FORWARD・ISHIYAのアメリカツアールポ 第1回
一般家庭のリビングでライブも……現役パンクロッカーが米国ツアー最新事情を報告
いろんな人種が、同じ音楽と同じ時間を共有する素晴らしさ
基本的にアメリカのPUNKS達は若い。10代から20代が多く、30才以上になるとその数はグンと減る。日本のように40代〜50代の人間がシーンで活躍している事は少ない。中には世界的に有名なアンダーグラウンドPUNKシーンでそういうバンドもいるが、かなり珍しい存在といって良いだろう。
そのためオールエイジと呼ばれるどんな年齢でも入れるライブが行われ、その場合には21才以下へのアルコールの提供は行われない。アメリカはアルコールに関して厳しいので(屋外での飲酒禁止等)バーやライブハウスなどの入場時にはIDチェックが必ずある。オールエイジショーの場合はバーなどのない場所(教会や倉庫、バーのない低料金で借りられるレンタルスペース等)で行われる事がほとんどだが、今回初めてバーのある場所でのオールエイジショーを体験した。
バーのあるスペースとないスペースが仕切られており、行き来が出来ないようになっていて入り口も別々。しかし仕切りがステージの目の前にあるため観客席が真ん中で真っ二つに別れているという珍しいものだった。若い客層と酒の飲める客層の反応は違うので、客席の真ん中でノリが分かれるという奇妙なライブだった。
日本のPUNKのライブならば髪の毛を立てている人間が少なからず居るものだが、アメリカのシーンではあまりいない。そういう髪型をしているバンドのライブならいると思うが、筆者が廻ったシーンでは殆ど見受けられず、筆者が珍しい目で見られていた事もあった。
ファッションなども、革ジャンやGジャンに鋲を打ち、リストバンドや鋲ベルトにブーツといった、いわゆるクラストスタイルの若いPUNKSもいれば、ハーフパンツにスニーカーとTシャツといった普通の格好まで様々。
人種も雑多のため、ライブをやる場所や地域によって客層も違い、メキシカンが多い街、黒人も来る街、インディアン系が来る街、白人しか来ない街、ヨーロッパ系の移民が多い街など様々だ。街の中でも地域によって客層が変わるので、そういったところも楽しみのひとつだ。いろんな人種が同じ音楽と同じ時間を共有し、楽しめるのは素晴らしい事だと思う。日本では時々、壁の花になるしかないライブもあるが、アメリカは非常にフレンドリーなので色んな人間が話しかけて来るし、すぐに仲良くもなれるので退屈する事はないだろう。そうやって仲良くなった人間が、10年後のライブでまた再会したりする事もあるので面白い。10年前にはまだ子供だったPUNKSが、すっかり大人になって再会してビックリするなんて事もある。そうやって繋がり合う事は何にも代え難い大きな財産だ。
アメリカなどの海外PUNKシーンでは今も昔もレコードが主流
日本では作品となるとCDが主流だが、アメリカPUNKシーンではレコ−ド盤が主流だ。PUNKのレコード屋に行ってもCDは無く、レコード盤とカセットテープしか置いていない。ダウンロードが主流の現在の音楽業界において、作品としてのレコードの価値が見直されて来ている昨今だが、アメリカなどの海外PUNKシーンでは今も昔もレコードが主流なのだ。
CDを物販として持って行ってもほとんど売れずにレコードだけが売れて行く。シーンによる違いもあるだろうが、アメリカアンンダーグラウンドPUNKシーンでは10年前も今も変わらない。そのためアメリカで発売する作品は全てレコードになる。昔と変わったところと言えば、カセットテープが何年か前から流行り出したところと、DVDではなくVHSのビデオが最近になり見直されているところだろう。
バンドの環境においては、最初の方でも書いたように、日本のように1時間いくらでスタジオ料金を払うのとは違い、アメリカのバンドは機材を持ち、練習場所も確保している。ひと月ごとのレンタルでも、自宅地下室でも練習はやりたい時にやりたいだけ出来る。毎回どこの場所にでも自分の機材を持ち込んでライブをやるため、いつでも自分達の音を出す事ができる。日本のようにスタジオとライブハウスで、アンプやドラムセットが異なるという事もない。日本は日本で、どんな機材でも対応出来て、最高な音・パフォーマンスが出来る質の高いライブハウスが多いが、日本・アメリカどちらにせよ、多くの経験をしないといつでもベストなパフォーマンスをするのは難しいことだ。
ライブのリハーサル、いわゆるサウンドチェックもなく(たまに行うバンドもいるが)ライブは行われる。本番の直前にステージ上で音を出し、マイクとのバランスチェック、モニターがある場合モニターチェックなどを行い、そのまま本番に突入するのだ。サウンドチェックをするとすれば、それはあくまでもPAのためのものである。ライブというものを行う上で、バンド側はいつでも完璧なパフォーマンスや演奏が求められるのだということを改めて思い知らされる。しかし、バンドがちゃんと自分達のパフォーマンスをやれば、PAもそれに合わせてやってくれる。お互いがプロフェッショナルである事が求められ、それが融合するからこそ素晴らしい時間がそこに生まれるのだ。それがどう観客に伝わり、どんな反応があるのか? ライブやツアーをやる醍醐味とは、まさにそこにあるのではないかと思う。
■ISHIYA
アンダーグラウンドシーンやカウンターカルチャーに精通し、バンド活動歴30年の経験を活かした執筆を寄稿。1987年よりBANDのツアーで日本国内を廻り続け、2004年以降はツアーの拠点を海外に移行し、アメリカ、オーストラリアツアーを行っている。今後は東南アジア、ヨーロッパでもツアー予定。音楽の他に映画、不動産も手がけるフリーライター。
FORWARD VOCALIST ex.DEATH SIDE VOCALIST