アニメーションの劇伴にはどんな特徴がある? 『犬夜叉』など国内外の作品をもとに解説

劇伴が映像の動きに従属するように付けられているケース

 劇伴が、「溜め録り」(参考:筆者自身によるブログ記事)の手法による収録ではないプロジェクトの映像作品では、時に、劇伴が映像の動きに従属するようにかなり細かく変化させて付けられているケースがある。

 代表的な例として、ワーナー・ブラザーズ製作のアニメーション・シリーズである、「ルーニー・テューンズ」の多くの作品は、シーンのちょっとした変化に合わせて音楽もめまぐるしく変化するように書かれている。そのために「音楽が細切れになっている」のであるが、作品の世界観と非常にマッチしている。しかし、もし実写作品で同じことをやってしまったら、コントになってしまうだろう。このシリーズはディスク製品化されているので、ぜひ一度見てみて頂きたい。

 日本のアニメーション作品の具体例として、アニメーション「それいけ!アンパンマン」の劇伴と映像の動きは、上述の例ほど大げさではないが全体的にフィットしている傾向にある。

 たとえば、少し躓くシーンでいきなり音楽にアクセントがついたり、驚くシーンではいきなり派手な効果音が入ったり、キャラクターが忍び足で歩く場面では音楽もこもった表現に変化するなどといった表現がみられる。また、「ばいきんまん」の顔が映し出される場面では、それまで流れていた劇伴が終止しているかどうかに関わらず、音楽的な色合いが変わるといったケースも多い。同番組では、音楽が頻繁にチェンジされ、1曲が長く使われているケースがシリーズを通して割と少ないのだ。

 この手法がとられる理由としては、前述した「アニメーションは映像そのものから得ることができる情報が実写に比べると少ない」という理由による部分は大きいが、映像表現を劇伴で補佐する意図としてだけでなく、劇伴が映像の動きに従属するようにつけられることによる、一種の「コメディ的な要素」が表現されているとも考えられるのではないだろうか。

テレビ放映のアニメーション作品

 テレビ放映の映像作品だと、家事をしながら視聴したり、家庭環境の影響でわずかな音量で視聴したり、さらには、子供が同じ部屋で騒いでいる状況の中で視聴するなどといった可能性も考えられる。劇伴を含めた「音全般」は、これらの状況を考慮に入れたものを作ることが必要とされており、その点を踏まえて聴くと、視聴者が映像作品を観る環境の違いが「音全般」の製作段階に影響を与えていることがわかるだろう。

 映画は、DVDやブルーレイでない限り、視聴する場所が映画館という「静かな環境」であるが、テレビ放映の子供向けアニメーションは、比較的リビングなどの空間で視聴され「静かな空間で集中して観る」という状況にならないことが多い。この理由によって、テレビ放映の映像作品は「大げさな劇伴や効果音が多く要求される」傾向あると考えられる。「アニメーションの劇伴における音楽表現の特徴」とは直接は関係が無いように思うかもしれないが、アニメーションの中でも特にテレビ放映のものは「音楽や効果音が多く必要とされたり、説明的な音楽が求められるといった傾向がより強い」という状況を考察する上で重要な視点となる。

 今回は、アニメーションの劇伴における音楽表現の特徴について幅広い視点から考察した。 劇伴の作曲家は常に「映像音楽において新しいことを」と考えている傾向があり、新たな試みをした作品が市場にも数多く出回っている。映像音楽において今まで使用されていない楽器を取り入れてみたり、以前からも多少例は見られたが、最近だとアニメ『Free!』などのように。ラップを含めた人声を劇伴に取り入れる作品も増えてきている。

 2000年以降、アニメーションの静止画に対して連続した劇伴をつけるなどといった、動きの面での「映像と音楽との対位法」を用いた作品も更に多く見られるようになってきており、時代の移り変わりと共に、アニメーションの映像表現はもちろん、劇伴自体も変化してきている。

 前述した内容は、あくまで傾向であり例外も数多くあるが、アニメーション作品を観るときに少しでも思い出して頂けたら、映像作品を違った角度から楽しんで頂けるはずだ。

■高野裕也
作曲家、編曲家。東京音楽大学卒業。
「映像音楽」「広告音楽」の作曲におけるプロフェッショナル。
これまでに様々な作品に携わるほか、各種メディアでも特集が組まれる。
公式HP

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