『野村義男の“思わず検索したくなる”ギター・コレクション』出版インタビュー

野村義男が語る、ギターコレクターの心得「どんなギターにも、それぞれ全部に意味がある」

 

 300本を超えるギターコレクションを一冊にまとめた『野村義男の“思わず検索したくなる”ギター・コレクション』が6月25日に発売された。本書の登場に「待ってました!」と膝を打ったギターファンも少なくないのではないだろうか。希少なヴィンテージ・ギターから愛くるしいビザール・ギター、ちょっと奇妙な珍品ギターまで、300本を超えるギター・コレクションから伝わる、マニアの真髄とは? 「弾いて、集めて、改造して」と、止まることを知らないギター愛について、本人に語ってもらった。

※なお、同書に掲載されているギターの話については、<モデル名:掲載ページ>を参照。

「100万円のギターでも1万円のギターでも、買うときの覚悟は一緒」

──まずは、ギターを始めたきっかけからお聞かせください。

野村:姉ちゃんが、かぐや姫や風にハマっていて、アコースティックギターをやっていたんです。でも、当時の僕は隣の部屋でプラモデル作りに夢中。だから、最初は「ギター、うるさいな」というイメージだったし、エレキギターという存在も知らなかった。そんなある日、姉が従姉妹からギターを借りてきて、ギターが2本になったので、「ちょっとこっちへ来い」と呼ばれて。「僕、ちょっとプラモ作りで忙しいんだけど」って言ったんですけど、「いいから、Eマイナー押さえろ、指はココとココ」と教えられて。それが小学校5年生くらいのとき。そこからコードを2つ、3つと教えてもらって、音が変わる面白さを知り、次第に「姉ちゃんの知らないうちにギターがうまくなりたい」と思うようになった。部活で学校から帰ってくるのが遅いときに、勝手にギターを出して弾く、みたいな感じでした。

──そうして次第にのめり込んでいき、エレキギターに出会うわけですね。

野村:中学生のとき、好きな女の子がいて、その子がCharのファンだったの。彼女は当時、流行ってた透明の下敷きに写真を挟んでいたんです。Charの髪は長くて、ペラペラの薄いボティで色の付いたギターを持っている。「僕の持ってるデカくて、穴が開いてるギターとは違うぞ」と思って、ギターを弾いている友達に「これ誰?」って聞いたら「Char」って教えてくれて。とりあえず(Charの音楽を)聴いてみたら「エレキギターって面白い、これはすごいぞ」と。そこからエレキギターに興味が湧いて、本や雑誌を読むようになり、テレビの音楽番組でも、歌っている人よりも後ろで演奏している人を見るようになった。いつのまにか、プラモデルも作らなくなっていたし、それよりも面白いもの見つけちゃったという……。そしたら今、こんな感じです(笑)。

──300本以上集めてしまった。

野村:いや、集まっちゃっただけなんで(笑)。

──野村さんの場合は、ギタリストのプレイはもとより、ギターという楽器そのものの魅力にとりつかれたという印象を受けます。

野村:そうそう、今でも弾かないで済むなら、弾かないほうがいいなぁ。ギターが好きなんで。ギターは見ているだけでもいいじゃないですか。綺麗だし。

──この膨大なコレクションの中で、自慢の1本、特に思い入れの強いギターというと?

野村:やっぱり最初に手にしたギターかな。アリアプロIIの24,800円 <Aria Pro II Stagecaster ST-400N:P12-13> は命懸けで手に入れましたからね。中学二年のとき、お金がないから「後で払う」ってことにして、ギター屋さんから勝手に家に持ち帰ってきた。「死ぬまで使うから!」と親に泣きすがって。半年後にはもう1本増えてましたけどね(笑)。そのときに言った「一生、ギター弾き続ける」だけは守ってますけど、「このギターを一生弾き続ける」は守れませんでした。これだけ本数があると、ギターのほうが順番待ちだし。

──高価なヴィンテージものから、比較的手に入りやすい価格のモデルまでありますね。

野村:希少価値や値段が高いものだけが好きなわけではなくて、安いものまで含めて全部が大好きなんです。お土産用のウクレレだって、どっかの南の島でおばちゃんが作っているわけでしょ? それと、レオ・フェンダーが最初に作ったブロードキャスターも、同じレベルで好きなんです。量産型の安いギターでもそれぞれ全部に意味があるという考え方で、高く評価されているギターが一番だとは思っていないんです。だからこれだけギターが集まっちゃったのかもしれない(笑)。でも、100万円のギターでも1万円のギターでも、買うときの覚悟は一緒ですから。

──ギターを買うときの基準はどういったものでしょう?

