在日ファンク・浜野謙太、“大人の意思表示”を語る「他の音楽よりも怒ってる自信がある」

 

「大人だってもっと怒っていい」

――「在日ファンク」という名前にも表れていると思いますが、 洋楽志向とは違う、独自のファンクを追求するということですね。

浜野: そうですね。いつだったか「ファンクはレベルミュージックだから、そんなにおちゃらけた歌を歌っちゃダメだ」と言われたこともあるんですけど、僕らはこんな歌詞でも、他の音楽よりも“怒ってる”自信があるんです。そういう意思表示としてのファンクというのもあって。「俺らファンクだし、もっと理屈っぽいこと言ってもいいんじゃないか!」とは思っています。

――確かに、随所に社会的な事象を連想させるキーワードが散りばめられています。

浜野: でも、「社会派だ!」みたいに言われちゃうのは嫌だなって。こういうの、海外のアーティストはどうしてるんですかね?(笑)。よく「海外と違って日本って平和じゃん」という話題になることがあるんですけど、それって飼い慣らされてるだけのような気もして。例えば、テレビがお笑いに偏っているのもそう。本当はエンターテイメントってもっとバラバラで、政治が介在したりしているじゃないですか。でも、みんなテレビばっかを見ているし、みんな同じようなことをしていれば平和が保たれていると思ってる。だから、ちょっとでもKY発言をすると、一つになれない非国民め! ってなっちゃう。そういう風潮はどうかと思うんですよね…。

――ファンクにおいては、Pファンクの「One Nation Under A Groove」みたいな思想があります。浜野さんが言う「今の日本におけるつながり方」と、ファンクが目指す連帯は違いますよね。

浜野: 僕も最近結婚して、子どもができました。そうなるとだいたい「大人になっちゃったよね。ハマケンも落ち着いちゃうんだ…」なんて言われるんです。でも、それはくだらない思い込みです。落ち着く=大人となってしまってる。それって上の世代が作ったくだらないセオリーじゃないですか。そのせいで、みんなが思ってる「怒り」とか「音楽」って、子どものためのものになってる気がするんです。でも大人だってもっと怒っていい。完成したアルバムを聴いたときに「あ、これが大人の怒りだ!」って思ったんです。

――なるほど。ただ、俳優でも活躍中の浜野さんは、そのタレント性でいまや引く手あまたなわけですよね。その中で、在日ファンクの位置づけとは?

浜野: 怒りを出したい、今の自分を表現したい、という場ですね。ほかのいろいろな活動に関しては失敗することもたくさんあって、反省することが多い(笑)。その結果として、バンド活動の時間を圧迫してしまっているんですけど、刺激を受ける部分は本当に大きいから、メンバーには「自分の表現活動にとっては重要だから」と伝えて納得してもらっています。メンバーも良い仕事は良いと言ってくれますし、「あれはかっこ悪い」とか「あの仕事はない」と指摘を受けることもあります。

 

「落ちこぼれやヤンキーじゃないやつらの方が、不条理を抱え続けている」

――メンバーのみなさんも、リーダーである浜野さんをシビアに評価していると。

浜野: 自分もアイデンティティをひとつにしたいという欲のようなものがあって、「在日ファンクじゃない仕事はやらない」「在日ファンクじゃない服は買わない」という思いはあるんですよ。それで、最近「俺は在日ファンクになりたい」という声明を出して、みんなから「ん?」と言われたんですけど(笑)。他のバンドに関しても、在日ファンクのメンバーが見に来てくれた他のライブがあって、そこで僕は大人しくしてたんです。「在日ファンクでは怒るけど、ここでは良いサウンドを作る」という風に空気に馴染んでいたんですが、後でメンバーから「あのハマケン、めちゃくちゃかっこ悪かったよ。もっと掻き乱してくれよ! あれをリーダーなんて思いたくない」って言われてしまって。

――すごいツッコミですね(笑)。

浜野: ガンガン言いますからね。どんな場においてもフル回転して、刺激的な立ち回りをしないと、自分自身にも刺激が返ってこないんだと気付きました。

――そういった意味では、ある価値観を共有しているという点で、在日ファンクは共同体として機能してますよね。

浜野: 好きな音楽はバラバラなんですよ。でも、みんな考えることが好きで、それぞれ型にハマっていきそうな真面目さがある優等生タイプなんです。僕が『鈴木先生』っていう映画に出演させていただいた際に、原作を読んで共感する部分が多かったんです。クラスの落ちこぼれやヤンキーって目に掛けられるし、社会に出てから学校に遊びにきたりするけど、僕みたいな人間は、そういうところに行きたくないし行けない。「おう、先生!」なんて言えないですよ(笑)。そういうやつらの方が、悩みがあるし、不条理をなんとなく抱え続けてるんですよね。僕もたまに「リア充」って言われると「ああ、そうだよ」って思うんですが、一方で「なんだこれは? お前ら、俺に対して優越感を持って『リア充』って言ってないか?」という考え方になるときがあります。

