「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第9回 武藤彩未『OWARI WA HAJIMARI』

武藤彩未、ワンマンで予感させた“終わり”と“始まり” 2015年に向けた変化の兆しとは?

 アンコールでは、武藤彩未はまた衣装を替えてきた。ライヴ前の囲み取材で「歌だけではなくファッションでも自分の殻を破っていきたいです」という主旨の発言をしていたのだが、今日の衣装を実際に見て納得した。ウィッグをつけた武藤彩未が着るのは、可愛らしくも視覚的に新鮮な衣装ばかりだ。

 そしてここで大きな発表がふたつ行われた。まず、セカンド・アルバム『I-POP』が2015年2月25日に発売されるという。「愛されるように『I』」「I am popの『I』」「アイデンティティの『I』」「アイドルだから『I』」とそのタイトルの由来が述べられた。

 さらに、19歳の誕生日である2015年4月29日に渋谷公会堂でワンマンライヴが開催されると発表されると、ファンからは大歓声が起きた。武藤彩未はステージ上で触れなかったが、チケット代も19歳にちなんで1900円、しかも税込価格という大胆さだ。囲み取材で武藤彩未は「自分で言うことじゃないんですけど」と笑いながら「この小さい身体で、それをステージ上では感じさせないパフォーマンスをできたらと思います」という主旨の発言をしていた。彼女ならきっとそれも実現できるだろう。

 アンコール1曲目は、この日のワンマンライヴのタイトルを冠した新曲「OWARI WA HAJIMARI」。蓋を開けてみると、ギターがうなるハードなロックナンバーで驚いた。それはライヴのタイトルにあった不穏さを一気に吹き飛ばすような爽快さだ。そして彼女が歌い続けてきた「永遠と瞬間」「女神のサジェスチョン」と続き、特に「女神のサジェスチョン」の演奏は2014年の締めくくりにふさわしくパワフルであった。

 名残惜しそうにBGMで踊った後、肉声で「皆さん良いお年をー!」と叫んでステージを去った武藤彩未だったが、アンコールは止まらずセットリストにもない予定外の2度目のアンコールへ。「OWARI WA HAJIMARI」が再び演奏されたのだが、荒ぶるnishi-kenのキーボードをスタッフが2人がかりで支える場面もあるなど、バンドがまさにロックバンド然とした激しいプレイを聴かせた。

 この1年での武藤彩未の成長については前述した通りだが、特筆したいのはセカンド・アルバム『I-POP』に収録される新曲群たちだ。特にEDMの「パラレルワールド」、ハードなロックの「OWARI WA HAJIMARI」には意表を突かれた。武藤彩未には『DNA1980 Vol.1』『DNA1980 Vol.2』という2枚の80年代アイドル歌謡のカヴァー・アルバムがある。それに続くオリジナル曲によるデビュー・アルバム『永遠と瞬間』もまた80年代アイドル歌謡のエッセンスをいかしたものだった。

 しかし、おそらく武藤彩未は『I-POP』でメインストリームへ行くために、その路線から遂に踏み出していくのだろう。この日のライヴが「OWARI WA HAJIMARI」と題されていたのは、そうした意味でもあったに違いない。2014年までの武藤彩未の終わりと、2015年の新たな武藤彩未の始まりを予感させるのに充分なワンマンライヴだった。

 

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■リリース情報
『I-POP』
発売:2015年2月25日リリース

■ライブ情報
「BIRTH」
2015年4月29日(祝・水) 渋谷公会堂

■オフィシャルサイト
http://www.mutoayami.jp/

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