコールの声は止まらない。すると、おやすみホログラムとコラボレーションしてきたラッパーのハハノシキュウの映像がステージ上のスクリーン流れだした。その「おはようクロニクル」は、おやすみホログラムのメンバーの名前や曲名などを織り込みつつ、おやすみホログラムのこれまでの歩みを描いた楽曲だった。

 そのライムにフロアから歓声が起きる中、ハハノシキュウ本人も登場。そして突然、「3回目のワンマンが決まる / その会場を今から教える」と、ハハノシキュウによって次のワンマンライブの場所が発表されたのだ。それは、2016年11月16日の恵比寿LIQUIDROOMだった。

 LIQUIDROOMは、おやすみホログラムにとって大きな意味を持つ場所だ。おやすみホログラムが現在のスタイルになったきっかけは、Have a Nice Day!とのコラボレーションでアンセム「エメラルド」を生みだしたことだった。そのHave a Nice Day!が、2015年11月18日に『Have a Nice Day!「Dystopia Romance」リリースパーティー』を開催し、925人を動員した場所がLIQUIDROOMなのだ。そして、カナミルと八月ちゃんは、おやすみホログラムがそのライヴのゲストとして1曲しかできなかった悔しさを述べてきた。2016年5月24日には、映画『モッシュピット』の上映後のトークショーで、カナミルがしばらく沈黙して考え込んだ後に、「いつかLIQUIDROOMに925人以上を動員する」と宣言したばかりでもあった。おやすみホログラムは、遂にそれを現実にしようと動きだしたのだ。

 

 アンコールが始まると、オガワコウイチが「僕らの船がないと漕ぎだせない」と前振りをした。何かと思えば、ビニールボートのようなものが2台フロアに投げ込まれ、それにカナミルと八月ちゃんがそれぞれ乗って「Drifter」を歌う趣向。奇祭のようだと感じたのはまさにその光景だった。八月ちゃんが「もっとフロア後方に行きたい」と言いたげに指をさしても、真下で支えているヲタには見えないので、なかなかうまく移動しない。しっかりと歌うための趣向だったのだろうが、最終的にはビニールボートからカナミルがフロアへダイブしていた。

 2回目の「ニューロマンサー」を経て、ダブルアンコールへ。そこで歌われたのは、初披露の新曲「planet(仮)」だった。突然のエレクトロ・ディスコである。フロアが反応の仕方を模索している雰囲気の間にライヴは終了した。最後の最後で新機軸を打ち出してきたのだ。

 バンドで演奏するオガワコウイチの姿を見ながら考えたことがある。彼はアメリカでいうならナードの青年のようであるし、おやすみホログラムのファースト・アルバム『おやすみホログラム』は、アメリカのカレッジ・チャートに入るインディー・ロックのようなサウンドだった。オガワコウイチが「Pitchforkで評価されたい」と語っていたことも思い出す。彼のようなバンド畑の人物が、アイドルをフロントに立たせることによって評価を得ていく過程は、まさに日本独自の文化だろう。

 

 そして、おやすみホログラムのこの日のフロアは「品がない」というぐらいの盛りあがりで、そこにもうひとつの可能性を見た。2016年5月25日にはHave a Nice Day!もTSUTAYA O-WESTでワンマンライヴを成功させたが、同じようにモッシュやダイヴが起きていても、Have a Nice Day!はダンスフロアっぽく、おやすみホログラムはヲタのノリだった。おやすみホログラムはHave a Nice Day!を強く意識しているが、彼女たちの現場はしっかりと独自の進化をしているのだ。また、冒頭からクラップケチャ(落ちサビでケチャを捧げる際に手を打つスタイル)が鳴り響き、他現場から流入した新規ファンの多さも実感した。

 おやすみホログラムは、2016年11月16日にLIQUIDROOMで925人以上を動員できるのだろうか? それは決して夢物語ではないだろうと、この日のライブを見て感じた。ふだんの「手癖」を意識的に封印してステージに立ったカナミルと八月ちゃんが、そう感じさせてくれたのは言うまでもないだろう。

(写真=すずき大すけ)

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

関連記事