『日本ヘヴィメタル/ラウドロック今昔物語』第2回「メタルサイドから見たX JAPANの魅力」

メタルの視点から見た、X JAPANの功績とは? ディスコグラフィーと活動遍歴から改めて考える

 歴史的観点から面白いと思ったのが、ドイツから世界に向けて活動を本格化させていたHELLOWEENが日本で成功し始めたのもこの頃だという事実。マイケル・キスク(Vo)を選任ボーカルに迎えて制作された彼らの代表的アルバム『Keeper Of The Seven Keys Part 1(邦題:守護神伝 -第一章-)』『Keeper Of The Seven Keys Part 2(邦題:守護神伝 -第二章-)』が、それぞれ1987年、1988年にリリースされている。これらの作品での成功を機に、日本ではジャーマンメタルと呼ばれる「スラッシュメタルに匹敵するスピード感のメタルサウンドに、これでもかというほどにクサいメロディを乗せた」ドイツ産バンドが人気を高めていく。時にはアニメソングのようにわかりやすすぎるメロディがコミカルに映ることもあったが、BLIND GUARDIANやGAMMA RAYなどがここ日本でも人気を博した。細かなバンドの音楽的嗜好はそれぞれ異なるものの、総じて上に挙げたような特徴がたまたま日本人のテイストに合ったことが成功につながったと言えるだろう。

 これは偶然にもXが目指していた音楽的方向性と合致する。しかも単にスピードとパワーで押すだけではなく、美しいメロディのピアノバラードまであるのだから日本人好みじゃないわけがない。この方向性をさらに突き詰めたのが、メジャーデビュー作にあたる2ndアルバム『BLUE BLOOD』(1989年)だ。アナログからCDへと完全移行する直前に発表された本作は60分を超える大作で、限定生産されたアナログ盤は2枚組だったと記憶している。全12曲から構成されており、スラッシーなパワーメタルから独自解釈したロックンロール、シャッフルビートのブギー、フルオーケストラを導入したピアノバラード、そして12分近くもあるプログレッシヴな長尺曲まで揃った、聴きどころ満載の内容となっている。インディーズからのリリースだった前作は音質に難があったが、メジャー制作の今作はその点も多少解消されており、以降の作品に比べれば劣る部分はありつつも初期の勢いあふれる楽曲とどこか暴力的な匂いさえ感じさせる粗めのサウンドプロダクションとの相性は絶妙だ。このメジャーデビュー作は100万枚近いセールスを記録したほか、Xを日本武道館という大きな場所へと導くこととなった。

 『BLUE BLOOD』から2年数ヶ月後の1991年7月にはメジャー2nd、通算3枚目のアルバムとなる『Jelousy』がリリースされる。本作はロサンゼルスで録音されたこと、またHIDEやTAIJIといったメンバーの楽曲が増えたことが大きく影響してか、アメリカンな色合いが強まっている。とはいっても、YOSHIKIらしさ全開の「Silent Jealousy」「Stab Me In The Back」「Say Anything」もしっかり存在するのだが。ファンならご存知のとおり、当初『Jelousy』に加え、のちにミニアルバムとして発表される約30分もの組曲「ART OF LIFE」や、シングルで発表された「Standing Sex」「Sadistic Desire」との2枚組としてリリース予定だったが、制作が追いつかず『Jelousy』のみが先に発売されることとなったのだ。“ザ・YOSHIKI”の象徴である「ART OF LIFE」が外れたことで、彼のカラーが思っていた以上に薄くなってしまったのは仕方ないことだろう。

 とはいえこの『Jelousy』は国内メタル作品としては異例の、初週60万枚もの売上を記録し、のちに100万枚を突破。もはやメタルというジャンルを超越し、世間からはX自体がひとつの現象として捉えられ始めていた。その結果、彼らはついに東京ドームという大舞台に到達したのだ。こういった要素がセルアウトしたように映り、『Jelousy』はどんなに売れようがメタルファンからは毛嫌いされていたのかもしれない。しかし今あらためて聴くとそのサウンドのクリアさ、楽器の鳴りのバランス感が海外バンドにも匹敵するクオリティであることに驚かされるはずだ。この隙のなさもXならではの魅力と言えるのではないだろうか。

 そこからさらに2年を経て、大作「ART OF LIFE」がついに完成。この曲は制作開始からミニアルバムとしてリリースされるまでに、計3年7カ月を要したことになる。メタルの域を超え、とはいえプログレとも異なる完全にクラシックの組曲へと昇華された「ART OF LIFE」は1つの楽器パートのレコーディングに数カ月を要し、特にボーカルに関しては半年以上もかけたと聞く。いやいや、やりすぎだろ? と個人的には思ってしまうが、この「トゥー・マッチさ」こそがXが追求してきた音楽そのものなので、そういう意味ではこのエゴの塊のような作品はXの象徴なのかもしれない。なお、彼らはこのアルバムからバンド名をX JAPANと改め、海外進出を本格化させることになる。

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