野村:一目惚れ。ほとんど衝動買いで、計画的にギターを買うということがない。手に入れてから、「支払いどうしよう?」って考えるタイプです(笑)。出会ったその日に買わないと、次に会うことはないですから。

──たしかにギターとの出会いって、運命的なところもありますよね。

野村:そうそう。去年、ロサンゼルスに行ったときに、ギターセンター(※全米250店舗以上を展開する世界最大規模の楽器店。LAハリウッド店はギター好きの殿堂)に行ったんです。そこで、写真でしか見たことのない、すごく珍しい50年代のダブルネックが手頃な価格で売られていて。でも、1軒目だったこともあって、あの辺にはほかにも楽器屋やポーンショップ(質屋)があるから、ひとまずはほかの店を閉店時間まで隈なく回ったんです。そして宿に戻り「よし、明日あのダブルネックを買うぞ」と意気込んで、次の日に朝一で行ったのですが、もう無かったんですよ。そういうことを40年もやっていると、「お小遣いが貯まったら買いに行こう」なんて考え方では、完璧にアウトだということに気付くんですよね。

──なるほど。でも、これだけの数があると、手入れや管理も大変ではないですか?

野村:いや、全然。弾いちゃいけない人たち(ヴィンテージ・ギター)がいますから。やっぱりギターは消耗品だから、弾けばキズも増えるし、フレットも減る、ピックアップの磁力も落ちる、という風に劣化していくんで。何十年も状態を保たれていたものが、僕のところへ来てボロボロになってしまっていいのかなって考えると、そのまま手をつけずに保存する場合も多い。次の世代に継承しなければならない世界遺産ですから。綺麗な状態を保つために、塗装や金属パーツを全部拭いてあげるので、1本しまうのに大体2時間くらいかかりますけどね。この撮影のために4〜5年ぶりに出したギターもあるんだけど、みんな綺麗な状態だったでしょう?

編集部:でしたね。

野村:その辺はみんな勘違いしていて、「全部の弦を張り替えるの大変ですね」という人もいるんだけど、張り替えないですよ。弦を緩めたりもしない。ネックは弦の張力でベストな状態を保っているので、湿度管理とか環境がちゃんと整備されたところにしまってあげればいいだけ。逆に弾くために手に入れたギターたちはとことん弾きますけれど。

──弾くためのギター、仕事用のメインギターはどの辺を手にすることが多いですか?

野村:大抵、PRSが多いです。特に白いヤツ <Paul Read Smith Swamp Ash Special "White Bird”:P101> と、Ultra-Qの1号機 <Paul Read Smith CE-22 "Ultra-Q" No.1:P104> 。PRSは本当に素晴らしいギターで、環境、天候関係なくバランスが良いです。雨の中で弾いたらさすがにダメだったけど(笑)。デリケートなギターたちと比べて、仕事でどこに持ち歩いても何の不安もない。フェンダーっぽい音も出るし、ギブソンっぽい音も出る。良いギターだったんで、気がついたら買いすぎちゃって……。以前は、この倍くらいの数があったんですけどね。

──この“Ultra-Q”の塗装(※クルーズ・マニアック・サウンドが一時期行っていた特殊な塗装で『ウルトラQ』のタイトルバックを思わせるため、そう呼んでいる)を始めて見たときは衝撃を受けました。

野村:これはどうしてもやってみたくてね。出来上がったものをクルーズの店頭(現・フーチーズ)に3本飾っていたら、ポール・リード・スミス本人が来店したんです。すでにポールがこのギターの存在を知っていたみたいで、「サインしたい」と、ヘッドの裏に勝手に書いていったんですよ。彼のサインが入ると、“プライベートストック(※極上の木材を使い、オーダーで作られる同ブランドの最高峰モデル)”になっちゃうから、本当は書いちゃいけないはずなんだけど(笑)。

──ビザール感というか、B級っぽいギターもお好きですよね。

野村:そうですね。珍しいギターを手に入れたいという人には、「今、一番人気のないギターを買え」と言っています。人気がなければないほど、生産年数も短く製造本数も少ないから、後で探しても絶対に出てこない。ストラトキャスターやレス・ポールといった王道に憧れる人たちには踏み込めない領域でもあるんですけど。たとえば、ギブソンのメロディー・メーカーね、キますよ〜(笑)。実際に、この3ピックアップ仕様 <Gibson Melody Maker III Sparkling Burgundy 1967:P63> なんて、ビックリするくらい高くなっているので。重厚感のあるレス・ポールと比べると、なんかかわいいじゃないですか。

──わかります。僕もカラマズー <Karamazoo KG-1:P92> とか持ってるんで。

野村:カラマズーはキませんよ。

──僕のは赤なんですけど……。

野村:赤は1番本数が多いからキません(笑)。

──(一同笑)

野村:でもかわいいよね、キッチュな感じが。

──そういうビザール趣向と実用性の中で生まれたのが、フェルナンデスの野村義男モデル<Fernandes YN-85:P46>だと思うのですが。これ、実は僕も欲しくて、中古やオークションなどをよくチェックしているのですが……。

野村:高いですよね!? もう作ってないから、もうちょっと欲しいなと思って、僕もチェックしてますけど、高くて買えない。自分のモデルなのに(笑)。

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