ニューアルバム『THE LAST』インタビュー

スガ シカオが明かす、“エグいアルバム”を作り上げた理由「音楽のドキドキ感だけは譲れない」

「「これ大丈夫かな」ってずっと思っていた(笑)」

 

ーーそこでどういう勢いがついたんでしょう?

スガ:僕がずっと思ってることなんですけど、ここ十数年、どの曲を聴いても、音楽がみんな一つの額縁に入っちゃってる感じがするんですよ。DTMになってから特にそうだと思うんだけど、海外も含めて、その額縁から出る音楽が一個もない。そこにハマっちゃうのが自分としてはすごく嫌で。「どうにかしてこの額縁から出られないものだろうか」というのを考えていた。小林さんとも「じゃあ額縁を超えているのってどんな曲なの?」みたいな話をして。理屈ばっかり言っていたんだけど、「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」という曲のアレンジができたときに、実際に「あ、額縁を出た!」みたいな瞬間があったんです。それがやれた実感があったんですね。そこから火がついたんですよ。つまりは額縁の出方がわかった、という。

――額縁の出方がわかった、というと?

スガ:要するに、今出ている音楽のソフトとか機材って、全部、形を矯正するものばっかりなんですよ。だから、何かちょっとハミ出すとひゅっと強制されちゃう。

ーーなるほど。テンポのズレを直すとか、歌の音程のズレを直すとか。

スガ:あとはレベルメーターが赤に行かないように直すとか。今出ている音楽周辺機器、楽器、その全てが修正、矯正の方向にしか向いていないんですよ。で、そこをまず取っ払えばいいんだってことがわかったんです。最初から修正しないものをベーシックに作る。そういう周辺機器と逆のことをするようにしたんです。そこがターニングポイントになったんだと思う。だから聴いて「うわ、これハミ出してんな!」みたいにウキウキするし、それがどんどん中毒みたいになっていく。そこが火がつくターニングポイントになったんですよね。いろんな方法でそれを発見していくんですけど。

ーー実際、今回のアルバムって上手く言葉にしづらいんですけど、聴いていると「うにょうにょしてる」とか「ぐねぐねしてる」っていう感触があるんですよね。

スガ:そこを今のテクノロジーに通すとビッと揃うんですよ。でも一切そこを通していないので、うにょうにょしたままなんです。というのも、今の時代って、たとえばBPM98という一つのテンポに対して、どこにノったら一番気持ちいいかっていうのを全部計算してくれる機器があるんです。誰でも一番気持ちいいところを選べて、ノレるようになったんですね。でも、だからこそその逆を行こうと思った。合ってないものの上で合ってない歌を歌うのがいいじゃないかっていう発想で「あなたひとりだけ〜」を作ったんですよ。

――合ってない歌を歌う?

スガ:あの曲って、テンポがBPM98だとしたらベースはBPM140くらいなんですね。そもそもリズムが合ってないんです。だから、聴いていても、ずーっとズレている。だけど、何百小節かに一回だけ、合ってないんだけどめちゃくちゃ格好いいトラックが出るんですよ。それをひたすら待つんです。何百小節ずーっと聴いて「ここだ!」っていうのをバーンと切り取って、そこをベーシックに曲を作っていく。そういうやり方を発見した。でもそのためには他の楽器も全部ズラさないといけない。というのも、何かが合っていると、無意識にそこに合わせちゃうので。歌もズレてなきゃだめだし、ギターもズレてなきゃダメだし、音程もズレてなきゃダメだし…っていう風に作っていくと、最終的に気持ちいいものになるんですよ。それがアルバムの随所にある。ぐにゃぐにゃした印象っていうのはそこなんです。タイム感があってないもの同士が共存している。

ーー「青春のホルマリン漬け」とかもそうですか?

スガ:そうそう。あれも、BPMを5〜6くらいズラして演奏しているんです。生楽器だから大変だったんですけど、その演奏をずっと聴いていって「ここ!」ってところを切り取って。真ん中はもっと大幅にトラック同士のテンポをずらしていって、音程もズラして、カオスにするという。

ーー不思議なのが、これまでのスガさんはそういうマニアックなことをやっちゃうと売れなくなるからってブレーキをかけていたわけですよね。でも、今回は小林武史さんがむしろアクセルを踏んでいる。しかも「今回は実験的なアルバムにしたい」みたいなオファーじゃなくて「最高傑作で集大成にしたい」だったわけで。しかもそれをちゃんと売れるものにしよう、と考えていた。ということは、ハミ出したものこそが逆に大衆性を持ちうるという確信や狙いがあった、ということですよね。

スガ:そうですね。かなり早い段階からそれは言われていたので、とにかくトンがったところと、スキャンダラスな、事件性のようなものでアルバムを作ろうっていうのは早い時期から言われていたから。小林さんの中では何か確信があったんじゃないかと思うんですよね。

ーースガさんはどうでした? そういう自分の中での事件性、ハミ出した部分っていうのが商品性や大衆性を持ちうるって。

スガ:いや、ないですよ。途中まではどんどんディープになっていくんで、「これ大丈夫かな、こんなアルバム」ってずっと思っていた(笑)。商品性どころか、誰得なの!?っていう不安はずっと残っていましたね。

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