『ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事』を囲む鼎談

稀代の名ドラマー、ジェフ・ポーカロの参加作をどう味わうか 評論家ら3氏が語り合う

左から村山貞雄氏、小原由夫氏、山村牧人氏。

 今年発売された書籍『ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事』(DU BOOKS刊行)が熱い。

 本書は、稀代の名ドラマーであるジェフ・ポーカロの参加作505枚を紹介する渾身の一冊だ。ジェフは1992年に38歳という若さで亡くなってしまったものの、その功績は計り知れない。TOTOのドラマーとしても、セッション・ミュージシャンとしても数え切れないほどの名演を残し、今もドラマーのみならず多くの音楽ファンを魅了している。

 そんなジェフの参加作をほぼ網羅したという本書。執筆はオーディオ&ビジュアル評論家の小原由夫氏によるもので、505枚それぞれについて聴きどころを検証し、考察を施している。さらに重要作については、ドラマー/インストラクター/ライターの山村牧人氏が、ドラマー目線のプレイ分析を実施。多角的な視点でジェフの魅力を掘り下げているのも、本書の大きなポイントだ。

 本書が今年2月に発売されると、その反響は大きく、すぐに重版が決定。そこで今回、話題沸騰中の本書についてお話を聞くべく、著者のお二人と制作を全面的にサポートした村山貞雄氏(株式会社ポーカロ・ライン代表取締役)にお集まりいただき、鼎談を敢行した。

 前編では、制作の経緯や執筆の背景、そして本書の楽しみ方について語っていただいた。そのお話は、リスナーとして音楽に向き合う姿勢についても、深い示唆を与えてくれるものだ。(大久保徹)

「当初は、僕の会社にジェフ・ポーカロ好きが集まる小さなものだった」(村山)

――まず、あらためて本書を制作した経緯についてうかがえますか?

小原由夫(以下、小原):そもそものきっかけという意味では、私たちの業界関係者の好きものでやっている“ポーカロを聴く会”という集まりが発端です。僕がそこに参加させてもらったのが、4年くらい前。会そのものはそれ以前からあって、村山(貞雄)さんを中心に、5人くらいで構成されていたんです。

村山貞雄(以下、村山):当初は、僕の会社にジェフ・ポーカロ好きが集まって、音楽を聴きながらお酒を飲んで、「こんなジェフのプレイがあったよ。知ってる?」みたいなことを言い合うという、小さな集まりだったんです。

小原:村山さんが僕の仕事場に製品のデモで来たとき、その会の話を聞いたんですね。そこで「ここのオーディオ・システムでジェフのプレイが聴けたらいいな」とおっしゃるので「やりましょう!」と。僕も結構ジェフ(の参加したレコード)を持っていましたから。それで僕もどんどん面白くなって、めずらしいレコードなんかも集めていったんです。その後、暑気払いを兼ねて蒲田に集まったとき、誰かに「そんなに集まったのなら、いっそ形にしてみたら?」と言われて。その話はその場で終わったんですけど、家に帰って寝床についたら、何だかいろんなアイディアが頭に浮かんできまして。翌日企画書の雛形を作って、後日村山さんたちにも見てもらったりして形にしたんです。“よし、これでどこかの出版社に持ち込もう”ということになったのが、2013年の秋でした。1社目はダメだったんですけど、2社目が(今回の本を刊行した)DU BOOKSで。最初に手応えは感じていたんですけど、正式にやりましょうという連絡をいただいたのは、まさにクリスマスの日でしたね。で、この本のキー・ポイントとして、ドラマーによる奏法解説を考えていたんです。それを当初は村山さんにやっていただこうと思っていたんですよ。まがりなりにもドラマーだし(笑)。

村山:まがりなりって、ちょっと失礼なんじゃない!?

山村牧人(以下、山村):何より、ジェフのファンですからね。

小原:そうです。でも、「自分には書けないよ」って言うんですよ。「それだったら、もっと適任がいる」ということで、山村さんを紹介していただいたんです。初めてお会いしたのは、年明け(2014年初頭)でしたっけ?

山村:そうですね。まだ寒い時期でした。

村山:ドラマーから見た側面についての解説を、この本のひとつの大きな売りにするには、名もないアマチュアのドラマーが書いても意味がないですからね。やはり実績のある人に書いてもらわないと説得力がないので、山村さんに頼んだわけです。

小原:「アカデミックな視点で書けて、なおかつドラマー目線で総合的に分析するということになると、そうした方がいいんじゃない?」というお話が村山さんからあったときには、確かにと思いました。それで会いに行って、「全部で(アルバムを)500枚くらい紹介するけど、(山村氏が書くのは)そのうち100枚くらいでしょうか」という大雑把なお話をしたわけです。最初は“うーん”という感じで難しそうな印象を受けたんですけど、いろいろ話をしているうち、「じゃあ、やりましょう」ということになって。そこでこの本の体制が整ったんです。

ジェフ参加曲の検証で使われたジャッジ・シート。

――この505枚に決まった経緯について教えていただけますか?

小原:もともと500枚ほどで目処をつけていたんですけど、あるとき505枚にしたいと思ったんです。それには理由がありまして……“TOTO”って、「とうとう」つまり、”イチゼロイチゼロ= “1010”のになるじゃないですか? その半分ということで“505”にしたんです(笑)。非常にくだらないネタですけどね。でも、今は(新たに入手したジェフの参加作が)10枚くらい増えたかな。もし、増補改訂版を出せるなら、515〜520枚くらいにはできると思います。

――まだまだ見つかっているんですね。

小原:見つかりましたね。本を書いた後にもいろいろ調べていったんですけど、まだ誰も言及していないようなアルバムもあったりします。ただ、買った中には騙されたものもあって、ジェフ・ポーカロが入っていると紹介されていたけれども、実はジョー・ポーカロだったりとかね(※1)。

(※1)ジェフの実父。スタン・ゲッツ、ジェリー・マリガン、フランク・シナトラらのレコーディングに参加した名ドラマー。

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