サカナクションがファットボーイ・スリム来日公演に出演 小野島大が彼らの「ダンス志向」を読む
「最近四つ打ちを取り入れるバンドが多くなっていますが、どうしてもダンスミュージックのファンが求めているグルーヴとは違う音になってしまう。サカナクションはそうしたファンも満足する音にきちんと落とし込んでいるし、映像や音響などの演出も含め、ライヴをひとつの非日常な体験として作り上げていこうという明確な意思がある。山口一郎というミュージシャンについては『10,20年前ならミリオン売れてた』なんて声も聞きますが、彼自身は『一時的に100万枚売れてダメになるよりは10万枚売れ続ける方がいい』と語っていて、クレバーな理論家だなと思います。ここ最近の発言やパフォーマンスも、いずれ実現を目指す“サカナクション主催のレイブパーティ”に向けての種蒔きでしょう」
また、同氏は10月に実施されるファットボーイ・スリムとの共演が、サカナクションに新たなエッセンスを加える可能性があると述べる。
「サカナクションのダンス・ミュージックは、ファットボーイ・スリムやベースメント・ジャックスのような徹底的な享楽性、つまり『とにかく理屈抜きで楽しもう、遊ぼう』という快楽主義の姿勢とはやや異なります。もっと文学的だし理論もあるしソング・オリエンテッドですね。とはいえ、ファットボーイ・スリムももともとロック畑から出てきた男だし、共通点はある。そういう意味でサカナクションがファットボーイ・スリムの快楽的なパフォーマンスを見てどう思うか、どう感じるか興味深いですね。ある意味でサカナクションの今後に影響を及ぼす共演になるかもしれません」
最後に、サカナクションのファンにはこの光景を楽しんで欲しいと同氏は語った。
「洋楽主体のライブに邦楽アーティストが出ると、邦楽のアーティストだけを目当てに来る人も目立ったりする。サカナクションのファンはそうではないと思うが、バンド自身も、自分たちだけを見るのではなく、ファットボーイ・スリムもスティーヴ・アオキも見て、ダンスミュージックの楽しさを知って欲しいという意味で今回のライブがあるはず。フラットな気持ちで楽しんでみるのがいいのではないでしょうか」
今回の共演は、両者にどんな化学変化をもたらすのだろうか。ひとまずは10月の公演に期待したい。
(文=中村拓海)