――なるほど、ヤンキーでも落ちこぼれでもない人たちにとっての「怒り」の共同体というのは面白いコンセプトですよね。ただ繰り返しますが、メジャーデビュー以降は、ますますテレビからの出演依頼も増えそうです。

浜野: この間、広末涼子さんとドラマでご一緒した際に、僕は話しかけれなかったんですが、広末さんのほうから「爆弾、こわーい」って言ってくれたんです! 『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』(テレビ朝日系)に出演した際も、脚本家の金城一紀さんに「『はやりやまい』って曲が好きです」って言ってもらったり、話題に挙げてくれる現場の方が最近、増えてるんですよ。共演者が在日ファンクとして認識してくれてることが多くなってきたので、やっぱり俳優業も在日ファンクとして音楽に昇華しなきゃいけないと思います。僕はミュージシャンとして活動し始めてから役者としてオファーをもらっているので、何かを判断するときに「映画はミュージシャンでいうところのレコーディングなのかな。監督はバンドリーダーかな」とか、ミュージシャン的な考え方になるんですよね。

 不器用だし、役者道を極めない、ずるい立場に自分を置けるからこそ、どっちにもフィードバックができる。極めすぎず、「どちらも面白い」と感じることが最高じゃないですか。惰性になってきたらやめた方がいいと思いますし。すごい役者の人に「え、役者じゃないの!? ミュージシャンとは思えない!」って言われると、してやったりですね(笑)。

――ミュージシャン兼俳優の系譜といえば、泉谷しげるさんあたりが先駆者ですよね。

浜野: そこまでいけたら最高ですね! 役者さんを見ていると、「器用になるのはイヤだな」って感じるんです。主役をやるような人ってだいたい、器用じゃない何か、器用さを超えるオーラがあるというか。そういう意味ではミュージシャンっぽい感じが出ると最高だなって。泉谷さんも、彼がやってる音楽を知らなくても、「あ、何かやってるんだろうな」って思ったりするじゃないですか。そこらへんが素晴らしいなと思います。その位置まで在日ファンクが行けたら――「すごいディープな音楽やってるらしいよ」ってお茶の間に言ってもらえるようになりたいですね

(取材=神谷弘一)

■リリース情報
『笑うな』
発売:2014年9月3日(水)

価格:初回盤(CD+DVD)¥3,500+税、通常盤(CDのみ)¥2,800+税、アナログ盤¥3,200+税

<CD収録内容>
1.大イントロ
2.根に持ってます
3.ちっちゃい
4.脈
5.不甲斐ない
6.場
7.パラシュート
8.恥ずかしい
9.断固すいません
10.産むマシーン
11.笑うな
12.百年

<アナログ盤収録内容>
・SIDE A
1.大イントロ
2.百年
3.根に持ってます
4.場
5.脈
6.不甲斐ない

・SIDE B
1.ちっちゃい
2.産むマシーン
3.パラシュート
4.恥ずかしい
5.断固すいません
6.笑うな

<DVD収録内容>※初回盤のみ
「根にもってます」Short Movie(監督:荻原健太郎)、Making Movie  
「在日ファンク【所信表明】コメント」Long Version(監督:山岸聖太)
※メンバーによるオーディオコメンタリー付き

■ライブ情報
在日ファンク 『笑うな』発売記念ツアー
10月4日(土)福岡 BEAT STATION 
10月5日(日) 広島 NAMIKI JUNKTION 
10月12日(日)梅田 CLUB QUATTRO 
10月13日(月祝)名古屋 CLUB QUATTRO 
10月18日(土)高松 DIME 
10月19日(日)京都 MUSE 
10月25日(土)松本 ALECX 
10月26日(日)金沢 AZ 
11月1日(土)仙台 CLUB JUNK BOX 
11月2日(日)新潟 GOLDEN PIGS REDSTAGE 
11月8日(土)盛岡 CLUB CHANGE WAVE 
11月9日(日)秋田 CLUB SWINDLE 
11月14日(金)札幌 PENNY LANE 24 
11月16日(日)東京 EX THEATER ROPPONGI 

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