金子厚武のプレイヤー分析

H ZETTRIO、fox capture plan、ゲスの極み乙女。……ジャズを背景に持つ鍵盤奏者がバンドシーンで活躍する理由

 また、上記のバンドたちの特徴と言えるのが、メンバー個々のルーツが必ずしも共通ではないということ。例えば、Yasei Collectiveならジャズを専門に歩んできた別所に対し、残りのメンバーはエアジャム世代であり、パンクシーンも通過してきている。また、fox capture planで言えば、クラブジャズシーンで活躍してきた岸本に対し、ドラムの井上司はポストロック系のバンドを歴任してきている。つまり、同じルーツのメンバーが集まるのではなく、ルーツはそれぞれ異なるが、その中の一部を共有しているメンバーが集まることで生まれる化学反応こそが重要なのだ。そして、こうした異なるジャンルの邂逅を生むために、ジャズの持つセッション性の高さが有効に機能しているのは間違いない。

 一方、ちゃんMARIをはじめ、メンバー個々がプレイヤーとして明確な個性を発揮しながら、最初からロックおよびJ-POPのシーンを舞台に活躍してきたゲスの極み乙女。に関しては、「ロックバンドのプレイヤー集団化」と言えるかもしれない。例えば、ジャンルはクラシックながら、東京藝術大学出身でピアニストを志していた成田ハネダをはじめ、音楽学校出身のメンバーが名前を連ねるパスピエも、近い立ち位置にいると言えよう。近年よく言われているように、フェスの現場が「いかに盛り上がるか」という価値観に偏り過ぎた状況に対し、個々のプレイヤーのスキルをはっきりと打ち出すタイプのバンドが、新たな流れを作っていくことも十分に考えられる。

 もちろん、ここで名前を挙げた各バンドの成り立ちはそれぞれ異なり、ひとつの枠で括ることはとても難しい。しかし、「ジャズ出身ミュージシャンのバンド化」と「ロックバンドのプレイヤー集団化」が双方向的に見られることは確かであり、プレイヤーとしての確かなスキルを持ちながら、バンドマンとしての顔を持った鍵盤奏者たちがそんなシーンのキーマンとして、これからさらに注目を集めることになるのではないだろうか。

(文=金子厚武)

関連記事